2022年3月25日
「アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)2021バーチャル北海道/日本」開催レポート

2021年9月20~24日、アドベンチャーツーリズムの国際サミット「アドベンチャートラベル・ワールド・サミット(ATWS)2021バーチャル北海道/日本」(以下ATWS北海道/日本)が開催されました。アジア初となる本サミットは、北海道でリアル開催される予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響によりオンラインでの開催となりました。本記事では、JNTOも運営に参加したATWS北海道/日本の概要についてレポートします。 ※記事中記載の役職はATWS北海道/日本開催当時
アドベンチャーツーリズム/トラベルとは
アドベンチャーツーリズム/アドベンチャートラベル(以下AT)とは、アクティビティ、自然、異文化体験の3要素のうち、2つ以上で構成される体験型旅行のこと。アクティビティを通じて地域の自然・文化を体験することにより、旅行者自身が「未体験の、多様な価値観」に触れ、自身の内面に変化がもたらされるような旅のスタイルです。AT旅行者は一般の旅行者よりも長期滞在が見込まれ、観光消費額も大きいため、地域への経済効果が大きい点が特徴です。また、地域にとっては自然・文化などの地域資源を活かすことのできる重要な観光コンテンツのひとつと言えます。
アドベンチャートラベル・ワールド・サミットとは
アドベンチャートラベル・ワールド・サミット(ATWS)とは、アドベンチャートラベル・トレード・アソシエーション(ATTA)が主催する、ATに関する世界最大規模の商談会・イベントです。旅行会社やメディア、アウトドアメーカー、観光局・観光協会、ガイドなど、世界中のAT関係者が一堂に会し、通常4~5日間にわたってAT体験、商談会、セミナーなどを行います。
アジア初開催となる2021年大会は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けてオンライン開催となり、参加者の減少が危惧されましたが、結果的には58か国617人と多くの関係者が参加しました。
今回のテーマは、『共生 -in harmony with nature-』。このテーマには、「大自然に恵まれた島であり、アイヌの人々が住む北海道に集うにあたり、将来にわたって自然や土地との『共生』のバランスを維持していくアドベンチャートラベルの役割を探求する」という想いが込められています。
ATWS北海道/日本では、このテーマに沿って講演や分科会がプログラムされ、オンライン商談会、メディア交流会などが開催されました。会期中にはチャットを用いて参加者を各商談会のオンラインブースへ誘導し、会期終了後には公式ウェブサイト上で録画データを公開するなど、オンライン開催のメリットを最大限に活かす工夫が見られました。
【プログラム概要】
日本時間 (現地時間) |
内容 |
9月20日23時~ (21日9時~) |
オープニング:ATTA会長挨拶、ホスト挨拶、VIRTUAL JAPAN ADVENTURE (※)紹介 |
9月21日21時~ (22日9時~) |
基調講演:インサイトインタビュー(黒人女性として初めて世界のすべての国を訪れたJessicaへのインタビュー) |
9月22日23時~ (23日16時~) |
基調講演:情熱的な人々-氷の中のハート(北極圏での共生について考え、スピーカーが北極圏で過ごした2年間で学んだことについて共有する。) |
9月23日23時~ (24日16時~) |
基調講演:Celebrating Hokkaido(北海道による講演。アイヌ文化を積極的に発信するデボ・アキベ氏を招く) |
※ VIRTUAL JAPAN ADVENTURE:リアル開催時に計画されていたプレサミットアドベンチャー(会期前に実施予定だったAT体験ツアー)の魅力を紹介する映像。
ATWS北海道/日本 実施内容
オープニング
オープニングセレモニー「サミット・ウェルカム」では、赤羽一嘉国土交通大臣、実行委員会長を務める鈴木直道北海道知事からの歓迎挨拶に続いて、VIRTUAL JAPAN ADVENTURE を紹介する映像が放映されました。
基調講演「セレブレイティング北海道」では、JNTOの吉田晶子理事長代理が「アドベンチャートラベルのフィールドとしての日本の魅力」について紹介。阿寒アイヌ工芸協同組合専務理事の秋辺日出男氏が「共生」をテーマに語り、鈴木知事は「コロナ収束後の来日・来道への期待」を伝えました。
オンラインプラットフォームを活用した出展
日本側では、9月20~24日の全5日間、オンラインのプラットフォームで3つのラウンジ「ジャパンラウンジ」「北海道ラウンジ」「ジャパンアドベンチャーラウンジ」を運営。日本各地の魅力の紹介や、AT商品を手掛ける旅行事業者および造成したAT商品のPRを行いました。
プラットフォーム内の3つのラウンジ
JNTOは「ジャパンラウンジ」を運営。当ラウンジでは東北観光推進機構、長野県観光機構、中央日本総合観光機構、四国ツーリズム創造機構、九州観光推進機構、環境省が出展して、動画や商品掲載を行い、日本各地のATを紹介しました。
ジャパンラウンジ内の各スポットをクリックすると、出展団体のサイトや動画等に遷移できる
各出展団体がPR動画を提供
Purchaseをクリックすると、旅行商品サイトへ遷移する
オンライン商談を叶えるバーチャル・マーケットプレイス
バイヤー(各国のアウトバウンドツアーオペレーター、ホールセラー、トラベルアドバイザーなど)と、セラー(ATに取り組むインバウンドツアーオペレーター、ATTAメンバーの宿泊施設など)がリアルタイムでオンライン商談を行う「バーチャル・マーケットプレイス(商談会)」が実施されました。
日本国内からも多くの事業者が参加して、商談やメディアとの交流を実施。1対1のミーティングを通じて地域の魅力や商品を売り込む機会が得られました。ただ、事前マッチングされた商談については、今回No Show や直前キャンセルもあり、その理由について主催者は、「時差が大きかったこと」「バイヤーが他地域とのミーティングを優先してしまったこと」「オンラインの技術的な問題」などを挙げています。
商談会を行った国内のセラーからは、以下のような声がありました。
・「テーラーメイドやスモールグループ(少人数旅行)を取り扱うバイヤーが多かった」
・「文化体験をからめたATの方が販売しやすいのでは、という印象を受けた」
・「ロングホール向けの旅行先のため、2週間くらいのツアーで、観光をしながらアドベンチャーや文化体験を入れたいという声が多かった」
・「他県も含めた商品造成ができるか? と質問された」
・「ソフトアクティビティ(特別なスキルがなくても参加できるアクティビティ)のリクエストが多いように感じた」
・「北米と欧州がメインで、個人経営や小規模のエージェントが多い印象を受けた」
・「サイクリングを扱う旅行会社が多いように感じた」
参加した事業者の多くが、今回の商談会で築いたネットワークを活用し、サミット終了後も海外のバイヤーにアプローチするなど、地道な努力を続け商談を進めています。
なお、サミットでは商談会に加えて、サミットのオフィシャルメディア(国際的な旅行ジャーナリスト、編集者、インフルエンサー、ブロガーなど)が、参加者と交流し情報交換を行う「メディアコネクト(メディアとのビジネス交流会)」も実施されました。
評価を集めた映像コンテンツ VIRTUAL JAPAN ADVENTURE
ATWS北海道/日本では、22のプレサミットアドベンチャー(会期前に実施される予定だった、4~7日間にわたる道内体験ツアー。以下PSA)と29のデイ・オブ・アドベンチャー(参加者全員が参加可能な日帰りでの体験ツアー。以下DOA)を催行する計画でしたが、こちらもリアル開催できなくなってしまったため、実行委員会では、PSAを催行予定だった地域のATの魅力をまとめた8本の映像VIRTUAL JAPAN ADVENTURE(各30分)を制作し、会期中、毎日2本ずつ放映しました。
【VIRTUAL JAPAN ADVENTURE概要】
タイトル | 代表的な撮影地 | 概要 | |
#1 | ![]() |
阿寒、摩周、知床、網走、釧路市 | 道東の国立公園を巡り鶴の生態系や生息地である湿地帯、美しい湖でのカヌー体験、ハイキング体験などを紹介 |
#2 | ![]() |
九州、屋久島、四国 | 九州での火山やユニークな体験、屋久島の豊かな自然を活かした体験、四国の海山川を訪れるEバイク体験などを紹介 |
#3 | ![]() |
函館、大沼、洞爺湖、黒松内 | 北海道南部の函館港にもたらされた文化や地元民と自然の関わりなど、農山漁村の物語を織り交ぜながら紹介 |
#4 | ![]() |
大雪山国立公園、然別湖 | 温泉文化、アイヌ文化などが根付き、珍しい動植物が生息している大雪山国立公園のAT体験を紹介 |
#5 | ![]() AKAN MASHU NATIONAL PARK & BEYOND |
阿寒摩周国立公園 | 阿寒摩周国立公園とその周辺の森や湖沼でのトレッキング、釣りなどの体験や、環境と共生してきたアイヌ文化を紹介 |
#6 | ![]() |
日高管内、上川管内、札幌市 | 豊かな自然と賑やかな都市のある札幌や、美しい渓谷でのラフティング、キャンプ体験などを紹介 |
#7 | ![]() |
東北、長野、静岡 | 本州各地の信仰の道を辿るトレッキングやみちのく潮風トレイルでのトレッキングなどを紹介 |
#8 | ![]() |
上川管内、宗谷管内 | 名寄川でのリバーウォーク、森の資源を使った精油づくり、日本最北の地を目指すカヌーなど、北海道北部で実践されている多様なAT体験を紹介 |
視聴した参加者からは、以下のような声が寄せられています。
・「このバーチャルアドベンチャーは素晴らしい!私たちに素晴らしいコーナーを共有してくれてありがとう」
・「九州は、ATのたくさんのポテンシャルがある」
・「北海道に行くのが待ちきれない」
・「素晴らしい!ここに行って国立公園でハイキングすることが楽しみ」
・「これらのビデオは本当に素晴らしい。行きたい場所の上位になった」
VIRTUAL JAPAN ADVENTUREは、終了後アンケートでの評価も高く、今回のATWSでのベストの体験を2つ挙げていただいたところ、多くの参加者が同コンテンツを挙げました。美しい映像とともに「地域ならではのストーリー」を盛り込んだことにより、アドベンチャートラベラーが求める知的欲求を満たしたことが、好評価につながったと考えられます。
VIRTUAL JAPAN ADVENTUREの素晴らしい映像が制作された背景には、アドベンチャートラベラー受け入れの機運を盛り上げ、ツアー造成に取り組んできた各地域の地道な努力があります。
プレサミットアドベンチャー(PSA)選定のポイント
ATWSにおいて、PSAやDOAは、開催地・開催国がアドベンチャーを通じて自国の文化や歴史、自然をありのままにプロモーションすることができる絶好の機会です。ツアーがPSAとして選定されるためには、ATTAの承認が必要であり、以下のような選定ポイントがあります。
【PSA選定ポイント】
1 ツアーの全体構成 | (1)コンセプト・ストーリー | ①ストーリー性 コースにおける地域ならではのストーリー |
②ハイライト コースにおいて参加者を昂揚させるポイント |
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③ツアー設計 新たな視点や魅力を提供し、地域理解が深まるようなツアー設計か |
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④適切なインフラ コース上における文化施設や休憩所などの配置 |
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⑤体験価値 ATTA提唱「5つの体験価値」(ユニークな体験、内面の変化、ウェルネス、挑戦、ローインパクト)のどの分野に注力したツアーか |
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(2)環境への負荷 | 環境保護の取組 環境への負荷を最小化するための配慮及び旅行者伝える工夫 |
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(3)地域経済への貢献 | 地元産品の活用や地域の雇用創出など、地域経済へ貢献するための取組 | |
(4)催行後のツアー販売可能度合い | ①催行後のツアー販売体制 ツアー商品として継続的に顧客に提供する体制の構築 |
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②顧客に合わせた選択肢 顧客の嗜好やスキルに応じたバリエーション及びバランスの取れた組立て、オプションの設定状況 |
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2 コンテンツ | (1)体験・アクティビティ | 地域住民との交流など、双方向性のあるコンテンツの有無と内容 |
(2)ユニークさ | 当該地域ならでは、または当該地域でしか体験できないコンテンツの内容 | |
(3)挑戦的か | アクティビティや体験における、チャレンジングな要素の有無と内容 | |
3 安全性 | (1)重要事項の説明 | ①MIC(Minimum Information for Customers)の整備、全体の行程と内容、必要な携行品や装備、事前に取得すべき顧客情報等が整備されているか。 |
②免責事項の説明 免責事項を適切に整理し、顧客に説明することができるか。 |
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(2)リスクマネジメント・装備 | ①ファーストエイド 応急措置に関するスキルや知識、必要な備品等の準備状況 |
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②ギア・ウェアの用意 外国人の利用に対応できる豊富なサイズのギアやウェアの貸出しの可否 |
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③悪天候時の代替案 悪天候時の代替案の有無及び内容 |
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4 英語対応 | (1)重要事項・緊急時の英語対応 | ツアー催行前の重要事項説明や、催行中の緊急事態等に関する英語対応の可否 |
(2)コンテンツに関する英語対応 | ツアー中の自然や歴史、見所等に関する英語による説明の可否 |
多くのポイントがありますが、「複数のコンテンツが、ストーリーを持った一体性のある行程として入念にコーディネートされている」点は特に重要です。旅行者に価値ある経験を提供するための工夫や仕込みがなされ、短時間・単発のコンテンツの単純な組み合わせでは体験できないような行程を準備する必要があります。
PSAやDOAで提供されるアドベンチャーは、サミット参加者に満足してもらうことがゴールではありません。サミット終了後に、実際の商品として販売されることを念頭に、「商品販売を通じて、環境・社会・地域経済に長期的な利益をもたらす」ことが求められます。そのため、PSAやDOAでは、参加したメディアやオペレーターの心に響く、実際的な体験型メニューを提供することが重要です。
これらのポイントを踏まえ、各地域においては、何度も下見してはPDCAを繰り返し、関係者が協力して磨き上げ、質の高いツアーを作り上げてきました。ATコンテンツ商品の造成に向けて上記ポイントを参考にしてみてはいかがでしょうか。
2023年、北海道でのATWS再開催に向けて
今回のATWS北海道/日本では、PSAもDOAも参加者に実際に体験いただくことができませんでしたが、サミットの最後に、ATTAのケイシー・ハニスコ会長より「2023年に再び北海道で開催することが内定した」との喜ばしい発表があり、また、2022年2月8日には、ATTAから改めて正式決定のプレスリリースがありました。コロナ収束の見通しは未だ立っていませんが、日本の各地でアドベンチャーが繰り広げられ、体験する機会が再びやってきます。
今回のサミットでは、日本の観光資源のポテンシャルについて国内外で再認識されました。商談会やメディア交流会後の印象調査や、ATWS終了後のアンケートでは、「日本の文化的背景は、日本初心者にとって非常に貴重だった」「日本の歴史、文化、自然の美しさを深く知ることができ、勉強になった」「今回、初めて日本を身近に感じることができ、楽しかった」などの声が届いています。海外のバイヤーやメディアの日本に対する知識はまだ浅く、特に地方に関する知識はほとんどないため、これからも地方の積極的な情報発信が必要であることが分かります。
2023年のATWSに向け、そしてその後も日本にATを定着させていくため、地域からは、「地域のコーディネーターや英語対応可能なガイドなどの人材不足、宿泊先の不足、インフラ整備、環境・景観の保全、サステナブルな認識の醸成などの課題に引き続き取り組みたい」という意欲的な声がありました。ATWS北海道/日本に向けて取り組んできた経験と気づきは、今後のより良いツアー造成に役立つことでしょう。
そして参加者アンケートでは、「日本がATWSなどに参加する前は、旅行先としてあまり興味がなかったが、ATTAのスポンサーになったことで、日本への関心が高まった。イベントで日本のプレゼンテーションや代表団に出会うと、興味が湧く」「今回をきっかけに、日本が行ってみたい場所の候補のひとつになった」といったコメントもあり、JNTOでも今まで取り組んできたプロモーションが少しずつ実を結んでいることを実感しています。
インバウンドが再開した際には、ATが必ずや訪日の大きな動機となるでしょう。JNTOでは、引き続き国内AT関係者の皆様と連携しながら、ATデスティネーションとしての日本の情報発信に努めてまいります。
【参考リンク】
アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)2021北海道/日本 公式サイト(英語)
アドベンチャートラベル・トレード・アソシエーション(ATTA)が運営する世界中のATを紹介するサイト Adventure.Travel (英語)
Adventure.Travel 北海道の紹介ページ(英語)