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持続可能なまちづくり「ゼロ・ウェイスト」が人を呼び、観光地としての魅力に

持続可能なまちづくり「ゼロ・ウェイスト」が人を呼び、観光地としての魅力に

持続可能なまちづくり「ゼロ・ウェイスト」が人を呼び、観光地としての魅力に

徳島県の山間部にある上勝町は、人口1500人に満たない町ながら、まちづくりの先進性で国内外から注目を集めています。SDGsが世界的に提唱されるなか、上勝町は「ゼロ・ウェイスト(ごみをゼロにする活動)」を中心としたまちづくりを推進。それが観光地としての魅力にもつながり、欧米圏で人気の旅行ガイドブック『ロンリープラネット』にも上勝町が紹介されました。2020年には「ゼロ・ウェイストアクションホテル」も誕生し、ますます注目度が高まる上勝町。ゼロ・ウェイスト宣言までの経緯や、アイデアが生まれるまちづくりなどについて、上勝町役場でゼロ・ウェイストを担当する菅翠氏に伺いました。自治体によるサステイナブル・ツーリズムの推進やブランディングにご関心のある方はぜひご参考ください。

対象地域
徳島県
面積
109.63平方キロメートル
公式サイト
https://zwtk.jp/
http://www.kamikatsu.jp/

 

成功の鍵は、ごみ処理を自分事として捉えてもらうための仕組み

— まずは上勝町の概要と、2003年にゼロ・ウェイスト※宣言をするに至った経緯について教えてください。

「上勝町は徳島県のほぼ中央に位置しており、徳島市から車で約1時間の深い山の中にあります。人口は1500人を切り、町民は65歳以上が半数を超えている少子高齢化と過疎が進んでいる町です。昔はみかんや木材が主要産業でしたが、現在は林業の低迷に伴って手入れがされていない山が増えています。

1981年に記録的な大寒波が町を襲い、みかんの木がほぼ全滅。農家は大打撃を受けました。みかんづくりに代わる、町の半数近くを占める高齢者が活躍できる仕事を模索する中で、山々にある美しい葉っぱを料理に添える『つまもの』として販売する、『いろどり事業』ができました。この事業が大きなビジネスに成長し、今では上勝町の主要な産業となっています。

上勝町_画像9_いろどり

一方、ごみ処理は、1997年まで長らく野焼きをしていました。ただ、可燃ごみの中で最も重量を占める生ごみに関しては、家庭でのコンポスト購入の補助制度をつくったり、9分別の資源回収なども併行して行っていました。廃棄物処理法が改正された際、野焼きが禁止され、2基の小型焼却炉を導入。しかし、それも1基から有害なダイオキシンが基準値以上排出されていることがわかり、導入して3年足らずで使用をやめました。

小さな町で小さくない額を捻出して買った焼却炉を閉鎖せざるをえなくなったことが、町にとって大きな転機となりました。職員がごみや焼却炉について勉強し、情報収集をした結果、CO2を排出しながらまだ使えるものも安易に灰にしてしまうごみ焼却自体をやめることへと傾いていきました。

実はごみを焼却すると、その灰の処理にも費用がかかります。当時は徳島県内に灰を引き取る業者がおらず、山口県まで灰を運搬して多額の予算を使っていました。このように環境とコストの両面を考慮し多分別をしようという結論に至ったのです。

そして、ゼロ・ウェイストを提唱したアメリカ人化学者のポール・コネット博士が町で講演を行った際に『ゼロ・ウェイスト宣言をしたらどうか』と提案されたのを受けて、2003年に日本の自治体として初めてゼロ・ウェイスト宣言をしました」

「ゼロ・ウェイスト」とは、ごみや無駄、浪費を意味する「ウェイスト」をゼロにすること、すなわち「ごみ」として捨てられているものを「資源」と考え、それを循環させて、ごみを出さないようにしようという考え方。

— それにしても多分別は住民にとってかなり大きな負担になるのではないかと思います。多分別することに対して反対の声は挙がらなかったのでしょうか?

「予算の少ない小さな町ゆえ、灰の処理にお金を使っていた野焼きの時代から“いつか町をリサイクルタウンにしよう”という構想があり、焼却炉を使っていた時代も燃やすごみを少しでも減らそうと、9分別から25種類の分別へとリサイクルできるものの数を増やしていました。焼却炉を廃止してさらなる多分別へと舵を切った際には、町民への説明期間が1ヵ月しかありませんでしたが、町の職員が全集落をまわって、環境や町の財政などの背景を説明し、地道に協力のお願いをしたことで大きな反対は起きませんでした。その後34分別が始まり、2016年からは45分別が行われています。

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ごみの分別スペース

住民からの大きな反対がなかったのは、こうした経緯や当時の職員の努力に加えて、上勝町で長年行われている『1Q(いっきゅう)運動会』がごみ処理を“自分事化”することにつながったからだとも考えています。1Q運動会とは、町の職員や住民によるまちづくり活動です。行政が『このエリアにはこれが必要だろう』と行った施策も、住民にしてみたら不必要と感じるようなことはどの自治体でも往々にしてあるかと思います。そうしたミスマッチや施策のズレを解消するため、また町を活性化するために、住民が自分たちの地域の課題を自分たちで挙げて、解決のために自ら行動する場が1Q運動会です。

『1人1クエスチョン』を考えること、とんちの一休さんのように町の人々が知恵を出しながらまちづくりに関わることを目指して1Qとし、運動会のように地域の間で楽しく競技のようにまちづくりをしようという意味でそう名付けられました。住民からの提案に対して、町は予算や人員を配置するなどしてサポートを行っています。このようにまちづくりを住民が自分たちで行うという意識が以前からあったこともあり、ごみの処理についても住民一人ひとりが自分事として考え、町の決定に納得してくれたのだと思います」

 

世界から注目を集め、人を呼ぶ「ゼロ・ウェイスト」宣言

— 2016年にはリサイクル率が80%台におよび、上勝町の暮らしは世界から注目されています。欧米で人気が高い旅行ガイドブック『ロンリープラネット』の2021年版にも掲載されましたが、近年の町外からの反響について教えてください。

「ゴミステーションへの視察者が、国内だけでなく海外からもたくさん訪れるようになりました。特に、中国が海外からのごみの受け入れ中止を発表して以来、周辺国からの視察者が増えたように思います。

しかしこれまでは視察者が来ても、ゴミステーションを見学してもらって、説明をするだけ。町に滞在して暮らしを体験するところまでつながる受け入れ態勢をなかなか整えることができていませんでした。しかもゴミステーションは、視察者とごみを捨てに来た住民とが同じ場所で鉢合わせしてしまうような作り。プライベートな情報の塊でもあるごみを見られることに抵抗がある人は、視察者がいると、ごみを出しに来たのにUターンして帰ってしまうこともありました。ゴミステーションは以前電力会社が工事用に設置していたプレハブをそのまま利用したものだったので、利用者の導線に配慮が足らなかったと反省しました。

そこで、視察者と利用者の動線を分け、体験型のゴミステーションとするべく、2020年に、ごみ分別所とストックヤード、無料のリユースショップ『くるくるショップ』、研修施設や交流ホールと宿泊体験施設を備えた『上勝町ゼロ・ウェイストセンターWHY』をオープンさせました。

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ゼロ・ウェイストセンター WHY

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不用品を持ち込んだり、もらったりできる くるくるショップ

建物が著名な建築家の手によるものなので、当初はメディアや建築関係者が多く訪れていましたが、最近はWHYへの宿泊者も増え、環境への意識の高い一般の方も訪れています。コロナ禍での開業だったので、ロンリープラネットに紹介された影響は顕著に感じられるというほどではありませんが、WHYは平日でも賑わいを見せています。インバウンドという面でも、今後に期待しています」
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上勝町での暮らしを体験できる ゼロ・ウェイストアクションホテル

 

— ゼロ・ウェイストを目指したことが、奇しくも観光にも影響を及ぼすことになったわけですが、ゼロ・ウェイストへの住民の意欲を保つために気をつけていることはありますか。

「分別に関してモチベーションが下がらないように、情報提供をきちんとするように心がけています。ゴミステーションの分別現場であれば、普通は分別用コンテナの側面には何を入れるのかが表示されるだけですよね。それを上勝町では、分別されたものがいくらで引き取られているかや、どこに運ばれてなにに生まれ変わるのかも表記しています。

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これは視察に訪れた方から耳にしたことですが、「せっかく家で分別しても、結局プラスチックだって焼却炉で焼いているじゃない」と言われることがあるそうです。しかしこれにも理由があって、可燃ごみに生ごみが含まれていると水分が多く燃えづらいので、補助燃料としてプラスチックを一部投入することがあるのです。こうした背景を知らず、ごみ分別への意義が見出せなくなったりはしないように、ごみの行き先をきちんと表示しています。

また、古紙と金属類を業者に購入してもらって得られる収入が年間100万円程度あるので、それを協力してくれる住民に還元することもしています。町の指定に従ってごみを分けてくれた住民に対してポイント制度を設けて、商品と交換できる仕組みをやる気の醸成につなげています」

 

住民を幸せにしながら人を呼び込み、町や経済を活性化させていく

— ゼロ・ウェイストの取り組みについては、町だけでなくNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーと協力して行われています。その理由についてお聞かせください。

「ゼロ・ウェイスト宣言から2年後の2005年に、行政主導で起ち上がったのが、ゼロ・ウェイストアカデミーです。アカデミーは主にゴミステーションの管理を行いながら、『くるくるショップ』やリメイクショップの『くるくる工房』を開設するなど、ゼロ・ウェイスト推進に向けて力を発揮しています。

役場は、住民に向けてのサービスや町内に向けてなにかを発信することに関しては動きやすいのですが、町外への働きかけを含め広く仲間を募ることに関しては、動きづらいところがあります。そういう役場が不得手な部分を担う組織としても機能しています。

また、役場は人が定期的に異動するので、それによって事業が頓挫したり、最初の意図と方向性が変わったりすることがあります。それを防ぐためにも、ゼロ・ウェイストアカデミーにはこれまで得た知識や経験を蓄積してもらい、役場の担当者が代わってもゼロ・ウェイストへの意識や取り組みを変わらず推進できるようにしてもらっています。ほかにも、ゼロ・ウェイストに精通した住民代表にゼロ・ウェイストの推進員も務めてもらうなど、住民参加型で取り組みを進めています。」

— ゼロ・ウェイストのゴールはどこにあると考えていらっしゃいますか?

「ゼロ・ウェイストは、ごみをゼロにすることが目的かと問われれば、答えはノーです。ゼロ・ウェイストは上勝町が町として持続して、住民が幸せに暮らしていくための手段。ですから町の人たちに『ゼロ・ウェイストをやって良かった』と感じてもらえなければ意味がありません。上勝町は何もしなければ、2040年には人口が700人になると推計されています。このまま高齢化が進んで若い人がいなくなれば、現在一つずつある保育園、小学校、中学校がなくなり、人口減少に拍車がかかってしまうでしょう。

その歯止めの一つとなるのが、ゼロ・ウェイストの取り組みだと考えています。ゼロ・ウェイストで注目されたことによって移住に興味を持たれる方もいらっしゃいますし、実際にゼロ・ウェイストの理念に共感してくださり転入した方もいらっしゃいます。

興味のある方に向けては、『INOWプログラム』でゼロ・ウェイストをコンセプトとした暮らしを体験できるようにしています。より具体的に移住への道筋が見えるようなホームステイプログラムであり、環境への意識改革ができるような内容も盛り込んでいます。

町内には高齢化で閉鎖される店もありますが、新しくできる店もあり、『café polestar』や『Rise &Win』にはゼロ・ウェイストの試みがそこかしこに見られます。こうしたお店を目指して町を訪れる人もいらっしゃいます。

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外装・内装に廃材を活用しているブルワリー Rise &Win

住民を幸せにすることをベースに、今後はゼロ・ウェイストで経済循環を生み、教育にも力を入れて、環境課題に取り組むリーダーを輩出していきたいと考えています」

 


上勝町
徳島県のほぼ中央に位置する上勝町は、標高100〜700mの間に大小55の集落が点在する人口約1500人の小さな町。町を流れる勝浦川の上流にはブナの原生林が広がる高丸山や見事な水苔が群生する山犬嶽など豊かな自然が残されているほか、急峻な山の斜面には棚田が点在しその景観は『日本の棚田百選』に選ばれている。高齢化と過疎が進む中、山の中という立地を生かした料理の『つまもの』ビジネスや、他の自治体に先駆けて宣言したゼロ・ウェイストで全国から注目される。四国一小さい町ながら、住民が主体となったアイデアにあふれたまちづくりを行っている。