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UNWTOベスト・ツーリズム・ビレッジ2023に選ばれた白馬村が目指す「持続可能な観光地」とは

UNWTOベスト・ツーリズム・ビレッジ2023に選ばれた白馬村が目指す「持続可能な観光地」とは

UNWTOベスト・ツーリズム・ビレッジ2023に選ばれた白馬村が目指す「持続可能な観光地」とは

3,000m級の北アルプスの山々が連なる麓には、一面に広がる田園風景。世界的にも類を見ない景観を誇る長野県白馬村が、UNWTO国連世界観光機構の「ベスト・ツーリズム・ビレッジ2023」に選ばれました。美しい自然環境に慢心することなく、それを地域全体で守っていく確かな姿勢と、文化や産業も含めた持続可能な観光地を目指す取り組みが評価された今回の認定。世界からお墨付きをもらった取り組みを、白馬村長・丸山俊郎氏に伺いました。

「世界水準」の指標に。村総力戦で臨んだベスト・ツーリズム・ビレッジへの道のり 

──ベスト・ツーリズム・ビレッジ2023としての認定おめでとうございます。観光地としての長野県白馬村についてと、今回ベスト・ツーリズム・ビレッジに応募された理由やきっかけを教えてください。

 白馬村はスキーブームで国内に名が知れ、1998年の冬季オリンピック以降は国際的スノーリゾートとして海外からのお客様も増えましたが、元はといえば農業が中心の小さな村です。「持続可能な観光地」としての在り方を真剣に考えると、村の歴史や古くからある良さをきちんと活かした観光地づくりが必要だと感じていました。

さらに、白馬村として「世界水準のオールシーズンマウンテンリゾート」を掲げているのですが、世界水準って何?というのは観光事業者からも住民からもよく聞かれる質問です。

ベスト・ツーリズム・ビレッジは「人口15,000人以下の農漁村観光地域」が対象ということで、評価項目などを見ても白馬村にとてもマッチする内容でした。持続可能な観光地を目指す小さな村として評価され、世界水準を明文化できるのであれば、非常に相性がいいと感じました。

私自身は村長に就任する以前からこの制度の存在については知っており、いつか村として応募できできたらいいなと思っていました。自分自身過去にホテル支配人として国際的アワードを頂いたことがある経験もあり、このような認定を村として受けることができれば国内外に対しての客観的な証明にもなり、皆が共通して参考にできるひとつの指標にもなる有益なものと考えていました。

 

──応募にあたっていつ頃から準備され、どのような体制を組まれたのでしょうか。

2023年3月の国内審査に向けて年明けからチーム編成を始め、歴史・文化遺産関連は生涯学習スポーツ課が、産業連関表は観光課が、というように全庁横断的なプロジェクトチームを構成しました。裏付けとなるWebサイトの英語化やグローバルな観点での編集が重要でしたので、総務課のホームページ担当や、村外の視点を持つ地域おこし協力隊、海外経験豊富な民間有志の方にもアドバイザーとしてご協力いただきました。インフラや保健衛生面は専門の課に話を聞くなど、本当に多くの方と協力して取り組みました。 

白馬が持つコンテンツをしっかり伝えられれば認められる自信はありましたが、書類や動画など提出するものが多く、観光庁からの助言なども受けてブラッシュアップしながら、白馬村全体をあげて取り組みました。    

応募用のPR動画については、地元の農業法人やシニアクラブから昔の素材を提供いただき、観光目的ではあまり作ってこなかった「農業」の色が濃く出た映像を制作しました。キーメンバーは10名ほどですが、関わってくれた方をすべて含めると相当な人数になると思います。

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▲PR動画に取り入れた白馬の農業の様子

 

英国メディアも称賛した民宿文化とホスピタリティ精神

──ベスト・ツーリズム・ビレッジ認定の決め手や特に評価されたポイントはどのあたりだったと考えていますか。

UNWTOからの文書には項目ごとの評価の記載がなく総合的に判断されたのだと思いますが、やはり白馬ならではの魅力として、景観の美しさは強く打ち出しました。海外からのお客様によく言われるのが「3,000m級のアルプスが農村風景のすぐ後ろにある景色は世界中を見てもなかなかない」ということです。景観は昔からあるものではありますが、ずっと景観を維持してきている点を映像にも入れてアピールしました。

また、文化面では「日本の民宿発祥の地」というところが海外の方の目にもユニークに映ったのではと思います。その昔、白馬村の山岳ガイドや農家を営んでいた人が、登山やスキーに訪れた人を自宅に泊めてあげたことが民宿の起源といわれています。自家農園で栽培した米や野菜、郷土料理をふるまって、家庭的なおもてなしで観光客を迎え入れる。山小屋にしても、泊まった人が山で怪我をすれば、宿の人がお迎えに行く。宿泊施設の形態や建物は時代に合わせて変わりながらも、そうしたホスピタリティ精神を次世代に受け継ぐようなプロジェクトがあることも、白馬らしい取り組みとして打ち出しました。

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▲白馬では、民宿文化が昔から根付いていた

 

──日本の認定地域からは唯一、ウズベキスタンで行われた授賞式に出席されましたが、世界からの反応や国内メディアへの影響はいかがでしたか。

 現地では授賞式とともにベスト・ツーリズム・ビレッジ国際会議が開催され、その中で2分ほどスピーチの時間が与えられたので、先ほどお話したような独創的な魅力を英語で説明させていただきました。それが功を奏したのかはかりませんが、英国メディアBBC Travelで、認定された54地域中5地域を選出して紹介した記事が公開され、その記事の最初に白馬村を紹介してもらえたのです。

記事では20年前に白馬を訪れたオーストラリア人が、ホテルが満室だったにもかかわらず、廊下に布団を敷いて迎え入れられ、それに感動して翌年には白馬に家を買って移り住んだエピソードが紹介されています。大雪が道を塞げば立ち往生してしまうこともある白馬の自然の厳しさにより、「困っている人は助ける」というホスピタリティ精神が根付いているのだと分析されています。まさに期待通りのPRに繋がり、世界的にも評価されていると実感できて嬉しかったです。

 日本国内でも長野県内のキー局すべてに加え、新聞やネットメディアでもたくさん報道していただけました。UNWTO駐日事務所や観光庁からも「ぜひ参加ください」と後押しされて授賞式への参加を決めましたが、招待枠に限りがあるため1人で参加することになり、交通アクセスの難しさや直前のスケジュール変更に翻弄されました。持参したビデオカメラを現地スタッフに渡して撮ってもらい、帰りの車中で自分自身でムービーを編集してテレビ局各社に送信し、なんとか日本時間の放送に間に合わせられたことが印象に残っています。

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▲ウズベキスタンでの授賞式及び国際会議に着物姿で挑んだ丸山氏

 

環境から多文化共生まで、白馬村らしい多面的な取り組み

──「持続可能な観光地」として、UNWTOが公表するSDGsの趣旨に沿った9つの観点*で評価されていますが、中でも注力している具体的な取り組みを教えてください。

 *[1]文化・自然資源 [2]文化資源の振興と保全 [3]経済分野の持続可能性[4]社会分野の持続可能性 [5]環境分野の持続可能性 [6]観光の可能性と発展・バリューチェーン(価値連鎖)の強化[7]観光分野のガバナンス [8]アクセス・インフラ [9]公衆衛生、安心・安全

「持続可能」にはさまざまな側面があると思いますが、白馬村として比重が大きいのはやはり環境対策です。山岳エリアの自然の保全活動や、事業者と行政が一丸となったクリーンエネルギーの創設や利用といったゼロカーボン実現のための取り組み、一般家庭の省エネ化やエコカーへの乗り換えに対する補助などを行っています。

 また、伝統文化の継承にも力を入れています。白馬には、江戸時代頃に日本海で採れた塩を新潟の糸魚川から松本・塩尻まで運ぶのに使っていた全長120kmの交易路が今も残っています。すべて歩くと一週間ほどかかるのですが、当時の歴史に触れながら白馬村内の道を気軽に歩けるコースを整備したり、伝統を繋ぐ「塩の道祭り」を毎年開催したりと、独自の文化を後世に残す取り組みを行っています。どの地域にも伝統文化はあると思うので、掘り下げていくと必ず何かが見つかると思います。

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▲例年5月のゴールデンウィーク期間中には、塩の道祭りが開催される

 

──「多文化共生」も白馬村のキーワードのひとつですが、共存のための取り組みにはどのようなものがありますか。

白馬村には「多文化共生条例」というものがあり、文化の違いを認め合って受け入れていくことを掲げています。行政には多文化共生支援員がおり、村民に対してさまざまなサポートを提供しています。

白馬には外国にルーツを持つ人も多いので、ごみ捨てルールといった生活の基本的なことも多言語で情報を得られるようにするなど、国や言葉の垣根をなくすことも重視しています。すでにさまざまな国の方が住んでおり事業者の方も意識が高いので、行政があえて働きかけなくても自然とウェルカムな姿勢になっていますね。

また、多様性の面では女性の活躍推進や、障害者の方への支援も手厚くしています。バリアフリーを促進するスキー場もありますし、観光事業者が障害者の方が作ったものを使ったり働き手として迎え入れたりできる仕組みも整えています。

白馬の豊かさとは多様であることだと考えていて、「多様であることから交流し学びあい成長する村」を総合計画における基本理念としています。

 

──9つの観点には経済やビジネスの面での持続可能性も含まれていましたが、その観点で評価された取り組みはありますでしょうか。

 他の自治体でもあると思いますが、スタートアップなど白馬に来て何かを始めようとする人を応援する創業塾や支援金を用意しています。また、できるだけ地域内でお金の循環が作れるように、村独自の「産業連関表」を作って地域の産業構造や実態をデータで見える化しています。また、白馬村観光局では独自の宿泊予約サイトを設け、OTAを通さずにダイレクトに予約いただくことで確保できた財源を村のプロモーションに回したりしています。地元で作って、地元で循環させる流れを大切にしています。

認定されたことを地域内外に伝え、白馬の魅力やビジョンを伝えるツールとして活用 

──地域一丸となってサステナビリティに取り組んでいる印象がありますが、ベスト・ツーリズム・ビレッジへの認定を地域住民にどのように伝えていきましたか。

自分の中では「とにかく村民への報告をしなければ」という強い気持ちがありました。このような光栄な認定を頂けたことを早く村民に報告して、誇りに思ってほしかったんです。報告会では、評価されたポイントを「山岳、民宿、スキー、里山文化、農業」という5つに分け、各カテゴリに貢献されている人に村から感謝状を送りました。昔から塩の道祭りでガイドをしてくださっている先生や、山とスキーの総合資料館の初代館長さん、白馬山案内人組合や白馬農業組合の組合長さんといった方々です。村民の方たちは「こういうことが評価されたんだ」とわかり自信にも繋がったと思います。国際的な機関から認定されるという目に見える結果が得られたことで反響もたくさんあったので、応募してよかったと思っています。

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▲村民に向けて行われた報告会、白馬村の持続可能な地域づくりに貢献している方たちを表彰

 

──ベスト・ツーリズム・ビレッジ認定の前後では他にどんな変化がありましたか。また選ばれたことをこの先どのように活かしていくご計画かお聞かせください。

選ばれたことそのものが信用の証になっていると感じます。ベスト・ツーリズム・ビレッジ認定を機に、これまでお会いすることのなかった方とも意見交換する機会をいただきました。そこで、白馬村として抱える課題や、現在白馬村で行っている持続可能な取り組みなどを話すことができたことの意味は大きかったと思います。

また、今回の認定は対外的なプロモーションにも有効だとは思うのですが、それ以上に地域住民やこれから地域に参入しようとする人たちに対しての、白馬村の魅力やビジョンを伝えるツールとして役立つと思っています。今後、コンセプトが少し白馬に合わないような投資の話や、在りたい観光地の姿から離れてしまいかねない建設案件なども出てくるかもしれません。そうしたときに、長い目で見て良い形で経営していきたいなら今ある魅力をもっと磨いていく必要がある、という合意を取るための指針にもなると考えています。観光地経営計画や持続可能な観光ガイドラインといった公式なものもありますが、そこに白馬らしいスピリットを織り交ぜていく材料として、うまく活用していきたいです。

 

──これから白馬村が目指す「持続可能な観光地」の姿と、今後ベスト・ツーリズム・ビレッジへの応募を目指す自治体へのエールをお願いします。 

「持続可能な観光地」とは、経済やエネルギーが地域内で循環していて、地域住民も観光客も快適に過ごせる状態が恒久的に続くことだと思っています。環境的にも社会的にも負担にならない適正な数のお客様にオールシーズンを通して来ていただき、白馬村への誇りと愛着を醸成して、誰もがウェルビーイングな状態でいられる地域を作っていきたいです。

どこの自治体にも認定を目指せる素地はあると私自身は感じているので、それをいかに見つけ出して磨き上げ発信するかだと思います。これから認定地域が増えれば認定の希少価値は減っていくかもしれませんが、サステナビリティを意識して認定を目指したというアクション自体が、地域にとって意義あることになるはずです。

持続可能性への意識を持った観光地が増えれば、リテラシーが高い観光客も増えていき、地域がさらに持続可能な場所になるという好循環が生まれます。環境負荷の低減やオーバーツーリズムの防止にも寄与するでしょうし、きっとすべての観光地にとって良いことなので、ぜひ全国的に取り組んでさまざまな地域が認定されていってほしいと思っています。


丸山俊郎

白馬村長

 長野県白馬村生まれ。株式会社オリエンタルランドなどでの勤務を経て家業の「しろうま荘」支配人に。2012年に「ワールド・ラグジュアリー・ホテルアワード スキーリゾート」世界一を受賞したのをはじめ数々の国際的な賞を受賞。白馬高校非常勤特別講師担当、「白馬国際トレイルラン」創設に携わるなど多角的に活動。2022年、白馬村長に就任。