2020年2月4日
温泉・食・自然が一体となった新しい観光スタイル「ONSEN・ガストロノミーツーリズム」
「どうすれば観光資源の活用ができるのか」「そもそも地域の売りになるポイントがわからない」。そうした悩みを抱える地方自治体やDMOの方は多いのではないでしょうか。今回は、一般社団法人ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構の取り組みについて、同機構の事務局にお話を伺いました。地域の観光資源の発掘やインバウンドプロモーションのヒントに、ぜひご参照ください。
こちらの記事では、古民家を歴史的資源として、観光活性化に活用する地域の事例をご紹介しています。
欧米の旅行スタイルに温泉をプラス
「ガストロノミーツーリズム」とは、その土地を歩いてめぐりながら、その土地ならではの食やお酒を楽しみ、自然や歴史、習慣などを知る旅行スタイルのことです。フランスなどの欧米では、毎週末にウォーキングイベントが開催され、国内外から多くの観光客が押し寄せているそうです。
「たとえば、ガストロノミーツーリズムの歴史がもっとも長いとされるフランスのアルザス地方では、5月から10月初旬にかけ毎週末各村々の主催によりウォーキングイベントが開催され、その数は年間約20回。フランス国内はもとよりドイツやスイス、アメリカなどからも参加者が集まります。そこに日本の文化であり、全国各地にある温泉を活用して同様の旅を作ることができれば、温泉地の魅力を引き出し多くの方に足を運んでもらえ、地域の活性化にもつながるのではないかと考えたのです」。ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構発足の経緯について同機構の事務局はこのように話します。
「めぐる」「たべる」「つかる」が一体となった新たな旅の楽しみ方
「ONSEN・ガストロノミーツーリズム」とは、各温泉地を拠点にその土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、その土地の食文化に触れることを目的としたツーリズムです。参加者は自分のペースでコースを歩きながら各ポイントに立ち寄り、地元で獲れる魚介や果物、郷土料理、地酒などを堪能。地元の人との会話やその地域の景色を楽しみながら、8~10㎞という道のりを歩きます。そして最後に温泉に浸かり、旅の疲れを癒すのです。
※ガストロノミーウォーキング in 湯梨浜町はわい温泉(動画)
開催地にもよりますが、ひとつのウォーキングイベントの参加人数は100~500名ほど。時間帯で数回に分け、数十名ずつで出発します。2017年に本格的に活動を開始し、2018年度には全国で25回以上開催。イベント参加者、開催地の数ともに年々増加しています。
「私たちはイベント企画会社ではなく、この旅のスタイルを浸透させることを目的とした団体。その目的を達成するためには、私たちではなく地元の方々が中心となって動いていただく必要があります。私たちはあくまでサポート役として各地を周り、開催地域を増やしていく。そしていずれ欧米のように、毎週末日本国内のどこかでガストロノミーツーリズムが開催される未来の実現を目指しています」と事務局。
では、イベントを継続して行うためにも、地域の観光資源を発掘するためにはどうすれば良いのでしょうか。
温泉地を歩きながら、その土地の景観や自然、食文化を楽しむ
観光資源発掘のポイント① アイデアが闊達に生まれる環境を作る
地域中心となってイベントを運営してもらうためにまず行うのが、イベントの実行委員会を立ち上げること。その際、行政だけではなく、必ず温泉協会、旅館組合、地元の商店会などをメンバーとして加え、「官民一体」の活動にすることを同機構では提唱しています。
その理由として、「地元の皆さんが集まる場をなかなか作れず、結局自治体だけで頑張っているという地域は少なくありません。第三者である我々が介入することで、民間の方々も皆さんが集まる機会を作っていただき、それぞれが持つ考えやご意見を地域の魅力として発信するための場になればと考えています」と事務局は言います。
また、地元民にとっては珍しくないことも、第三者から見ればおもしろいことが多くあります。同機構では、そうした視点も地域の人に伝えるようにしているとい言います。たとえば、お餅を酒粕にくるんで食べるという地域では、「その食べ方は珍しいから、ぜひ参加者にも食べてもらいましょう」という話から、餅つきの話題に発展。「では地元の神社で歴史的な餅つきのイベントがあるから、そこでお餅を食べてもらってはどうか」など、どんどんアイデアが生まれました。
「そうした話し合いを重ねて、埋もれてしまいがちな地域ならではの観光資源を“再発見”していただきます。地域の方も、『外から来た人はそんなことをおもしろいと思ってくれるんだね』と、新鮮な驚きがあるようです。外から来た日本人でもおもしろいと感じるコンテンツですから、海外から来た旅行者にとってはなおさら貴重なのです」(事務局)
地元の人々にとっては珍しくないことでも魅力的な観光資源に
観光資源発掘のポイント② 地元でのみ消費される地産品に目を向ける
「その地元でしか食べられない」という視点から着想すると、次に目を向けるべきは少量生産の食材。ONSEN・ガストロノミーツーリズムでは、地元の名産だけでなく、地元の人しか知らないような少量生産の食材も参加者にアピールできます。たとえば、熊本県天草市では数年前からオリーブの栽培を開始しました。まだ県外に出荷できるほどの量はありませんが、イベントでは、その希少なオリーブで絞ったオイルを、天草名産の塩で作ったアイスにかけて参加者にふるまいます。他の地域ではなかなか味わえない食べ方です。
「地元でしか味わえない食材をその地域ならではの食べ方で楽しめるのは、このイベントだからこそ。地元の風景や自然を眺めながら、地域の人との会話を通して、地域ならではの文化を感じながら、地産品を味わう。これぞまさしくガストロノミーツーリズムの根幹です」(事務局)
参加者からは「これ、どこで買えるんですか」などの声も上がり、実際に食べておいしさを知ってもらうことで、消費活動につなげることもできています。
地元でしか食べられない天草のオリーブと塩を使ったアイスクリーム
各企業と連携して取り組むインバウンドプロモーション
現在、イベントへの外国人参加者は日本在住者やその友人などがほとんど。ボリュームとしてはまだ多くありませんが、インバウンド対策として英語版サイトの開設はもちろん、各企業と提携し、集客の間口を広げています。
たとえば、プライベートツアー事業を手掛けるotomo株式会社と提携した外国語でのサポートガイド付きのツアーや、香港の旅行会社Walk Japanと共同で周辺の観光地と組み合わせた5日間の長期滞在ツアーを設定しました。2020年2月には台湾の温泉地を舞台にしたウォーキングイベントを開催。日本からのツアーの参加者と台湾の参加者に一緒に楽しんでもらうことで、日台交流人口を一層増やし、日本でのイベント参加へとつなげていく狙いです。さらに、外国人に好まれる「アニメ」に着目し、温泉地擬人化キャラクター「温泉むすめ」の生みの親である株式会社エンバウンドと提携したイベントを開催するなど、あらゆる角度からインバウンドの誘致を試みています。
「まだ知られていない日本を知る」ことが最高の体験
「近年、『まだ世間には知られていない日本を知る』ことが一部外国人旅行者にとって価値のある体験になっているように感じます。実際に海外からの参加者に感想を聞いてみても、『地元の方と片言の日本語で言葉を交わし、今まで知らなかったものを食べられたことが楽しかった』というお声をよくいただきます」と事務局。この体験をもっと多くの方々に味わってもらうため、コンテンツを磨くだけではなく、各社と連携し、発信方法をさらに工夫して広めていくことが必要だと考えています。
<一般社団法人ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構とは>
地域活性化や観光振興などの事業を行うANA総合研究所が事務局となり、2016年10月5日に設立。主な取り組みはONSEN・ガストロノミーウォーキングコースの認定および情報発信、自治体との連携など。「ONSEN」とローマ字表記にしたのは、国内だけではなく、海外からの旅行者にも温泉をはじめとする日本の魅力を発信したいという思いを込めているためです。