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富裕旅行市場の分析とコンテンツづくりのポイント(JNTOマーケティング研修会テーマ1 ※講演資料の一部掲載)

富裕旅行市場の分析とコンテンツづくりのポイント(JNTOマーケティング研修会テーマ1 ※講演資料の一部掲載)

富裕旅行市場の分析とコンテンツづくりのポイント(JNTOマーケティング研修会テーマ1 ※講演資料の一部掲載)

JNTOが全国各地で開催している「JNTOマーケティング研修会」では、デジタルマーケティングやオリパラなどをテーマに講演を行っています。JNTOでは、研修会に参加できなかった方々にも広く情報共有できるよう、各テーマの内容を記事で解説していきます。今回のテーマは、「富裕旅行市場の動向と市場拡大に向けた取り組み」です。「なぜ今、富裕層なのか」をはじめとし、「実際に富裕層はどういったコンテンツを求めているのか」「JNTOはどういった取り組みをしているのか」についてお伝えいたします。

「JNTOマーケティング研修会」の様子がわかるレポートはこちらの記事でご覧いただけます。

なぜ富裕層をターゲットにするのか

富裕層をターゲットとする理由について、観光消費額の平均単価が高いということはもちろんですが、それだけではありません。旅行業界に限らず、富裕層の間で「良い」と認められたものはマス層(大衆)の憧れになる傾向があります。富裕層に認められたブランド、流行したトレンドは「憧れ」となり、すべての人に影響・波及し得るのです。このように新しい価値観の醸成を促すことで、観光産業全体の押し上げを図ることも、富裕旅行市場への取り組みの狙いのひとつです。

ターゲットにする富裕層のふたつの定義

まずは、「富裕層の定義」をはっきりとさせなければ富裕層に対して有効な情報発信ができません。JNTOでは具体的にどのような層をターゲットにするかを決めるために調査を行い、その結果、富裕層の定義を以下のとおり整理しました。

・「費用制限なく満足度の高さを追求した高消費額旅行を行う市場」であること
・定量・定性調査をもとに「旅行先における消費額が100万円以上/人回」であること

4.7兆円に及ぶ富裕旅行の市場規模

欧米5市場の全海外旅行者における富裕旅行者の数と消費額

データは欧米豪の5市場(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリア)を対象としており、左が旅行者数、右がその消費額のグラフです。

左の円グラフをみると、この5市場で海外旅行をしている方が全体で3億4100万人、そのうち100万円以上消費する富裕旅行者の方が約1%の340万人存在します。

右の円グラフで消費額をみると、全体の35.8兆円のうち、富裕旅行者は13.1%の4.7兆円です。つまり、旅行者全体の1%が消費額全体の13.1%を消費しているという結果になります。JNTOがターゲットとしているのが、この340万人、4.7兆円規模のマーケットです。ひとり当たりの平均単価は約136万円になり、訪日外国人旅行者全体における消費額の平均単価が15.3万円なので、富裕旅行者ひとりで一般旅行者の約9倍の経済効果が見込めるということになります。

市場別でみる富裕旅行者の数と消費額

次に市場別にみると、規模が大きいのはアメリカで全体の半分以上を占めています。

ただ、ヨーロッパも、イギリス、ドイツ、フランスと合計すると約2兆円規模のマーケットになっていて、無視はできないところです。

このようなデータを分析・活用しながら、今後のプロモーション実施の検討をしていくことになります。

志向の変化と消費性向の多様化(Classic LuxuryとModern Luxury)

富裕旅行者の志向について、大きく分けるとClassic Luxury志向(従来型)とModern Luxury志向(新型)のふたつが存在しています。

Classic Luxury志向(従来型)は富や権力を重要視する価値観を持っており、旅行においては「高い快適性」「サービスの質の高さ」「ステータスシンボル」などを求める傾向があります。一方で若い層を中心に拡大しているModern Luxury志向(新型)は、文化や独自性に重きを置く価値観を持っており、自分が興味・関心を持っているものに関しては、徹底的にお金を使うが、自分が価値を見出していないものについてはお金を使わないというタイプです。旅行に求めるものも、「本物の体験」「エコツーリズム」「サステイナビリティ」と、従来型と大きな違いがみられます。

富裕旅行者の志向はClassic Luxury志向(従来型)とModern Luxury志向(新型)が存在する

志向の特徴と同様に、富裕旅行者の消費性向(旅行タイプ)にも多様化がみられ、次のふたつの旅行タイプを分けて捉えることが重要です。

ひとつめがオールラグジュアリーという旅行のすべての費目で高額消費を行うタイプです。例を挙げると、飛行機はビジネスクラス以上、ホテルは5つ星のラグジュアリーホテル、プライベートガイドをつける、という方など。ふたつめはセレクティブラグジュアリーという優先度の高い事項に重点的投資するタイプです。例として、宿泊は寝るだけなので、特にこだわりはないが、ものすごく芸術分野に関心を持っており、人混みは苦手で、いくらお金を払ってでも、美術館を夜間貸し切りにして、さらに専門のガイドをつけて詳しい説明を聞きたいというような方など。自分が価値を見出す体験にはお金に糸目をつけないようなタイプです。

富裕旅行者の旅行タイプはオールラグジュアリーとセレクティブラグジュアリーに分けられる

富裕旅行向けコンテンツを評価する指標(コアバリュー、バリュー提供、商品性)

JNTOでは国内外のヒアリングや富裕旅行者への調査などに基づき、富裕旅行向けコンテンツを評価し得る指標を設定しています。富裕旅行向けのコンテンツでは、より高度な価値を持ち、プラスアルファのサービスで提供され、かつ差別化された商品であることが重要です。

コアバリュー

指標のひとつめの軸がコアバリューです。当然ですが、そのコンテンツ自体に価値がないと魅力を感じてもらえません。たとえば、日本でしか体験できないなど日本ならではの価値があるのかどうか、また、この地域でしか食べられないなど他の地域にはない価値があるのかどうかといった点です。

バリュー提供

ふたつめの軸がバリュー提供です。通常のインバウンド向けのコンテンツとしては、コアバリューがあれば外国人旅行者の誘客が可能になりますが、富裕旅行者の誘客については、バリュー提供の工夫が重要であると言われています。

たとえば、単純にガイドや通訳から一般向けの説明を聞くだけではなく、その道30年のプロから直々に教えてもらいたい、さらには人間国宝の方に直接指導してもらいたいといった特別な対応を富裕旅行者の方々は求めています。

また、融通が利く体制も非常に重要になってきます。たとえば、夜間貸し切り対応をしてほしい、普段は立ち入り禁止の観光スポットもみてみたいなど、富裕旅行者は要求水準が非常に高いです。こういった富裕旅行者の要望にいかに対応できるかも大切なポイントです。

商品性

3つめの軸が商品性です。たとえば、希少性、値段が高価であることも非常に重要です。富裕旅行者はその価値にあった金額を支払うことに抵抗はありません。そのコンテンツの価値にあった価格設定という視点も大切です。加えて、世界的な格付けとして、世界遺産、人間国宝など一定の価値が担保されているという点も重要になります。

この3つの指標の軸から既存のコンテンツを見直してみることは、富裕旅行向けコンテンツの磨き上げとして有効だと言えるでしょう。

訪日富裕市場拡大に向けたJNTOの取り組み

JNTOでは、訪日富裕市場拡大に向けたさまざまな取り組みを行っています。

ひとつめが「富裕旅行関連の商談会への出展」です。たとえば、ILTM Asia PacificやJNTOの主催により日本国内で実施される富裕旅行関連の商談会であるJapan Luxury Showcaseなどがあります。

ILTM Cannesのように共同出展者を募集して、出展することもあります。最近はPUREやFurther Eastなど体験型コンテンツを売りにしている新しい商談会も開催されており、体験型コンテンツを求めるバイヤーやそれを売りにしているセラーが集まる場所になっているので、こういったところにも目を向けているところです。

ILTM Cannes 2018でのジャパン・パビリオン

ふたつめは「多様なツールによるプロモーション」です。

JNTOでは、2017年に日本各地の富裕旅行向けのコンテンツ集約したプロモーション冊子PREMIUM JAPANを制作しており、JNTOが参加する商談会において、ツールとして活用しています。2018年度には多言語化(アメリカ英語、英語、イタリア語、フランス語、スペイン語、ロシア語、ドイツ語)し、2019年度はコンテンツをさらに充実させて改定する予定です。

また、2019年3月には富裕旅行者に直接訴求するツールとして、日本各地の富裕旅行向けのコンテンツを集約したWebサイト「Luxury Japan」を開設しました。冊子と同様に、Webサイトについても今後さらにコンテンツを拡充させていく予定です(2020年1月時点)。

プレイヤー同士の連携を強化しさらなる拡大を目指す

富裕旅行市場への取り組みでは、さまざまなプレイヤーの連携が必要不可欠だと考えています。各自治体やコンテンツホルダーにおけるコンテンツの充実や磨き上げ、それらを組み合わせて商品を作っていくDMC、そして、プロモーションを行う我々JNTOなど、実にさまざまなプレイヤーが関わっています。

どういったコンテンツが存在しているのか、お互いがどういった取り組みをしているのかを共有するなど連携をしながら進めていくことが、この分野における成功につながる一手とも言えるでしょう。そのためにも、JNTOでは各地域の皆様と認識を共有できるような機会を積極的に増やしていきたいと考えています。

8月に大阪で開催した「JNTOマーケティング研修会in関西」の様子はこちらから

下記の記事では、JNTOマーケティング研修会の各講演テーマの内容をご紹介しています。