2020年1月20日
オープンデータを活用した訪日外国人旅行者の分析手法(JNTOマーケティング研修会テーマ3 ※講演資料の一部掲載)
JNTOが全国各地で開催している「JNTOマーケティング研修会」では、デジタルマーケティングやオリパラなどをテーマに講演を行っています。JNTOでは、研修会に参加できなかった方々にも広く情報共有できるよう、各テーマの内容を記事で解説していきます。今回は、関西を例に挙げて、「オープンデータからみる地域特性と分析手法」をご紹介します。オープンデータとは、営利・非営利を問わず、無料で二次利用が可能なデータのこと。オープンデータを分析すれば、その地域を訪れる訪日外国人旅行者の特徴を、より精緻に把握することが可能です。ぜひ、皆さんの地域でもご活用ください。
「JNTOマーケティング研修会」の様子がわかるレポートはこちらの記事でご覧いただけます。
訪日外国人旅行者の動向を知るのに役立つ主なオープンデータ
現在、国としてもオープンデータの公表に積極的に取り組んでいます。まずは、観光に関する主なオープンデータをお伝えします。下記の表をご覧ください。
観光に関する主なオープンデータの一覧
JNTOが公開している「訪日外客数」とは、日本を訪れた外国人の数です。これは、法務省が公開している「出入国管理統計」(入国審査を受けた訪日外国人旅行者を集計したデータ)をもとに、永住者と、訪日外国人旅行者の定義から外れる方(※)を除いて集計しています。JNTOでは、毎月第3水曜日に、前月の「訪日外客数」について、全体数だけではなく、国籍別、月別、目的別でデータを公開していますので、ぜひ参照ください。
(※)日本を主たる居住国とする永住者等の外国人や乗員上陸
また、インバウンドの活用データの代表的なものとしては「モバイル空間統計」と「VISAクレジットカードデータ」が挙げられます。これらは『RESAS(地域経済分析システム)』という、経済産業省と内閣官房(まち・ひと・しごと創生本部事務局)が運営しているWebサイトで確認することができます。データもとは「モバイル空間統計」がNTTドコモ、「VISAクレジットカードデータ」がビザ・ワールドワイド・ジャパンです。
RESASで公開している「モバイル空間統計」では、市区町村別に訪日外国人旅行者の動向を1kmメッシュ単位で確認することができます。訪日外国人旅行者が集まりやすい時間帯や場所などを分析する時に活用できるデータです。
このデータの良いところは、市区町村レベルのデータを取得できるという点です。現在、国が公表しているオープンデータの最小単位は都道府県ですので、より細かいデータを分析することができます。公開頻度が定期的ではないため、最新動向をつかみにくいという一面もありますが、より地域に適したデータを得ることができるでしょう。
「VISAクレジットカードデータ」では、都道府県別に訪日外国人旅行者の消費構造に関するデータを提供しています。「訪日外国人旅行者がどのような物にお金を使っているのか」「どのような物が人気なのか」を調べることにも役立てることができます。
続いて、「宿泊旅行統計調査」とFF-Dataを用いて、関西の訪日外国人旅行者の特徴を分析していきましょう。
「宿泊旅行統計調査」で、国籍別の宿泊者数や宿泊施設タイプを分析
「宿泊旅行統計調査」とは、各宿泊施設に調査票を送付し、いただいた回答をもとに集計したデータのことで、観光庁のWebサイトからダウンロードができます。この統計では、各月で訪日外国人旅行者の延べ宿泊者数や、国籍の内訳などがわかります。「どこの都道府県に、どの国籍の人が何人宿泊したか」「どのようなタイプの宿泊施設(旅館・ホテル)を利用したか」などを分析することが可能です。
関西における外国人延べ宿泊者の推移
まずは、JNTOマーケティング研修会(関西)の連携先である関西観光本部の対象エリア2府8県別の外国人延べ宿泊者数を確認してみましょう。グラフをみると、関西における2018年の外国人延べ宿泊者数は2015年の1.4倍、大阪府と京都府が8割以上を占めていることがわかります。また、大阪府は拡大傾向にあるのに対し、京都府は減少傾向にあることも、昨今の特徴と言えそうです。
「宿泊旅行統計調査」からわかる外国人延べ宿泊者数の推移
外国人宿泊者を国籍別に分析
続いて、2府8県での国籍別の外国人延べ宿泊者数のデータをご紹介します。統計をみると、中国、韓国、台湾、香港の東アジアのシェアが全体的に高いことがわかります。特に奈良県は、他県と比べても中国のシェアが非常に高いのが特徴です。一方で、京都府は、アメリカやフランスなど、東アジア以外のシェアも獲得しています。
国籍別の外国人延べ宿泊者数からみる関西の特徴
外国人宿泊者が選ぶ宿泊施設タイプの傾向
最後に、訪日外国人旅行者の宿泊施設タイプを調べてみました。宿泊施設別にみると、ビジネスホテル、シティホテルに宿泊する方が多く、これらを合わせると全体の8割を占めています。また、2015年と比較すると、2018年はホテルのシェアが縮小傾向にある一方、簡易宿所や旅館のシェアが増加傾向にあることがわかります。
関西を訪れる外国人旅行者の宿泊施設タイプの特徴
このように、「宿泊旅行統計調査」を使えば、ご自身の都道府県でどれくらいの訪日外国人旅行者が滞在していて、どこの国籍の方の宿泊が多いのか、どのタイプの宿泊先が人気なのかなどを把握することができます。
“流動データ”から探る、訪日外国人旅行者への最適なサービスの提案や近隣地域との連携強化
続いて、FF-Dataの活用事例をご紹介します。
FF-Dataとは、Flow of foreigners-Data(訪日外国人流動データ)の略で、国土交通省総合政策局が公表しているデータです。データは、「都道府県間流動表」「公表用データベース」「貸出用データベース」の3種類。「都道府県間流動表」と「公表用データベース」では、訪日外国人旅行者の都道府県間の流動量や利用交通機関などを集計しており、Webサイトから誰でも閲覧することが可能です。一方、「貸出用データベース」には、周遊ルートや宿泊数など、より詳細なデータが蓄積されています。「貸出用データベース」のみ、利用には申請が必要となりますが、申請すれば誰でも使用可能です。
それでは早速、FF-Dataを用いて、関西への訪日外国人旅行者の流動を分析していきましょう。
都道府県間の流動からみる関西訪問者の傾向
都道府県間の流動人数としては、京都府と大阪府間の流動が、成田国際空港の所在地である千葉県と東京都間の流動に次ぐ2位となっており、非常に多いことがみて取れます。
訪問前の都道府県をみると、滋賀県、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県では、大阪府と京都府を訪問した後に各県を訪れる傾向があることがわかります。また、大阪府、京都府については東京都訪問後に訪れている方が多いようです。
FF-Dataでは関西への訪日外国人旅行者の流動が把握できる
データのかけあわせで具体的な分析が可能に
さらに、FF-Dataのメリットは、項目をかけあわせてデータを確認できることです。訪日外国人旅行者の属性や目的、来訪回数、出国空港などの項目をかけあわせることで、それぞれの都道府県を訪問する訪日外国人旅行者像を、より具体的に把握することができます。
大阪府を例に、流動と性別・年代別をかけあわせた活用例をご紹介します。下記の図をご覧ください。
FF-Dataのかけあわせで分析した大阪府の特徴
これは、大阪府を訪問した外国人旅行者の国籍・性別・年齢の特徴をまとめたものです。データによると、大阪府を訪れる方は中国、韓国、台湾の順で多く、アジアからの訪問者は女性が多いことがわかります。年代別でみてみると、韓国の292万人の訪問者のうち、20代が61%を占めており、若い世代から人気があることがうかがえます。
FF-Dataを用いることで、各都道府県を訪れる訪日外国人旅行者の特徴を、より詳細につかむことができます。分析したデータをもとに、地域を訪れる外国人旅行者に、より適したサービスを提案することも可能です。また、流動データを活用しながら、近隣地域との連携強化もはかっていくと、訪日外国人旅行者獲得への相乗効果を生み出していけるかもしれません。
このように、さまざまなオープンデータを活用することでインバウンド事業の活性化につながるのではと考えます。
8月に大阪で開催した「JNTOマーケティング研修会in関西」の様子はこちら
下記の記事では、JNTOマーケティング研修会の各講演テーマの内容をご紹介しています。