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インバウンドの大きな潮流「高付加価値旅行者」を掴もう

インバウンドの大きな潮流「高付加価値旅行者」を掴もう

インバウンドの大きな潮流「高付加価値旅行者」を掴もう

訪日旅行再開の動きが本格化するなか、注目が集まっている「高付加価値旅行」。2022年5月には、観光庁が「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりに向けたアクションプラン」を策定し、各地で高付加価値旅行者誘致へ向けた機運が高まっています。本記事では高付加価値旅行とはどんな旅行を指すのかという基礎的な情報から、誘致に向けた考え方、取り組む意義、またJNTOが今後果たす役割などについて、市場横断プロモーション部市場開発グループ マネージャー代理 松田景子がお話します。

知的好奇心が旺盛な高付加価値旅行者

―まず「高付加価値旅行」とはどんな旅行を指すのか教えてください。

JNTOでは、高付加価値旅行者を「訪日旅行1回あたりの総消費額が1人100万円以上の旅行者」と定義しています。ただ、高付加価値旅行は、単純に高額消費をすることではないと考えています。高付加価値旅行にはどんなものが求められるかというと、これは一般的な旅行と同様に、異文化に浸り、おいしいものを食べ、美しい自然を見るなどしてリラックスすることは大前提としてありつつ、「旅行する意味」がより強く求められる傾向があります。

この「旅行する意味」には、利己的な視点と利他的な視点があり、前者は、例えば、旅行することで学びがあったり、自分の内面が豊かになったり、自分が変わる体験・経験だったり、その後の人生の資産になるような経験を旅行者は期待しています。

一方、利他的な視点で見ると、訪問先の環境の改善や、社会・文化の発展に寄与することも重視します。高付加価値旅行者は、日頃から慈善活動や社会に対するインパクトへの感度・関心が高く、旅行に対しても同じように能動的になれるものを求める傾向があります。このような旅を求めることは、必然的に訪問地の歴史や文化の成り立ち、自然との関わり、そしてそれらを守ってきた地域の人々の取組を深く知り、共感することに繋がります。

高付加価値旅行者_画像2

そのため、高付加価値旅行者は、美しく造作された完成形や表面的なプレゼンテーションでは満足せず、そこに至るまでのプロセスを知りたがる傾向が強いです。なぜこの場所でこの文化が生まれ、どんな人々がどのように関わって現在に至っているのかを知り、実際に体験し、それを担う人々に会って話を聞きたがる。

一般に、高付加価値旅行にはストーリーが必要、高付加価値旅行者は知的好奇心が強い、と言われるのは、このような理由からだと考えています。このような旅行を実現しようとすると、地域のことを熟知した人材によるコンサルや特別な手配が必要となります。その結果、高額消費に繋がるというイメージです。

―市場によって、旅行に求める傾向に違いはありますか?

市場による違いよりも、年代による違いがより大きいように感じています。これは高付加価値旅行に限ったことではありませんが、サステナブル・ツーリズムや、リジェネラティブ・ツーリズム(訪問地の環境の改善や、社会、文化の発展に寄与するような旅のありかた)への関心は、若い人たちの方が非常に高いです。

「若い人たちが高額の旅行をするのか?」と思われるかもしれませんが、最近は、特にアジアからの若い訪日旅行者に高付加価値旅行者が多く見受けられます。また、年齢が下がるほど、興味の範囲が広く、旅行で様々な体験をしたいという傾向も確認できています。このような若い方々の関心や価値観を捉えていくことが不可欠だと考えています。

―高付加価値旅行の具体的な事例としては、どのようなものがあるでしょうか。

例えば、鹿児島県で薩摩藩の武家文化を体験できる「Samurai of Culture」というコンテンツがあります。これは、県内に点在していた武家文化に関連する素材をストーリーとして有機的に繋げることで、表面的なサムライ体験ではなく、当時の武士たちの生き方や思想を学ぶことができるコンテンツとなっています。

高付加価値市場向けだからと、単純に高価格のコンテンツを造成するのではなく、現代に至るまで、400年以上も継承されてきた薩摩の武家文化を、観光を通してその文化の継承者に適正な対価を支払うことで、さらに次の世代へも着実に繋げていくことが意識されているという点でもすばらしく、コンテンツそのものの価値を上げるということが重視されています。

このような地域ならではのコンテンツこそ、高付加価値旅行者が地方へ足を向ける理由・動機になり得ると考えています。

 

高付加価値旅行に関するJNTOの取組と役割

―JNTOではこれまで、どのように高付加価値旅行に取り組んできたのでしょうか。

JNTOが高付加価値旅行への取組を本格的に始めたのは、2017年頃になります。それまでもラグジュアリーに特化したグローバルの商談会に出展はしていましたが、欧米豪市場を対象に調査を行った際に、日本では、世界の高付加価値旅行者をほとんど獲得できていないという現実を目の当たりにしました。

もちろん、日本で高付加価値旅行に取り組む、DMC(Destination Management Company)※やコンテンツを開発されている方々はいらっしゃいましたが、当時はJNTOの知見も乏しく、日本国内の担い手も限られており、市場としてはまだまだこれからという段階でした。
※海外の旅行会社や個人から依頼を受けて旅程を作成、手配する旅行会社

そこで、高付加価値旅行向けの訴求コンテンツを全国から収集し、プロモーション用のウェブサイトを整備したり、JNTO主催の商談会や旅行会社向けファムトリップを実施したりするなど、徐々に取組を拡大してきました。

観光庁でも、2021年に「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり検討委員会」を設置して、国としての取組の方向性等を記載したアクションプランを策定するとともに、訪日旅行における消費単価が高い高付加価値旅行者の地方への誘客を促進するため、モデル観光地を全国10か所程度選定し、高付加価値な宿泊施設整備、観光資源の発掘・磨き上げ、ガイド等の人材育成等の取組を総合的に推進するための施策を行っていくこととしています。

―これからJNTOではどのような活動に力を入れていく予定でしょうか。

JNTOでも、観光庁のアクションプランに基づき、大きく4つの取組を強化しています。

①コンテンツの収集・蓄積
②国内関係者のネットワーク化
③海外の旅行会社へのセールス強化
④より深い情報の発信

このうち、JNTOとして特に意識すべき重要な役割は、「人と人を繋ぐ」ことだと考えています。

②に関しては、これまでは自治体やDMOが独自にコンテンツをつくりプロモーションもしていることがほとんどだったのですが、より効率よく誘客に繋げるためには、日本側で旅行を手配するDMCと地域やコンテンツをお持ちの事業者のみなさまが繋がることが重要だと考えています。そこでJNTOがハブになって両者が交流できるような環境を整え、ネットワークづくりを促進していく予定です。

また、地域によっては手探りで高付加価値旅行への取組を進めているところも多いので、地域間での情報交換という点でも、地域同士が互いに刺激し合うきっかけになればと考えています。そのための第一歩として、関係者が実際に会って、しっかり話ができるような場を設定し、ソーシャルメディア等を通じて、気軽に情報交換ができるようにしていきたいと考えています。これは新しい取組なので、進めながらみなさまのご意見もいただき、よりよい形にしていきたいと思っています。

③に関しては、Virtuoso やSerandipians など、世界の高付加価値旅行業界を牽引する有力な旅行会社が加盟するコンソーシアムとの連携を強化し、コンソーシアム主催の商談会やネットワーキングイベントへの参加、ニュースレター等を通じた情報発信などを通じて、業界内での高付加価値旅行先としての日本のプレゼンスをあげるとともに、加盟旅行会社を日本にお招きし、特に地方のコンテンツを体験していただき、実際の送客に繋げていくつもりです。

この②と③の活動を通じて、日本国内の関係者とJNTOも密に情報交換させていただき、海外と日本を繋ぐことも強化していきます。

高付加価値旅行者_画像4

これらと並行して、全国で造成が進む高付加価値旅行向けのコンテンツを収集、蓄積を進めています。主に観光庁や文化庁、環境省等、各省庁で実施するコンテンツ造成や磨き上げの事業、JNTOの地域プロモーション連携室にて全国から収集させていただいている体験型コンテンツ等を対象に、Arts& Culture、Natural Wonders、Gastronomy、Accommodations、Unique Journeysの5つのカテゴリー別に、有識者の評価を経てコンテンツを選定しています。

今年度は、約20の新規コンテンツを収集しており、セミナーや商談会等を通じて海外の旅行会社へ紹介するほか、高付加価値旅行者自身に向けても、「日本を旅することは、このような意味があり、価値がある」ということが認知され、興味を抱いていただけるよう、JNTOのウェブサイトのほか、有力メディアとも連携しながら、積極的に発信していく予定で、強化していきたい部分でもあります。

―高付加価値旅行の誘致にあたっての課題を教えてください。

課題はたくさんあります。観光庁のアクションプランでは、それらを「ウリ」「ヤド」「ヒト」「コネ」で分類して整理し、課題と施策の方向性が整理されています。例えば、「ヤド」に関しては、上質かつ地域のストーリーを感じられる宿泊施設が必要不可欠ですが、特に地方においてはそれらが不足しているため、せっかくすばらしい体験コンテンツがあっても送客しづらく、また、長期滞在にも繋がりません。

「ヒト」についても同様です。高付加価値旅行者を地方に送客するための人材、文化的背景を含めてわかりやすく説明して、その価値やストーリーを伝えられるガイド、高付加価値な観光地づくりや送客に必要な知見・ネットワークを有する人材などの不足が挙げられます。

これらをつくり育てるためには時間がかかりますが、じっくり足場を固めるだけではなく、できる部分から誘客を進め、高付加価値旅行者受け入れの経験を積んでいくこと、そして、その経験を地域間で共有し合い、足場固めのプロセスを効率化させていくことが重要です。この点でも、前述の「人と人を繋ぐ」ことでJNTOも貢献していきたいと考えています。

 

海外旅行会社との「繋がり」を大切に

―ただ魅力的なコンテンツをつくればいいというわけではないんですね。

すばらしいコンテンツをつくっても、海外の旅行社向けに紹介し、手配できる人に繋がらなければ送客には繋がりませんから、宝の持ち腐れということになってしまいます。魅力的なコンテンツをつくるだけでなく、それを流通にのせることが大事です。

例えば、地域に魅力的な伝統文化体験のコンテンツがあったとして、海外向けの動画やウェブサイトを制作し、高付加価値旅行者自身へ向けて発信し、興味を持ってもらえたとしても、どうすればそれが体験できるかという手配方法が提示されていなければ、興味喚起で終わってしまう恐れがあります。コンテンツによっては、ウェブサイトから申し込みできる場合もあると思いますが、高付加価値旅行者に求められるような、特別手配やプライべート対応などの柔軟なサービスを提供しようとすると、ウェブサイトでは不十分かもしれません。

特に、旅行先として、比較的日本に馴染みが薄い欧米豪等のロングホールの国・地域の旅行者は、旅行会社を通じて訪日旅行を手配する傾向が高いです。そのため、コンテンツやその担い手をよく知る地元の旅行会社や旅行業ライセンスを有する観光協会等が、海外の旅行会社や、海外の旅行会社を顧客に持つDMCの窓口となり、手配の調整を行う体制を整えることが、各地域でコンテンツ開発が進むいま、ますます必要になると感じています。つまり、コンテンツを造成する際には、流通・販路も重要な要素としてセットで考えることが重要です。

高付加価値旅行者_画像5

―ほかに誘客に向けて大事だと思うことはありますか?

人と人との信頼関係を構築することです。高付加価値旅行者を顧客に持つ海外の旅行会社やDMCの気持ちになってみてください。ただネットに掲載されている情報だけで旅行を手配することなんてできませんよね。でも「この人なら任せて大丈夫」と思える人が現地にいれば、安心して自分の大事な顧客をお任せすることができます。信頼する人がいるのといないのとでは安心感がまったく違うのです。

また、どの地域にも必ずキーパーソンはいると思いますが、情熱を持った人が一人で動いているだけでは、なかなか物事は進展しません。関わる人たちみんなが情熱を持って同じ方向を向いているチームが存在することは、その地域への信頼と安心感に繋がりますので、とても大切ではないかと思います。

―最後に、高付加価値旅行に取り組む自治体・DMOの方々に向けてメッセージをお願いします。

高付加価値旅行が地域にもたらすものは、単純に旅行消費による経済的な効果だけではないと考えています。高付加価値旅行の誘客に取り組むことは、真剣にその地域の歴史や文化を見直し、そこに旅する意味を議論しながら、価値を再発見することであり、その過程自体が地域の財産になると感じています。また、そのことは高付加価値旅行に限らず、その地域の観光産業の量から質に向けた転換を促すきっかけになるとも思います。

やるべきことは多く、どこから手を付けてよいか分からないという方も多いと思いますが、ぜひ、JNTOをうまく活用していただき、高付加価値旅行の推進に取り組んでいただければと思います。

【参考リンク】
JNTOラグジュアリーサイト
●JNTOラグジュアリー向けPR動画 "JAPAN. WHERE LUXURY COMES TO LIFE"
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