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「ROIがみえる戦略で誘客につなげる」木曽おんたけ観光局の取り組み

「ROIがみえる戦略で誘客につなげる」木曽おんたけ観光局の取り組み

「ROIがみえる戦略で誘客につなげる」木曽おんたけ観光局の取り組み

効果的にプロモーションを行うためのポイントとして、「選択と集中」の視点が挙げられます。ターゲットの絞り込みはもちろんですが、どの観光コンテンツをどのような発信方法で届けるかなど戦略を立て、その戦略をもとに継続的に取り組むことが重要です。今回は、地域の強み・特性を踏まえ、ターゲットを絞り、ファムトリップを中心としたB to Bプロモーションに特化した一般社団法人木曽おんたけ観光局(以下、「観光局」とします。)の取り組みを調査しましたので紹介します。

対象地域
長野県木曽町・王滝村
面積
786.83平方キロメートル
総人口
木曽町11,169人(2019年1月現在)、王滝村761 人(2019年1月現在)
主要観光資源
中山道木曽路、カヌーツーリング、木曽ヒノキを使った木工体験、そば打ち体験、開田高原、御嶽山のトレッキング・登山
公式サイト
https://visitkiso.com/

地元目線×外部目線でインバウンドに取り組む

中山道のかつての宿場には歴史・ウォーキング好きの外国人が訪れ、2016年4月に長野県初の日本遺産に認定されるなど観光に追い風が吹いていた木曽地域。御嶽山の麓にある木曽町と王滝村も、登山目的の国内旅行者を中心に旅行客数を順調に増やしていた。ところが2016年9月に御嶽山が噴火、多数の犠牲者を出したことで観光客が激減し、地域経済に深刻な打撃を与えた。

国内客を呼び戻すとともに、インバウンドにも本腰を入れようとしたものの、外国人を積極的に迎え入れようという機運がまだ高まっていなかった木曽町・王滝村で、どのようにインバウンドに取り組み地域経済に落とし込んでいくか。そこで観光局は、多数の旅行業界向けシステムを開発・運用している会社で、もともと木曽地域と仕事上のつながりがあったタビィコム株式会社(以下、「タビィコム」とします。)をパートナーとしてインバウンドに取り組むことにした。木曽おんたけ観光局の「地元の人間」と、タビィコム株式会社の「地元外の人間」の両方の目線を活かしながら、インバウンドに特化した取り組みを行っているのが特徴だ。

今回は観光局の原専務、安藤部長、そしてタビィコムの山中取締役に取り組みの内容をお伺いした。

 

ROIが見える戦略を選択

木曽町の入り口であるJR木曽福島駅へは、長野からも名古屋からも在来線で約1時間半。木曽谷の中でも比較的アクセスがよい木曽福島をどのように知ってもらうか?

「やりたいことがたくさんあるなかで、何を残し、何を捨てるか。多くの選択肢の中から有効でない施策を捨てることこそが戦略」と、山中取締役(タビィコム)。プロモーションもやりたいことはたくさんあったが、観光局が残したのは、ROI(投資対効果)が見えるようにPDCAサイクルを設計したB to Bに特化したプロモーションを行うことだった。まずは海外エージェントに木曽を視察してもらい、ツアー商品に木曽を組み込んでもらうことで確実に送客につなげようという狙いだ。B to CではなくB to Bとした理由について原専務(観光局)は、「B to Cで広告を打つのは莫大な予算がかかるわりに、実際にどのくらい旅行者が来てくれるのか、効果が予測できません。であればB to Bのプロモーションのほうが投資対効果を計測することが可能ではないかと考えました」と話す。

ツアー客が来てくれれば、宿泊、飲食店、みやげ店などの利用が増え地域経済にプラスになる。予算内で何にどのくらいお金が投資され、どれだけ地域にリターンがあったのか?その内容がより確認しやすい、そして、その結果を判断しやすい方法を選択した。

 

導線でターゲット国を選定し、エージェントを招へい

では、どこの国・エリアのエージェントを招くか。ひとつは、「海外から木曽への導線」を基準に選定していった。具体的には、木曽への入り口(空港)として、東京(羽田、成田)、小松、名古屋、関空を想定し、この4都市の空港に直行便が就航している国・エリアを調査。さらに木曽地域は宿泊施設の料金が高めであるため、相応の旅費が払える経済力がある国・エリアを絞り込んでいった。また英語で対応できるエリアであること、さらに「街道歩き」「歴史」「文化体験」「木曽ヒノキの木工体験」という木曽の観光コンテンツ・テーマが響く層を想定し、最終的に台湾、ドイツ、イギリス、オーストラリアをメインターゲットとした。

次に、エージェントとのコネクション作りのために、タビィコムは以前から継続的に世界最大のトラベル・ツーリズム・トレードフェア「ITBベルリン」に参加しており、そこで知り合ったエージェントと、会場で入手した参加者リストをもとにターゲット国・エリアのエージェントにファムの招待を行った。

「ほとんど返事は返ってきませんが、それで構いません。メールの返信をしてくれた時点で、本当に木曽に興味をもってくれたエージェントだけに絞り込まれるからです」と山中取締役(タビィコム)。

 

ファムトリップでエージェントの満足度を最大限に高める

ファムトリップでは、エージェントに木曽の魅力を体感してもらい、どれだけ「顧客に紹介したい」と思わせられるかが勝負になる。したがって人任せにせず、観光局側の原専務や安藤部長をはじめ地域の皆さんが主体となって準備・実施を行っている。

特に、エージェントの帯同・案内という大切な役は、何度も足を運び木曽を知り尽くし、しかも英語が堪能なタビィコム側の人材が担う。「エージェントは、段取りがスムーズか、案内人の語学力・コミュニケーション力はどうか、ツアー内容が嗜好・レベルに合っているかどうかなど、顧客の視点で細かいところまでチェックしています。それを満足させるために、100点ではなく500点取りに行く気で案内します」と、山中取締役(タビィコム)は話す。

木曽の場合、ファムトリップに来たエージェントの多くが実際にツアーを造成し、送客につながっている。その秘訣について「もともと木曽に興味をもつエージェントを選定していることに加え、私たちが細かいところまで丁寧に、真剣に取り組んでいるので、エージェントも真剣に木曽を視察してくれます。それがツアー造成につながっているのだと思います」と、原専務(観光局)は話す。

 

ファムトリップの取り組みを受け入れレベルアップにも活かす

ファムトリップ実施後のエージェントからのフィードバックは、受け入れのレベルアップにとってとても重要だ。「海外の人は特にタバコと、ベジタリアン、アレルギー、グルテンフリー対応など食事面にとてもセンシティブで、それらに柔軟に対応する必要があります」と、山中取締役(タビィコム)。木曽に外国人を呼ぶには、こうしたフィードバックを確実に反映し受け入れ態勢を変えていく必要があります。しかし、「地元外の人間」であるタビィコムの人材が「ベジタリアン対応してほしい」などとお願いしても、簡単には応じてくれない地域事業者も少なくない。

そこで地域に対しては、地域の人との関係を長年築いてきている観光局サイドの人材である「地元の人間」が対応する。ときには厳しいことを言わざるを得ないこともあり、実際に観光局では現在、外国人が満足するクオリティをもつ限られた宿にしか送客していない。「他の宿泊施設から苦情をいわれることもありますが、ときには憎まれ役になっても改善すべきことははっきり伝える。その甲斐あって、これまで観光客からもてなしに関する苦情はありません」と原専務(観光局)。

 

DMOが自走するために。経費削減と稼ぐ方法を模索

観光局は、海外エージェントがウェブサイト上で予約・決済できる新しいシステムを構築。将来的には観光局のスタッフが自分たちで運営・管理できるような体制を整えることでコストの削減を目指している。また海外レップと連携し、オンラインでのやりとりでは済まない、パンフレットを届けるなど細かい用件に対応してもらい、エージェントのきめ細かなフォローとコストカットを図っている。

こうしたコスト削減に加え、ヘルスツーリズムを展開する「木曽おんたけ健康ラボ」などの新規事業、企画旅行や手配業務、地域産品の販売などで収益を上げ、自走できるDMOを目指している。

 

 

キーマンからのメッセージ
一般社団法人木曽おんたけ観光局 専務理事/事務局長 原隆さん

ファムトリップは、エージェントに木曽を好きになってもらいたいという気持ちで取り組んでいます。最初こそ大変ですが、一度実績ができれば業界内で評判が広まりますので招へいはしやすくなります。そういう好循環を作るためにも、エージェントの満足度を上げることが重要だと考えています。木曽の資源は街道文化に育まれたおもてなしの心と、人です。海外からの旅行者が増えてきて、地域の人たちの意識も歓迎ムードになりつつあります。地域の人をツーリズムに巻き込んで新しい雇用を生み出すなど、木曽らしい地域振興を目指していきます。

 

プロフィール

江戸時代の五街道の一つの中山道が通り、11の宿場と福島関所が置かれ交通の要衝として栄えてきた木曽。交通の近代化に取り残されたものの、そのおかげで宿場町の風情が今も残り、特に馬籠宿・妻籠宿・奈良井宿は、歴史文化・ウォーキング好きの外国人リピーターに知られている。その間に位置し素通りされがちだった木曽町と王滝村は、中山道文化と木曽路ウォーキングに加え、御嶽山信仰、自然といった資源を観光に活かし、B to Bプロモーションを主軸に誘客に取り組んでいる。

 

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今回は、ファムトリップを中心としたB to Bのプロモーションの取り組みについてご紹介しました。

>「一般社団法人木曽おんたけ観光局 インバウンド 事例調査レポート」PDFはこちら<