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サイクリングでニッポンの地域を元気に、 ディスカバー九州―CYCLING ISLAND KYUSHU-の挑戦(前編)

サイクリングでニッポンの地域を元気に、 ディスカバー九州―CYCLING ISLAND KYUSHU-の挑戦(前編)

サイクリングでニッポンの地域を元気に、 ディスカバー九州―CYCLING ISLAND KYUSHU-の挑戦(前編)

インバウンドにおいて、高まるコト消費への対応、地域の観光資源掘り起こし、SDGs、健康管理といった様々な観点から着目されているサイクルツーリズム。九州7県に沖縄・山口を加えた計9県が、ディスカバー九州 ―CYCLING ISLAND KYUSHU-を展開し、サイクルツーリズムの推進に力を入れています。 サイクルツーリズムをどう振興していくのか。ディスカバー九州の事務局を務める九州観光機構企画部経営戦略室の山本哲朗さんに話をお伺いしました。

(後編はこちらから)

国際サイクルロードレース「ツール・ド・九州」の開催と観光商品の開発で需要を掘り起こす

インバウンド市場が順調な回復を見せる中、観光立国推進基本計画が掲げる持続可能な観光、消費額拡大、地方誘客促進に資する有望な観光素材のひとつとして注目されているのがサイクリングです。

九州・沖縄・山口がサイクルツーリズムに本格的に乗り出したのは、コロナ真っただ中の2020年のこと。9県の知事らが参加する九州地方知事会と経済団体の代表も加わる九州地域戦略会議で、福岡、大分、熊本でも開催されたラグビーワールドカップ2019(RWC2019)のレガシーを継承し、近年九州を襲った自然災害からの復興を象徴するとともに、九州・沖縄・山口の地域活性化を目指して、プロ選手が参加する国際サイクルロードレース「ツール・ド・九州」の開催と、九州・沖縄・山口各県を自転車で巡る旅行者を誘致する「ディスカバー九州」の取り組みを進めていくことが決定しました。

サイクルスポーツの盛んなヨーロッパでは、「ツール・ド・フランス」に代表される国際的なサイクリング大会が多く行われ、世界各国から観戦目的の観光客を集めています。山本さんは「サイクリングをキーワードに、九州イベントの核となる国際スポーツ大会に合わせて一般客の誘致を面展開することで、人流の活性化と経済効果の最大化を図っていきたいと考えました」と説明します。

海外のサイクリングの専門家やインフルエンサーの声を活かす

2023年10月の「ツール・ド・九州2023」開催に向け、プロチームの招請や欧米マーケットへの情報発信といった準備が「ツール・ド・九州2023」実行委員会中心に進められた一方、「ディスカバー九州」が2022~2023年度の2ヵ年計画で始動しました。広域連携でオリジナルのサイクルルートを作り、周遊型の旅行商品を展開して情報発信することで、サイクルツーリズムのブランド構築と継続的な国内外からの誘客の促進を図るのが目的です。

九州・沖縄・山口の持つサイクルツーリズムに対するポテンシャルについて山本さんは、「このエリアは降雪がほとんどないことから、一年中走ることができ、起伏に富んだ地形、風光明媚な景色、温泉があります。サイクリストの拠点となる規模の都市が点在し、各地を結ぶ鉄道、バス、周辺の島々への船など交通手段のバラエティーも旅行者にとって魅力的です」と力を込めます。世界的な環境保護、自然志向、健康志向の高まりとともに、サイクリング愛好者が増加していることも背景にあります。

九州エリアは瀬戸内海のしまなみ海道などと比べ、サイクルツーリズムの目的地として知名度が高いわけではありません。では、どのように独自のブランド構築に取り組んだのでしょうか。地域に精通したサイクリングガイドの同行を前提とした上で、まずは主なターゲットを国内と、海外ではアジア、欧米豪に分類。国内市場向けには、ビギナーから中級者の日帰りを想定し、1日の走行距離5km~30kmとして、地域の資源やイベントを活用したツアー38コースを作り、中心価格帯を8800円で設定しました。

一方、海外市場に対しては、これまでの誘客実績が少なかったことから、アジアは主に台湾、香港、タイ、その他欧米豪の英語圏を中心に、国・地域を絞り込みました。2022年11月から12月にかけて、アジアはサイクリング系インフルエンサー、欧州はサイクルツーリズムの専門家を中心に招聘し、中級以上、周遊型の仮ルートを実際に自転車で走ってもらいました。


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招請の様子(アジア市場)
招請期間:2022年11月14日〜11月18日(タイ)/11月21日〜25日(香港)/12月15日〜18日(台湾)

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招請の様子(欧米豪市場)
招請期間:2022年11月27日〜12月3日

インバウンドについては、サイクリングの専門家やインフルエンサーを招請してツアーを実施。もともと、彼らの実体験を踏まえて軌道修正する計画でしたが、その反応は「各市場を想定したサイクルルートを作ればある程度集客が見込めるのではないか」といった希望的観測を否定するものでした。「最初にショックだったのは、イギリスから来た方に『サイクリング旅行の目的地として九州の認知度は?』と尋ねたところ、『"nobody knows"、そもそも九州がよく分からないよ』と言われたことです」と、山本さんは苦笑しながら振り返ります。

各サイクリングコースについては、「海や森林などの自然がバランスよく組み込まれていて、楽しい。たまに砂利道などの挑戦的な道もあって、冒険も楽しめる」(タイ)、「自然と日本の伝統的な建物や田舎を訪れることができる」(欧州)などと全体的なルートへの満足度は高かったものの、特に欧州の参加者を中心に「山、海の風景、温泉、観光など、要素が詰め込まれ過ぎている。テーマを絞ったほうがいい」「せっかく風光明媚なのだから、1日ごとに都市を移動するのではなく、観光地をゆっくりと滞在したい」といった厳しい声も相次ぎました。

招請事業も含めた調査結果を最大限に活かし、インバウンド向けの旅行商品は九州を横断する桜コース、西九州島めぐりコースなど10コースを設定。一例として、欧米豪向けには中級者以上向け、広域周遊を想定した高付加価値型ツアーとして商品単価は1人当たり70万円程度〜としました。2023年2月に「ディスカバー九州」公式サイトを開設し、コースの詳細や難易度、走行距離、高低差、周辺地域の魅力などの情報をマップとともに多言語、一部は動画で掲載しました。

自治体や事業者との広域連携が今後のカギに

こうした様々な試行錯誤を経て2023年度に本格化した「ディスカバー九州 ―CYCLING ISLAND KYUSHU-」。こうした様々な試行錯誤を経て「ディスカバー九州」は2023年度に本格化し、2023年10月6日~9日に福岡、熊本、大分で開催した「ツール・ド・九州」第1回大会においても、サイクルツーリズム推進の機運醸成を目的とした各地での市民参加型イベントが盛り上がりました。

また、「ディスカバー九州」は2023年度のKPIとして、企画した旅行の参加者数250人(海外130人、国内120人)を目標に掲げています。山本さんによると、目標数値は年内には達成する見込みですが、インバウンドについては当初設定していた周遊型ツアーの利用よりも、各地での日帰りツアーの参加が多いことがわかってきました。日本と海外で異なる交通ルールの浸透、サイクルステーションなどの整備などの課題も山積しています。

山本さんは「この2年間で世界から見たデスティネーションとしての九州の立ち位置、コース設定、集客方法をはじめとしていろんな手応え、課題を得ることができました。これからは九州エリア内の各事業者、自治体との連携を一層強固にし、長期的な視点で観光のコト消費、地方への経済効果など様々な視点で九州をサイクルツーリズムの聖地にするための取り組みを推進していきたい」と意気込みます。2024年度以降はどのような枠組みでどう展開していくか、まさに検討している段階ですが、九州地方知事会では「九州・山口広域推奨ルート」を、国が指定する「ナショナルサイクルルート」にすることも目指しています。

新たなツーリズムの普及には、地元の熱意、受け入れと売り出す努力が不可欠です。九州各地で広がりつつあるサイクルツーリズムについて、後編では「道の駅 阿蘇」の取り組みを紹介します。

ディスカバー九州公式サイト