2023年1月16日
今注目のOTAに聞く③〜ブッキング・ドットコム編〜「欧米豪の旅行客に人気が高い国・日本」
インターネット上で24時間、旅行者が自分の都合の良い時にいつでもアクセスして商品を検討・注文できるOnline Travel Agent(OTA)。コロナ禍を経て、今後もますます活用されることが予想されます。今回は欧米豪を中心とした観光客の訪日旅行に関する興味関心について、オランダのアムステルダムに本社を置き、世界最大規模の宿泊施設数を誇る予約サイト「Booking.com(ブッキング・ドットコム)」の竹村章美氏にお話を伺いました。
日本は世界から注目される「旅行に行ってみたい国」
―ブッキング・ドットコムはどのような企業か、まずお教えください。
ブッキング・ドットコムは、1996年にオランダで創業したOTAです。現在も本社はアムステルダムにあり、『すべての人に、世界をより身近に体験できる自由を』を企業理念に、多種多様な宿泊施設や旅ナカ体験コンテンツなどを提供しています。世界44の言語で情報提供していますので、お客様は自国の言葉で旅行関連のさまざまな予約ができ、ストレスが少ないことが強みのひとつとなっています。創業の地がオランダということもあり、欧州をはじめアメリカやオーストラリアのお客様からも多大な支持を得ています。
―ブッキング・ドットコムでは、旅行先としての日本の魅力をどのように捉えているのでしょうか。
世界中のお客様に「コロナ禍が終わった時に訪れたい国は?」というアンケートをとったことがありますが、ほとんどの国において、行きたい旅行先の1位に挙がったのが日本です。もともと日本に対して良いイメージを持っている人は多く、日本食ブームをはじめとする日本独自の文化に対する憧れ、それに加えて、国全体として清潔なイメージがあり安全安心な旅行ができそうであることなど、複数の要素が重なって日本を上位に押し上げているのではないかと思います。
また、欧州やオーストラリアに暮らす多くの方々が一度は体験してみたいと憧れに思っているのが「旅館での宿泊」そして「温泉に入ること」です。「Ryokan」「Onsen」という言葉は海外でもそのまま日本語で通じるくらい、非常に興味を持たれています。こうしたことからも、ブッキング・ドットコムが日本を大切な市場として捉え、注目するのは当然の成り行きといえるでしょう。
「Booking.com」米国(US)版
旅行者は何を求めているのか? 調査から導き出された「6つのトレンド」
―コロナ禍を経て、今どのような旅行が求められているとお考えでしょうか。
ブッキング・ドットコムでは毎年、お客様がどんな旅行を望んでいるのか調査を行っています。2023年に向けた最新の調査は、過去最多の32の国と地域で実施し、独自の知見と併せて以下の6つのトレンドを予測しています。
- 自然の中のシンプルかつミニマムな「オフ・ザ・グリッド」旅
- カルチャーショックを経験する異文化な旅
- 古き良き時代を思い起こさせるノスタルジックな旅
- チームビルディングを目的とした社員旅行
- 節約して贅沢旅
- 制限や不安なしのバーチャル旅
参照:ブッキング・ドットコム、2023年の旅に関する6つの旅行トレンド予測を発表 (booking.com)
この6つを見ると、日本が旅先としてフィーチャーされることも十分に想定できると思います。異文化、伝統、自然など、旅行者が望む多くのものを資産として持っている。ですから我々も、個々の地域が持つ魅力を旅行者にしっかりと伝えて、需要をいち早く取り込みたいと考えています。
―6つのトレンドから、どのような訪日旅行の提案ができるでしょうか。
たとえば「オフ・ザ・グリッド旅」であれば、本来は電気・ガス・水道というインフラから離れて、自分で火をおこし水を汲みにいくキャンプなどが常道かもしれません。しかし、それ以外にも、いまの私たちの生活はITによって常にどこかとつながっていてデジタライズされていますから、そういうものからも一切離れた非デジタルなことを提案できるといいかもしれません。
「節約して贅沢旅」については、何を贅沢と捉えるか読み違えないよう注意する必要があります。少し前なら、高級リムジンでお出迎えというようなセレブリティ扱いを贅沢とする向きがあったかもしれませんが、今は「本物を知る」ことを贅沢と捉えています。たとえば築地でマグロの競りや解体を見学した後に寿司を食べたり、高野山に行ってお寺で修行体験をしたりする。このような体験に対して、私たち日本人からすると驚くような金額であったとしても、体験価値を感じて費やす傾向があります。本場に行って本物を経験することに大きな価値を見出しているので、これまでの私たち旅行事業者が考えていた贅沢という概念をバージョンアップさせる必要があると感じています。
また、日本人の国内旅行の典型的なパターンは1泊2日で周遊観光するスタイルだと思いますが、欧米豪からの観光客の場合は根本的に異なります。彼らは長い休日を取る習慣があるので長期滞在型が多く、さらに旅先が日本となると、地理的にも離れているので、「よし、せっかく行くなら日本にどっしりと腰を据えて旅をしよう」と大型のスーツケースを抱えて日本に来る方がたくさんいらっしゃいます。そして、ベース(ハブ)となる宿泊施設を決めて荷物を置き、そこを基点に近隣の観光地に行って戻ってきて、翌日はまた別のところに行って戻るという旅行をする。たとえば、大阪に拠点を置いて京都や奈良を訪ねるような感じで旅行する人がとても多く見受けられます。
ひとつの宿泊先に長く滞在しつつその周辺を旅するスタイルになるので、ハブをどのように設定するかは旅行者にとってまず重要なことです。そしてそこから次の目的地までより便利で快適に移動するための方法を探すことも重要です。こういった情報を知りたいときに、どれだけ的確な提案ができるか、が私たちには求められていると考えています。
―ほかにも、欧米豪の訪日旅行者について特徴的な点はありますか?
とくに欧州の方々はサステナブルへの意識が高い、というところでしょうか。宿泊施設に対してもサステナブルに配慮した場所を選ぶ傾向があります。たとえば、日本ではペットボトルの飲料水を買って飲んでいますが、欧州の方々から見るとそれはサステナブルではない行為として捉えられます。現在、欧州ではペットボトルが置いてあるホテルは少なくなっています。
こうした方々が日本に旅行に来て「日本にはとても素敵な文化があるけれど、サステナブルの意識はそれほどでもない」と思われたら実にもったいないことです。2022年に行った調査では、旅行者の約7割が「よりサステナブルな旅を心がけたい」と考えていることがわかっています。ほとんど条件が同じ宿泊先ならサステナブルに配慮している方が選ばれるので、我々としても、もっとサステナブルに対する取組の強化やサポートを考えていかなければいけないと思っています。
また、どれだけ魅力的なコンテンツを作ってアピールしても、お客様からのレビューでマイナスのイメージが広がる可能性もあります。レビューにある真意を読み取り、改善へ向けて努力を積み重ねていくこと、そしてこれを宿泊先だけでなく地域全体で意識し取り組んでいくことで、もっと魅力を高めていくことができると思います。そうすればこの先も日本は「行きたい国」であり続けることができるでしょう。
いま提供しているものを外国人目線で見直し、自信を持ってアピールする
―OTAのサイト内で目を引くためのコツはありますか?
何か新しいコンテンツをつくるのではなく、いま提供しているものを外国人目線で見直してみるとよいと思います。たとえば、日本の多くの宿泊先で提供している和朝食は、日本人はごく当たり前と思うでしょうが、欧米豪の旅行客にとっては大きな魅力で、素晴らしいサービスとして認識されています。夕食についても同様です。欧米豪エリアのホテルでは、オールインクルーシブならともかく、夕食がつくサービスというのはとても珍しい。都会なら夜遅くまで営業している飲食店は多いですが、地方に行くとそういうわけにもいかない場合が多々あります。
こうした時にホテルで夕食をとることができるというのは大きな安心材料になります。そこでメニューが英語で書かれていたら、より嬉しいでしょう。これは当たり前すぎるかな、と変に謙遜をせず、海外からの旅行者の目線に立って、自分たちができるサービスや日本のおもてなしを、自信を持ってどんどんアピールしていきましょう。
アピールするにあたっては、ブッキング・ドットコムの利用者もそうですが、スマートフォンやタブレットなどモバイル端末の使用率が高いので、視覚的にスピーディーに訴えたほうがよいですね。テキストで「◯◯が充実!」と書くことももちろん大切ですが、その前にまず、見る人に「おっ」と目を留めてもらわなければいけません。ですから、感覚的に「ここは良さそうだ」と判断できる写真が重要です。
宿泊施設でよくあるのですが、外観にはじまり、エントランスやフロントといった写真を先に並べているところも実に多いです。そうではなく、「自分たちの強みはこれだ」と訴える写真を最初にもってこなければ、利用者は目を留めてくれません。和朝食が自慢であれば美味しそうな料理の写真を、リニューアルした部屋が自慢なら部屋の素晴らしさが伝わる写真を、まず先頭に持ってくる。どうしたら注目してもらえるのかを考えて写真を撮り、並べることが大事でしょう。
さらに、サーチエンジンと同様、OTAでも掲載順位は重要です。ページをめくらないと出てこない順位では目につきにくくなります。さまざまな検索方法がある中でどれだけ掲載順位を上げて最初の検索結果ページに表示させることができるかがポイントになります。
―今後ブッキング・ドットコムではどのように訪日旅行をアピールしていく予定でしょうか。
訪日旅行者の方々に体験していただきたいことはたくさんあります。そのためにブッキング・ドットコムとしてやるべきこともまだたくさんあると思っています。さまざまなニーズに応えられる多種多様な宿泊先を紹介することはもちろん、先にお話しした移動手段についても、訪日旅行者の方々がどこにハブを置き、そこからどんな交通手段を提案すればより便利で快適な旅にできるのか、そういったことにも重きを置いて、日本の多様な魅力を伝えていきたいと思います。
ブッキング・ドットコム・ジャパン
North APAC リージョナル・ディレクター 竹村章美
アメリカンエキスプレス、日本旅行・グローバルビジネストラベル代表取締役社長、アマデウス・ジャパン代表取締役を経て、2021年から現職。