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東京シティアイ 観光情報センターの ユニバーサルツーリズムへの取り組み

東京シティアイ 観光情報センターの ユニバーサルツーリズムへの取り組み

東京シティアイ 観光情報センターの ユニバーサルツーリズムへの取り組み

日本政府観光局(JNTO)は2023年3月、コロナ禍で外国人観光客の満足度向上に顕著な実績のあった認定外国人観光案内所5ヵ所に対して表彰を行いました。その一つに選ばれた東京都千代田区の東京シティアイ 観光情報センターは、ユニバーサルツーリズム(※)への積極的な対応が評価されています。先進事例として、他地域の観光案内所が視察に訪れるその取り組みについて、施設長の田中慶一さんとサービス課長の藤浪香欧里さんに話を聞きました。

※ユニバーサルツーリズムとは
「すべての人が楽しめるようつくられた旅行であり、高齢や障がいなどの有無にかかわらず、誰もが気兼ねなく参加できる旅行」を目指して、バリアフリーへの対応など、すべての旅行者がストレスなく快適に観光を満喫できる環境づくりが進められています。

きっかけは東京五輪、最初は動きやすい空間づくりから

国内外の観光客で賑わう東京駅前の商業ビル、「KITTE丸の内」地下1階にある東京シティアイ 観光情報センター(以下「東京シティアイ」)は、カフェやイベントスペースを併設する総合観光案内所です。
観光案内だけでなく、交通・宿泊などの手配も行うことができ、20人のスタッフのうち13人がコンシェルジュとして日本語、英語、中国語、韓国語の4言語に対応しています。2023年は訪日インバウンドの回復に伴い、8月の外国人対応件数は約900件と、前年同月の約60件に対して大幅に増加しました。
東京シティアイがユニバーサルツーリズムに着目したのは、東京2020オリンピック・パラリンピックの開催を控えた2019年です。所内では部署を越えた横断的なワーキンググループが定期的に行われており、その中で「障害を持つ人をはじめ、世界から東京に多様な人が来るので対応を考えるべきでは」という意見が出たことがきっかけでした。「とはいえ、くわしい知識があるスタッフもおらず、白紙状態からスタートしました」と藤浪さん。
最初に行った取り組みが、東京都のバリアフリー専門家派遣事業を活用し、アドバイザーに施設を見てもらうことでした。当時はできるだけ多くの情報を提供しようと、床にディスプレイやボードなどを置いていたのですが、アドバイザーから「これでは車いすやベビーカーが通りにくい」という指摘を受けました。
ほかにもラックに数種類重ねて入れたパンフレットが取りにくいなど、きめ細かい指摘があり、それらを受けて通路を広くあける、パンフレットは1種類ずつラックに収め、車いす利用者が手に取りやすいよう低い位置にも設置するなどの改善を行いました。その結果、どんな人にとっても利用しやすい動線と、すっきりとした空間が生まれました。
施設をチェックする中で、思わぬ気づきもありました。「KITTE丸の内は元々バリアフリーな作りなのですが、案内カウンターの一部が車いす利用者に配慮して作られていたことを初めて知りました」と藤浪さん。すでにあったハードの良さを見直し、より有効に活用するきっかけにもなりました。

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車いす利用者の膝が入るスペースがある案内カウンター

当事者のアドバイスが生んだ、スタッフの「心のバリアフリー」

新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年以降は、車いすに乗ってまち歩きを体験するなど、コンシェルジュはユニバーサルツーリズムに関するセミナーや研修を積極的に受講し、車いすに乗ってのまち歩きの体験などもしました。手話ができるコンシェルジュが1人おり、講師役として月に1度の手話勉強会も始めました。
手探りで始めた対応が実際に役立つのかを知るため、2021年には最初に施設のチェックを受けたアドバイザーの紹介で、車いす、手話の各利用者を視察に招きました。他に盲導犬の利用者と対談をする機会も設けました。「この経験はとても役に立ちました」と藤浪さんは振り返ります。
それまでは、耳の不自由な人との筆談用に小さいホワイトボードを用意していたのですが、消す必要がなく対応記録にもなる「シンプルな紙のノートがいい」と言われたり、盲導犬の利用者からは「声をかけるだけでは自分に向けたものかわからないので、軽く肩を叩いてほしい」など、具体的なアドバイスが非常に役立ったそうです。
「それ以上に大きかったのが、コンシェルジュの気持ちの変化です」と藤浪さん。「それまでは、障害を持つ人にどう声をかければいいか迷うスタッフもいましたが、実際に接して、まず相手が必要なサポートを聞くことが大事とわかりました」。気を回しすぎず、自然な対応ができるようになり、コンシェルジュの「心のバリアフリー」につながったといいます。
今はコンシェルジュ13人のうち、手話技能検定3級の取得者が1名、4級取得者が4人とほぼ半数が手話をできるようになりました。手話での対応が喜ばれ、感謝の手紙が届いたこともあるそうです。こうした取り組みが評価され、東京シティアイは2021年に観光庁の「観光施設における心のバリアフリー認定制度」、東京都の「心のバリアフリーサポート企業」の認定を受けています。

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左)月に一回行われている手話勉強会。ほとんどのコンシェルジュが参加している。
右)コンシェルジュが着用している「手話勉強中です」のバッジ

すぐできることから始めれば、次の取り組みにつながる

障害を持つ人への対応件数は、現在は国内外合わせて月に5〜10件ほどですが、取り組みをより多くの人に広めたいと、東京シティアイの公式サイトに「ユニバーサルツーリズムの取り組み」というページを設置しました。
また、「とうきょうユニバーサルデザインナビ」、「東京都アクセシブル・ツーリズム」などポータルサイトでの東京シティアイの紹介を依頼するなど広報活動も積極的に行うほか、都内他区で作成されたバリアフリーマップ東京シティアイを掲載してもらう代わりに、そのマップを東京シティアイに置くといった相互紹介も行っています。

今後について「ユニバーサルツーリズムというと、障害を持つ人に目が向きがちですが、ムスリムやベジタリアンなどについて所内で学ぶ機会が持てれば」と藤浪さん。すでに周辺のハラルレストランマップの作成などは行っていますが、高齢者や小さな子ども連れなど、より幅広く多様な人々に何ができるかを考えたいとしています。
施設長の田中さんも「東京シティアイは今年で開業10年を迎えますが、オープン当時からのテーマは『公共貢献施設』をどう作るか。どんな方にも等しくサービスし、多様なニーズに応えることが最終ゴールだと思います。それには接遇の基礎を改めて見直し、その基礎を積み重ねていく繰り返しが大事」と今後の10年に向けて語りました。


最後に、ユニバーサルツーリズムへの取り組みを考えている観光案内所などへのアドバイスを、藤浪さんに聞きました。
「自分たちも最初はなにからやればいいかまったくわかりませんでしたが、本当に小さなことから始め、いつの間にか広がっていったという感じです。まずはユニバーサルツーリズムやバリアフリーに関する講演や研修を受けてみるのもいいし、筆談もノート1冊あればできます。観光案内所の周辺にある多機能トイレの場所を調べるなど、すぐ始められることもありますので、ハードルが高いと諦めずに、ぜひ行動してみてください。」

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バリアフリー情報は車いす利用者が取りやすい場所に設置

東京シティアイ

参考サイト

観光庁 ユニバーサルツーリズムについて

心のバリアフリー認定制度

JNTO外国人観光案内所の認定制度

JNTO認定案内所の検索サイト

東京シティアイでのユニバーサルツーリズムの取り組み