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サステナビリティを意識したコンテンツ開発、地域資源をMICE流にアレンジ〜札幌コンベンションビューローの取り組み〜

サステナビリティを意識したコンテンツ開発、地域資源をMICE流にアレンジ〜札幌コンベンションビューローの取り組み〜

サステナビリティを意識したコンテンツ開発、地域資源をMICE流にアレンジ〜札幌コンベンションビューローの取り組み〜

コロナ禍が一段落し、インバウンド市場は急速に回復しているなか、対面式でのMICE(Meeting、Incentive Travel、Convention、Exhibition/Event)誘致も活発化し、グローバルな競争が激しくなっています。環境に配慮し、SDGs未来都市にも選定される札幌市。札幌コンベンションビューローでは、MICE、とりわけインセンティブ旅行(※1)の誘致で大きなポイントとなるコンテンツ開発を行なっています。他の地域や関連団体との広域連携について、札幌国際プラザ(※2)コンベンションビューロー連携推進課の川上美也子さんにお話を伺いました。

順調に回復するインセンティブ旅行、積極的な商談会への参加を通じ誘致へつなげる

― 札幌のMICE誘致の戦略、インセンティブ旅行の現状、ターゲット市場やアプローチ方法を教えてください。

札幌コンベンションビューローのMICE戦略は、海外企業の役員会議や研修&セミナー(Meeting)、海外企業のインセンティブ旅行(Incentive Travel)、学術系や国際機関・団体による学会や会議(Convention)に軸足を置いて誘致支援活動を行っております。ターゲットとする地域は、香港、台湾、中国に加え、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナムやオーストラリアです。もちろん、ターゲット分野やエリアに関係なく、問い合わせがあれば、日本の旅行会社やPCO(Professional Congress Organizer)などを紹介するほか、各種情報の提供も行っています。

当ビューローでは特にインセンティブ旅行に積極的に取り組んでおり、誘致支援件数は、2023年12月時点で62件と、2019年度の支援件数69件の8割に達しています。2023年度は順調な回復を見せており、特に台湾、マレーシア、ベトナムからのお客様が増えています。一方で、今後、中国市場が復活すれば、急激な勢いで件数が増えることが見込まれます。

また、アプローチ方法として、オンラインを含め商談会には積極的に参加しています。年間約150件の商談を行い、札幌の地域資源の魅力やコンテンツをお伝えするだけでなく、ポストコロナでは、直接キーパーソンにお会いすることで、誘致につながっていると考えます。2023年はITBアジア(シンガポール)、JNTO主催のインセンティブ旅行商談会(台湾)、IMEX国際見本市(ドイツ・フランクフルト)、ICCA(国際会議協会)の総会などにも参加、出展しました。

MICE流にアレンジしたコンテンツ

― インセンティブ旅行での肝となるコンテンツ開発について、その取り組みや重視している点などを教えてください。

地域にある観光資源をMICEでも活用できるように、コンテンツ開発に取り組んでおります。その対象は、ユニークベニュー(※3)、チームビルディング&アクティビティーなどです。既存のアイデアやアクティビティーをいかにMICE流にアレンジできるか、民間事業者とコミュニケーションをしっかり取りつつ、ビジネス展開できるかを考えることはとても大切だと思っています。

なにより重要なのは、実際に私たち自身がそれを体験して、検証することです。 コンテンツ開発では、既存のものをテーマに沿って見せ方を変えたり、素材を組み合わせたり、アレンジを加えたりして特別感を演出するとともに、課題をMICEの視点でみることで新たなビジネス価値を生むことにもつながります。「オフをオンにする」という考えです。どのような施設や空間であっても、季節によって、または平日と週末で、昼と夜で、閑散(オフ)と繁忙(オン)の時間帯や期間があります。

少し見方を変えることでMICEとして利用できれば、オンの期間を広げる、オンのタイミングを増やすということにつながり、そこにビジネスが成立し、受け入れ側にも、インセンティブの主催者にも喜ばれることになります。 「キラーコンテンツ」を生み出すため、地域にワクワクするような企画があれば、私たちビューロースタッフを含め関係者らが実際に体験して、規模感はどうか、人数的に問題はないか、ファシリテータ―の必要性はどうか、予算感はこれでいいのかなど検証を行い、調整します。地域の強みとなってビジネス展開できそうであれば、キラーコンテンツとしてプロモーションしています。

現状ではビジネス展開までにはいたっていないものもありますが、まちの魅力を表現でき、人の心を掴むような内容であれば、磨き上げを行い、さらなる価値の創造を目指します。 札幌のキラーコンテンツの一つに、アイスカルーセル(氷上のメリーゴーランド)というアクティビティーがあります。

民間事業者が数人単位のFIT向けに提供していたもので、凍った湖を舞台に氷上を円状に切り出して回転させます。夜なら氷上に寝転んで満天の星を仰ぎ見る天然プラネタリウムも楽しむことができます。雪のない地域にアピールできるコンテンツで、MICE利用を想定すると、主催者次第で30人、50人とスケールアップにより規模効果が見込めます。「SAPPORO」のロゴの部分に企業のロゴを入れてドローンで空撮することも可能です。ワクワクするアクティビティーをMICE流にアレンジした一例です。

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厚く氷結した氷上を円状に切り出し回転させるアイスカルーセル

SDGsの視点と実証的検証で地域資源の魅力を再発見

― サステナビリティへの意識と、オフをオンにする試みについて教えてください。

コロナ禍を経て新たな価値観に基づく新しいMICEのカタチが求められており、その根底にあるのがサステナビリティです。札幌市は環境に配慮した国際的指標プログラムGDS-Movementに加盟しており、都市のサステナビリティ国際指標(GDS-Index)に参加しています。

当ビューローでも、サステナビリティは意識しており、その一例が「北海道の大地レストラン」です。札幌農学校(現北海道大学)初代教頭だったクラーク博士像の建つ丘として有名な観光スポット「さっぽろ羊ヶ丘展望台」をユニークベニューとして活用しました。雄大な石狩平野を一望にし、牧草地で羊が草を食むという北海道らしい自然環境を舞台に、札幌のミシュラン1つ星シェフが腕を振るって旬の地域食材にこだわった北海道フレンチとアイヌ文化の知恵を取り入れたデザートを楽しむというものです。

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(左)大地レストラン会場/(右)本格的な厨房設備を搭載したキッチンバス。テーブル、食器、カトラリーにいたるまでレストラン仕様

ここで活躍したのが、本来廃車となるような観光バスを改修し、再利用したクルーズキッチンです。ガス、電気、水道はもちろん、ハイスペックなキッチン設備をフル装備した移動式のキッチンカーで、電力は水素車で供給しています。使い捨ての紙やプラスチック類のカトラリーなどは使わず、木製のレストランテーブルや椅子を用意し、テーブルクロスを掛けてラグジュアリー層にも対応できる上質な設えを実現しました。食材はフードマイレージ(食品の重量×輸送距離)の少ない地産地消を実現しています。

食事前には、羊ヶ丘展望台にあるブランバーチ・チャペルでウェルカムカクテルパーティを実施しました。コンペティションで優勝した札幌のバーテンダーがインセンティブ旅行参加企業のために、参加企業のイメージにそったオリジナルのカクテルを提供し、食事の後には、参加企業のロゴと参加者の願いを記したランタンを空に飛ばしました。企業カラーと同じ色のLEDライトを使い、ひも付きのランタンを飛ばすことで、安全性やごみを出さないというSDGsにも配慮した取り組みになっています。

広域連携の魅力は地域資源で相互に補完し合える関係性

― 広域連携の現状、将来的に他の地域や他県との連携も視野に入っているようでしたら、教えてください。

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札幌の周りには、北海道の文化・自然・食を満喫できる、個性豊かで魅力溢れる地域が集まっている

札幌市は2011年、MICEの誘致促進のため、小樽市、倶知安町、ニセコ町(各市町の観光協会含む)との間で覚書を締結しました。MICEの開催支援と受入に関わる地域の魅力向上を目指し、担当者間での情報交換に留まらず、各地域の特徴を最大限に活かしつつ、相互補完し合えることが大きなメリットです。

例えば、札幌と小樽は歴史も文化も異なります。江戸時代後期からニシン漁が盛んで、「北のウォール街」とも呼ばれるほど栄えた小樽には、当時の銀行などの歴史ある建造物や番屋風建物が多く残されています。

また、ニセコエリアと札幌はMICEにおいてはオンとオフのシーズンが逆です。冬の札幌、夏のニセコ・倶知安をいかにアピールするか、札幌にとってはラグジュアリー層が満足いただける観光資源をどのように整えられるかなど、互いに学び補完し合える関係です。

また、当ビューローは、北海道MICE誘致推進協議会にも加入し、旭川、函館、釧路、北見、帯広、登別、苫小牧といった道内の各都市と連携して、東京で「北海道MICE商談会」等を行っています。また、近年、DMO芝東京ベイとも連携して協力関係を構築しており、コンテンツや周遊ルートの開発、ファムトリップへの相互協力など、外からの視点を取り入れながらプロフェッショナルな目で率直な意見交換をしています。今後、当ビューローとしてはさまざまな地域連携をしていくことで、新たなコンテンツ開発及び誘客プロモーション強化につながるようにしたいと思っています。

― 最後に、これからMICEの取組を始めたいと考えている全国の自治体に向けてメッセージをお願いします。

「自分たちの地域の資源は何か?」から発想することが大切です。他の地域にはない資源があれば、インセンティブ旅行のプランなどに組み込むことは可能です。アイデア次第では、会議場やホテルの宴会場が存在しなくても、MICE誘致は可能であり、ひいては、魅力的なアクティビティーやコンテンツがあれば、MICEを誘致することも可能と考えています。

※1 インセンティブ旅行とは
企業の成績優秀者や顧客などを旅行に招待し、表彰したり、特別な体験を提供する報奨旅行のこと。参加者の意欲向上やチームワーク醸成、グループの共通認識を育成でき、主催する企業や団体の組織力強化や販売促進の一環として開催されています。

※2 札幌国際プラザとは
コンベンションビューローと多文化交流部で構成される札幌市の外郭団体で、地元企業を含む市民参加による国際交流とMICEの誘致、振興を推進することで、グローバルなまちづくりを行うことを主要な目的としています。

※3 ユニークベニューとは
歴史的建造物や美術館、庭園や森といった特別な雰囲気を持つ空間を、本来の用途とは異なる目的、例えば、レセプションやイベントなどで使用するために貸し出される"場所・空間"のことです。