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地域の資源を活かすアドベンチャーツーリズム①(Adventure Travel World Summit 2019の報告)

地域の資源を活かすアドベンチャーツーリズム①(Adventure Travel World Summit 2019の報告)

地域の資源を活かすアドベンチャーツーリズム①(Adventure Travel World Summit 2019の報告)

2019年9月16日〜19日にスウェーデン・ヨーテボリで開催されたAdventure Travel World Summit (ATWS)に、日本のアドベンチャーツーリズム (AT)のプロモーションのためJNTOが初出展しました。北海道を中心に日本でも取り組みが広がってきたAT。今回はATWSスウェーデン大会のレポートをお送りします。

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アドベンチャーツーリズム(AT)の3要素と5つの体験価値

世界100ヵ国、1400機関以上の会員(メディア、ツアーオペレーター、アウトドアメーカー、政府観光局、観光協会、DMO等)を持つAT業界最大の団体であるAdventure Travel Trade Association (ATTA)は、アドベンチャートラベルとも呼ばれるATについて、「自然」「異文化体験」「アクティビティ」のうちふたつ以上の要素を持つ旅行と位置づけています。さらに上記3要素に加え、ATTAはATにおける5つの体験価値として「今までにないユニークな体験」「自己変革」「健康であること」「挑戦」「ローインパクト」を掲げています。ATTAの調査 (2017)では、アドベンチャートラベラーは特に『自分自身が変化する自己変革を旅行に期待していること』もわかっています。

ATTAが提唱するATにおける5つの体験価値(JTB総合研究所提供)

またATTAは観光を通じた環境・社会文化・地域経済への貢献を重要なミッションとして掲げており、アドベンチャートラベラーやATオペレーターのサステイナビリティ(持続可能性)や気候変動、貧困・雇用問題、地域経済活性化等への取り組みも強く推進しています。サステイナビリティの3つの柱である環境・社会・地域経済を考慮した上で、さまざまな体験が提供可能な旅行となるよう、たとえばツアーのカーボンオフセット(*)を行っているオペレーターがいたり、地域で生産された材料を使用した食事を提供したりと、さまざまな取り組みがなされています。ATは地域にある資源を活用した観光を通じて、旅行者にとって忘れられない旅行を提供するとともに、地域の人々や環境・社会文化・地域経済にも貢献し、さらに地球レベルでの課題も解決を目指すツーリズムとして成長しています。

*人間活動により排出される二酸化炭素等の温室効果ガスを、植林や森林保全活動等を行うことで相殺すること

 

AT業界最大のイベント、Adventure Travel World Summit (ATWS)

ATTAは年間を通じてさまざまなイベントを各地で開催しています。その中でも最大の規模を誇るATWSは、4日間で60ヵ国以上から750名以上が参加する最も大きなイベントです。2005年から毎年場所を変えて開催されており、2016年米国・アラスカ、2017年アルゼンチン・サルタ、2018年イタリア・トスカーナと大陸を横断して開催されてきました。16回目となる2019年は、9月16日〜19日にスウェーデン第2の都市であるヨーテボリで開催され、ATWSスウェーデン大会にはJNTOを含め日本からも数十名の関係者が参加しました。

ATTAおよびATWSの概要

ATWSでは4日間のサミットに先駆けて、Pre-Summit Adventure (PSA)と呼ばれる4〜5泊程度の体験型メニュー(アドベンチャー)が準備されています。今回は開催都市であるヨーテボリだけでなくスウェーデン全土において23コースが設定されました。Pre-Summit Adventureに参加するためには、サミット参加費とは別に体験費用が必要ですが、メディアやバイヤーを中心に200名程度が参加しています。Pre-Summit Adventureのコースで寝食をともにした参加者同士のつながりはATTAコミュニティの結束を強くしており、人から人へと輪が広がっていくことを実感することもできます。

Pre-Summit Adventureのコース例(ATTA Webサイトより)

またサミット初日には、参加者全員が参加可能な1日の体験型メニューであるDay of Adventure (DOA)が開催されます。サミット会場のヨーテボリから1日で往復可能な範囲にコースが設定されており、今次大会では41コースが設定されました。アクティビティには比較的ハードなもの(例:ロッククライミング、トレイルランニング)とソフトなもの(例:短距離のトレッキングやバイクライド)がありますが、Pre-Summit Adventure、Day of Adventure双方ともそれぞれ5段階にレベル分けされており、自身の体力や経験、興味関心にあわせて行程を確認しながらコースを選ぶことが可能です。魅力的なコースはすぐに定員になってしまいますので、サミット参加者は応募可能な時期になると慎重かつ迅速に参加するコースを吟味して応募します。各コースは参加者の心をつかむような工夫が各所になされており、JNTO職員が参加したDay of Adventureの山頂でのBBQランチでは、目の前の森で採ってきたばかりの新鮮なキノコを、シェフが素材の味を生かすためにさっと調理して振る舞うサプライズも。スウェーデン憲法で保障されている自然享受権 (allemansrätten/アッレマンスレット:誰もが自然の恩恵を受け、楽しむことができる権利) を参加者が自らの身をもって体験することができました。

Day of AdventureのBBQランチの一例

ATWSにおいて、Pre-Summit Adventure、Day of Adventureは開催地・開催国がアドベンチャーを通じて自国の文化や歴史、自然をありのままにプロモーションすることができる重要な機会となります。これらの体験型メニューの特徴は、複数のコンテンツが一体性のある行程として入念にコーディネートされていることです。ATのディスティネーションは、ストーリーや強弱のある流れによって旅行者に価値ある経験を提供するためのさまざまな工夫や仕込みをしており、短時間での単発のコンテンツの単純な組み合わせでは体験できないような行程が準備されています。またPre-Summit AdventureやDay of Adventureで提供されるアドベンチャーはサミットで参加者に満足してもらうことがゴールではありません。各コースはサミット終了後に、実際の商品として販売されることを念頭に組まれていますので、開催地・開催国には宿泊や飲食といった会議開催そのものによる短期的な利益だけでなく、将来的な商品販売を通じた環境・社会・地域経済への長期的な利益が得られることが期待できます。したがって、Pre-Summit AdventureやDay of Adventureでは参加したメディアやオペレーターの心に響く、実際的な体験型メニューを提供することが重要であると言えます。

サミット2〜4日目はマーケットプレイス(商談会)、メディアコネクト、セミナー、コンカレントイベント(併行して実施される各種イベント)等が開催される他、オープンスペースに設置されたネットワーキングテーブルでも商談や情報交換が次々に行われ、サミット参加者同士が有機的な交流ができるよう運営されています。B to Bのビジネスモデルを基本とするATTAは、ATWSを始めとするイベントを通じてATTAメンバーにプロモーションやビジネスの機会を提供していますが、このように対面で顔が見えるコミュニケーションの場の提供に力を入れていることは大きな特徴と言えます。

ATWSスウェーデン大会オープニング

マーケットプレイス(商談会)

官民連携でATWS開催を盛り上げる

ATWSは世界中のAT関係者が一同に介し、互いの友好を深めながらATの発展を願う年一回の大イベント。開催地・開催国も当該地のATの魅力が伝わるよう、観光産業従事者・行政機関・地域住民が一丸となって官民連携で取り組み、また国内外のスポンサーが地元の食材を使ったランチやディナーを提供してサミットを盛り上げます。今次大会はSDGs の実施で世界をリードするスウェーデンらしいサステイナビリティへの取り組みが各所にあり、たとえば参加者に配布されたウォーターボトルはバイオプラスチック製。ATWSの開催自体もカーボンオフセットされていました。またスウェーデンのお茶文化であるfika(フィーカ)が充実しており、コーヒーや紅茶、お茶菓子がふんだんに準備されて参加者同士の交流を促していたことも特徴でした。

日本の魅力「自然と文化の多様性」をATWSで伝える

ATWSスウェーデン大会には、日本から多くのDMOやツアーオペレーターが参加しました。広域でATの取り組みを推進している北海道では、北海道観光振興機構が出展した北海道ブースを中心に、北海道アドベンチャートラベル協議会等が商談会に参加する等連携したプロモーションを行っていました。

今回、JNTOはATTAが主催する主要セミナーの参加者に向けて、日本のATの魅力を伝えるためのプレゼンテーションを実施。ATは北米・南米・欧州・豪州を中心に拡大してきた経緯もあり、2016年に北海道で地域としての取り組みが始まった日本はATに関しては後発です。プレゼンテーションではATディスティネーションとしての日本のプレゼンス向上のため、日本の魅力である「自然と文化の多様性」に焦点をあてて、映像と魅力的な多くの写真を使用しながらのプロモーションを行いました。プレゼンターがその姿とともに、巧みにユーモアをまぜながら観客の心をぐっと引きつけて行ったプレゼンテーションは、会場を沸かせて盛大な拍手をいただくとともに、日本が自然と文化が掛け合わさったATのユニークなディスティネーションのひとつであることを印象付けました。

JNTOのプレゼンテーション

ATWSを通じて観光とは何かを考える

ATWSの最後を飾るクロージングセッションでは、シャノン・ストーウェルCEOとUNWTO(国連世界観光機関)前事務局長タリブ・リファイ氏の対談がありました。

―観光は旅行者だけでなくディスティネーションが幸せにならなければ意味がないー

ストーウェルCEOは旅行者が旅行に対して持つ「権利 (right)」と「恩恵 (privilege) 」という意識の違いを問いかけます。旅行は旅行者だけのものではなく、ディスティネーションのものでもある。旅行者が旅行することは旅行者の権利ではなく、ディスティネーションからもらう恩恵であることを理解しなくてはいけないことを改めて指摘した内容でした。またリファイ氏は、オーバーツーリズムなど、今般のディスティネーションの環境や社会、経済に、観光が与えてしまうネガティブな影響を受け止めつつ「私は人々が旅行をやめるべきだとは思いません。旅行をやめるのではなく、正しい方法で旅行することを人々に説いていくべきなのです」と参加者に語りかけました。

クロージングセッションの終わりには、来年のATWSがオーストラリア・アデレード(2020年10月6日~9日)で開催されることが発表されました。オセアニアでのATWS開催は初となります。

※本記事の執筆に際し、國谷裕紀ATTAアンバサダー(JTB総合研究所主任研究員)にご協力をいただきました。

下記の記事では、これから国内でのアドベンチャーツーリズムの取り組みを進めるにあたり、ATTAの考えるATをより理解することを目指して、2019年10月に来日されたATTA シャノン・ストーウェルCEOとジェイク・フィニフロック アジア担当部長、またATTAの日本のコンタクトパーソンとして活動されている國谷裕紀アンバサダーへのインタビューをお送りしています。