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古湯・下呂温泉がエコツーリズム+データマーケティングでバージョンアップ(前編)

古湯・下呂温泉がエコツーリズム+データマーケティングでバージョンアップ(前編)

古湯・下呂温泉がエコツーリズム+データマーケティングでバージョンアップ(前編)

室町時代から、草津、有馬とともに「三名泉」としてその名を轟かせた下呂温泉。一度は訪れたい温泉地としての地位を獲得しているかに見えますが、これまでに何度も観光客の激減に見舞われたといいます。そこから何度も立ち直り、下呂温泉は、2022年に「世界の持続可能な観光地トップ100選(グリーン・デスティネーションズ)」に選ばれ、今や世界に知られるサステナブルな温泉地となり、観光の力で地域全体の活性化を図っています。その原動力は、DMOによるデジタル戦略。その詳細を下呂温泉観光協会会長・瀧康洋さんに伺いました。

対象地域
岐阜県・下呂市
面積
851.21平方キロメートル
総人口
30,034人(令和5年2月1日現在)
主要観光資源
下呂温泉、下呂温泉合掌村、御嶽山等
公式サイト
https://www.city.gero.lg.jp/

紆余曲折を経てたどりついた「エコツーリズム」という光明

―まず、下呂市と下呂温泉について概要を教えてください。

下呂市は、2004年3月に4町1村が合併して誕生しました。岐阜県のほぼ中央に位置し、全国に名前が知られている下呂温泉の最寄である下呂駅は、名古屋から特急で1時間40分ほどなので、アクセスしやすい場所に位置しています。しかし、下呂温泉がある下呂エリア以外の小坂エリア、萩原エリア、馬瀬エリア、金山エリアに関しては、それまで観光事業はほとんど行っていなかったため、合併を機に下呂市全体に観光の力を浸透させて地域活性化につなげようとしています。

―2018年4月に下呂市エコツーリズム推進全体構想が環境省、国交省、農水省、文科省の認定を受けましたが、エコツーリズムを推進しようと思われたきっかけは何だったのでしょうか。

下呂温泉は「美人の湯」とも呼ばれ、古くから賑わいをみせた温泉地ですが、高山に高速道路が通って"奥飛騨ブーム"が起き、団体客がごっそりとそちらに流れて閑散としてしまった時期がありました。当時は観光業にとって、団体客をどれだけ呼び込めるかが大切な時代だったので、大きなマイナスとなりました。また、2011年の東日本大震災の時にも観光客が激減し打撃を受けました。なんとかそこからの脱却を図るため、さまざまな実証事業等を行う中で、行き着いたのがエコツーリズムでした。

エコツーリズム推進法に基づく認定を受けると、国の広報支援を受けたり宿泊施設やツアー事業者によるお客様の送迎輸送が認められたりといったメリットがあります。さらにエコツーリズムは、自然環境を保全するだけでなく、地域の歴史や文化なども含めた固有の資源を活かして観光につなげるものです。旅行者にとっては魅力的な地域・資源との出会いや学びがあり、地域の人々は観光による経済効果で暮らしが安定し、資源も地域の個性・魅力として守られ受け継がれていきます。下呂市には合併によって生まれた個性の異なる5つのエリアがあるため、地域資源を守りながら観光振興もできるエコツーリズムはまさに下呂市にうってつけで、いきついた時には「これだ!」と光が差す思いでした。

そこで4町1村それぞれの地域の魅力を掘り起こしながら、環境保全も地域振興もすべてが叶うエコツーリズムを進めるために、DMOが中心となって観光関係者だけでなく住民も巻き込んだ取組を進めることになったのです。

古湯・下呂温泉がエコツーリズム+データマーケティングでバージョンアップ(前編)

 

市民を巻き込んで、エコツーリズムを確固としたものに

―観光業に携わらない住民の方々をどのように巻き込んだのでしょうか?

まずは各地域の人を集めて意見交換を行いました。すると地域それぞれの"色"が明確になってきました。滝の数が日本一ある小坂エリア、約300年の歴史を持つ造り酒屋がある萩原エリア、養蚕文化を偲ばせる民家や美しい里山が残る馬瀬エリア、縄文遺跡のある金山エリア。それぞれの特色を打ち出したキャッチコピーをつくり、それに沿って観光振興をすることにしました。そうすれば各々の土地の個性や資源も自ずと守られます。

また下呂市全域の地域資源を掘り起こすことを目的とした「宝探し」を実施。市民にアンケートを配布し、「自然」「生活環境」「歴史・文化」「産業」「名人」の各項目で、「自分にとって宝物だと実感する事柄」について記入してもらいました。こうして2,714もの地域の宝を発掘することができ、市民のみなさんの当事者意識や連帯感の醸成にもつながりました。

さらにこれによって、地域の宝をさらに磨いて多様性と持続性に富んだ下呂市全体の観光につながるエコツアーへの扉が開かれました。2017年度から始めたキャンペーン『どっぷり、下呂。』は、自然や文化資源を活用した体験観光を推進するものです。宝探しによって発掘された「小坂の滝めぐり」や「天領酒造の酒蔵見学」など、個性あふれるエコツアーや体験プログラムを用意して、下呂温泉を訪れた観光客が足を伸ばして、下呂市全体を周遊したくなるような仕掛けをつくりました。臨場感あふれるポスターを作成して宿泊施設や観光施設に掲示し、QRコードを貼り付けてWEBの体験予約ページにリンクするように設定したり、割引クーポンを準備してお得感を打ち出したり、参加へのハードルを下げるなどしました。

古湯・下呂温泉がエコツーリズム+データマーケティングでバージョンアップ(前編)
宿泊施設にて、市内体験施設26ヵ所で使用可能なクーポンを配布

観光は市外の人を呼び込むことと思いがちですが、市民も観光客になります。そこで市民向けに「ワンコイントリップ」も開催しました。市民であっても、地域内の魅力に気づいていないことは多々あります。新しいプログラムやツアーを開発した時に、市民の皆さんにその内容を知ってもらい、観光客との交流ができるようにという思いもあり、市民向けのモニター体験ツアーを4年間実施。これにより、住民の方々は地元の魅力を再発見でき、私達も参加者から感想や改善点を聞き出すことで事業展開に生かすことができました。

―ご苦労はありませんでしたか?

もちろん大変なことはたくさんありました。古くから暮らす者同士にはちょっとしたしがらみがあることもあります。それが壁となって、市民同士やエリア間の交流の障害になることもありました。しかし、子どもたちにはそれがありません。宝探し事業やワンコイントリップなどに子どもたちが参加するようになり、それを一足飛びに超えてくれたこと、またツアーの開発などを通じてエリアを越えた協議や交流ができたことで、滞っていた関係に変化が生まれ、エリア間の交流が促進されていきました。

『どっぷり、下呂。』も、最初はまったくうまくいきませんでした。というのも、地域の観光関係者もこれまでは温泉を目的とした宿泊旅行者の受入ばかりをしてきたので、体験型ツアーというものに地域全体が慣れていなかったことや、さらには「本当にこんなツアーが売れるのか?」という疑心暗鬼もあって、ギクシャクしてしまったのです。

そこで、体験型ツアー事業者による地元商談会を開催したり、宿泊施設のスタッフにツアーを体験してもらったりすることで理解を深めてもらいました。また、市内体験施設で利用可能な割引クーポンを宿泊施設に配布して、観光事業者と宿泊施設との連携を図りました。そして、観光客のツアー体験率や、観光客が下呂市でどの程度の消費活動を行っているかなどのデータを開示することによって、その効果が一目瞭然となったこともあり、今は非常にうまく運営できています。

(後編に続きます)