2022年6月30日
サステナビリティ(持続可能性)を体現する日本の観光コンテンツを海外に向けて発信
コロナ禍を経て観光を取り巻く状況が大きく変化し、観光分野においても「持続可能性」への関心が高まっています。こうした背景を受け、JNTOでは、サステナブル・ツーリズム(持続可能な観光)の観点から日本が誇る観光コンテンツを選定し、海外に向けて発信する英語版のデジタル・パンフレット『EXPLORE DEEPER -Sustainable Travel Experiences in JAPAN-』を制作しました。本稿では、サステナブル・ツーリズム推進の重要性やJNTOの取組についてご紹介します。
世界の旅行者から「選ばれる観光地」となるために ~サステナブル・ツーリズムへの意識の高まり~
国連が掲げる「SDGs(持続可能な開発目標)」の目標達成するため、世界中、そして日本でも、政府や関連機関・企業などが参加して多様な取組みを行っています。
もちろん、観光産業も例外ではありません。コロナ禍を経て観光を取り巻く状況が大きく変化し、「持続可能性」への関心が高まる中、サステナブル・ツーリズム(持続可能な観光)を推進する動きが活発になっています。サステナブル・ツーリズムを推進してきた国連世界観光機関(UNWTO)は、サステナブル・ツーリズムについて「訪問客、産業、環境、受け入れ地域の需要に適合しつつ、現在と未来の環境、社会文化、経済への影響に十分配慮した観光」と定義付けています。
UNWTOによると、世界の国際旅行者数は2010年以降増加傾向にあり、2019年には14億6000万人に達しました。旅行者の増加が、地域の社会経済の活性化や雇用の創出に貢献する一方で、自然環境やそこで暮らす人々の生活に大きな負荷が発生するなど、観光が与える負の側面も明らかになってきました。
さらに、コロナ禍にあって世界中で観光の小休止が余儀なくされたことで、皮肉にも人々が観光の正負の影響を実感しやすくなりました。そこで観光地においては、「住んで良し、訪れて良し」の地域づくりに向けて、正の影響を最大化し、同時に、負の影響を最小化する取組がこれまで以上に求められるようになりました。
また、旅行者は自らが旅を通じて地域社会の文化や経済、環境に与える影響に敏感になり、旅行先や移動手段等について、よりサステナブルな選択をしたいと考える傾向が高まりました。『ブッキングドットコム』が30か国、2万9000人を対象に行った調査では「数年内にサステナブルな宿泊施設に最低でも一度は泊まる」と答えた人は、2016年が「62%」だったのに対し、2021年は「81%」と増加傾向を見せています。
世界の旅行者にとって、“サステナブルであるかどうか”は、旅行先や旅行商品を選ぶ際の重要な要素になっているのです。
JNTOでは、海外事務所やサステナブル・ツーリズムに知見のある有識者、海外の高付加価値旅行コンソーシアム等へのヒアリング結果を踏まえ、サステナブル・ツーリズムに関心の高い市場として欧州・豪州・北米・アジアの一部(特に高付加価値旅行者層やインテリ層)を想定しています。
旅行者特性としては、その土地ならではの『本物の体験』、お金では買えない自分しか味わえない体験を望み、いわゆる「観光スポット」巡りではなく、ローカルな暮らしや自然に触れてゆったりとした時間を過ごすこと、精神的な充足感を得ることに価値を置いていると考えています。
同時に、訪問地に対してポジティブな影響をもたらしたい、環境負荷を軽減したいと考えている点も、サステナブル・トラベラーの大きな特徴と言えます。
日本でも、サステナブル・ツーリズムに関する取組が加速しています。観光庁では2020年に「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」を策定。2020年度からは、全国各地でモデル事業を実施しています。
そして、サステナブルな取組を実践する先進的な日本の観光地は国際的な評価を受けています。『Lonely Planet(ロンリー・プラネット)』が毎年発表している「Best in Travel(ベスト・イン・トラベル)」では、2021年度のサステナビリティ部門で「和歌山県」が第1位に 。また、UNWTOの「BEST TOURISM VILLAGES(ベスト・ツーリズム・ビレッジ)」では、「北海道ニセコ町」と「京都府南丹市美山町」が選ばれました。
サステナブル・ツーリズムの観点から訪日旅行の魅力を伝えるデジタル・パンフレットを制作
こうしたサステナブル・ツーリズムをめぐる国際的な潮流を受けて、JNTOでは2021年6月に「SDGsへの貢献と持続可能な観光(サステナブル・ツーリズム)の推進に係る取組方針」を策定しました。同方針に基づき、サステナブル・ツーリズムの推進に取り組む日本の地域や観光コンテンツの海外向け情報発信、先進事例の国内向け情報提供、「責任ある観光」の奨励、ユニバーサル・ツーリズムに関する情報発信を強化しています。
また、サステナブル・ツーリズムをJNTOにおける重点取組の1つに位置付けるとともに、2022年1月に部署横断型の「サステナブル・ツーリズム推進室」を設置し、推進体制の拡充を図りました。
こうした取組の一環として、JNTOでは、サステナビリティを体現する日本の観光コンテンツの魅力を発信し、サステナブル・ツーリズムの旅行先としての日本の認知度・興味関心を高めるため、英語版のデジタル・パンフレット『EXPLORE DEEPER -Sustainable Travel Experiences in JAPAN-』を制作・発表しました。
EXPLORE DEEPER -Sustainable Travel Experiences in JAPAN-
前述したブッキングドットコムの調査では、「旅先の現地文化を象徴するような、本格的な体験がしたい」という声が7割を占めています。世界の多くの旅行者が、その土地のローカルな暮らしや自然、そして日本人ならではの精神性や価値観に触れることで、精神的な充足感を得たいと望み、自身の旅行が訪問地の豊かさにつながってほしいと望んでいます。パンフレットの作成に当たっては、このグローバル化・デジタル化の時代の中で「日本でしか体験できないこととは何か?」を旅行者目線で改めて検討し、日本の独自性の源泉として、「自然(地形、気候)」と「自然に根ざした日本人の精神性・価値観」を中心に据え、日本での体験価値を伝えることにしました。
日本は、南北に弓なりに長い国土を有し、亜熱帯から亜寒帯まで幅広い気候帯に属しています。亜寒帯の流氷の海、四季の変化に富む温帯の森、亜熱帯のサンゴ礁の海。地域ごとに異なる地形や気候は、多様な動植物の生息・生育環境やそこに暮らす人々の文化・慣習、食文化を育んできました。そして、恵みともに災害などの脅威をもたらす自然に対して、日本人は感謝と畏怖の念を抱き、自然との調和や共生を望む、日本人の精神性・価値観を醸成しています。
こうした自然と文化の融合こそが日本の強みであるとの議論の結果から、パンフレットのコンセプトを「自然と自然に根ざした文化」に定めました。そして、このコンセプトから紡ぎだされた「自然を楽しむアウトドア・アクティビティ」「エコ・フレンドリーな宿泊施設」「地域に根付く伝統芸能」「匠の技に触れる」など10のテーマ別に、50件の観光コンテンツを紹介。各テーマの章の冒頭にはコンセプトと各テーマを関連付けるコラムを掲載しています。また、「観光を通じた東北震災復興」「先住民族・アイヌ文化」に関する特集記事も収録しています。
コンセプト:「自然と自然に根ざした文化」
1.自然を楽しむアウトドア・アクティビティ
2.豊かな生物多様性に触れる
3.エコ・フレンドリーな宿泊施設
4.豊かな自然風土に根差した食文化を楽しむ
5.古来から続く温泉・湯治を楽しむ
6.受け継がれる日本の信仰に触れる
7.伝統的な地域・文化財に泊まる
8.地域に根付く伝統芸能を鑑賞する
9.受け継がれる祭りに触れる
10.匠の技に触れる
特集①:「観光を通じた東北震災復興」
特集②:「先住民族・アイヌの文化に触れる」
国際認証・アワード取得地域一覧
EXPLORE DEEPER -Sustainable Travel Experiences in JAPAN-
パンフレットに掲載する観光コンテンツの選定に当たっては、英語サイトの設置を前提条件とした上で、以下のような観点を考慮しました。
- サステナビリティの要素
地域の自然・文化を観光に利活用しているか、環境負荷を低減するための取組は行われているか、地域に収益を還元できているか。 - 観光コンテンツとしての評価
観光コンテンツそのものに訴求力があるか。 - サステナブル・ツーリズムに関する国際認証や観光庁の取組等との連動
国際認証等を取得しているか、観光庁が掲げる「日本版持続可能な観光指標(JSTS D)」のモデル地区に選出されているか。 - 観光コンテンツ事業者のマネジメントの状況
SDGsやサステナブル・ツーリズムに関する方針等が公開されているか。 - 観光コンテンツの所在地域のバランスと内容のバラエティ
エリアとコンテンツのバラエティに偏りがないか。全体を通して日本らしさを確保できているか。
デジタル・パンフレットの制作に当たっては、インバウンドツーリズムに精通した英語ネイティブのライター、デザイナー、編集者を招集し、サステナブル・トラベラーの価値観に寄り添う魅力的なストーリーを紹介しています。特に、「訪問地の自然や文化が地域住民によってどのように継承されてきたか」「旅行者が自らの旅行体験を通じて、地域にどのように貢献ができるか」といった要素を、読者の共感が得られるトーンで表現することに留意しました。
◆デジタル・パンフレット
「EXPLORE DEEPER -Sustainable Travel Experiences in JAPAN-」
ダウンロードURL:https://partners-pamph.jnto.go.jp/simg/pamph/1683.pdf
※他にも各地でさまざまな取組が行われています
・畑看板プロジェクト「ブラウマンの空庭。」(北海道・美瑛町)
・持続可能なまちづくり「ゼロ・ウェイスト」(徳島県・上勝町)
・釜石オープン・フィールド・ミュージアム(岩手県・釜石市)
・バードウォッチングを中心とした自然体験(沖縄県・金武町)
今後も「サステナビリティを体現する観光コンテンツ」の情報発信を強化
JNTOでは、今後も引き続き、海外の旅行者・旅行業界に対して広告や広報、商談会、ウェビナーなどを通じてサステナブル・ツーリズムの観点から訪日旅行の魅力発信を行っていきます。
国内向けには、訪日旅行を扱う海外バイヤーと国内のインバウンド関係団体・事業者が参加する国内最大級のイベント商談会「VISIT JAPANトラベルマート」のほか、賛助団体・会員を対象とした「第25回JNTOインバウンド旅行振興フォーラム」においても、海外・国内の先進事例等を紹介していく予定です。
7月13日(水)には、インバウンド実務担当者向けに「サステナブル・ツーリズムの地域への浸透」をテーマにしたJNTO地域セミナー(オンライン)を開催します。外部講師をお招きして先進地域の実践事例をご紹介させていただきますので、ぜひご参加ください。
セミナー詳細については以下の記事をご覧ください。
当サイトでは、サステナブル・ツーリズムに関する国内の事例もご紹介しています。