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ハラール・ヴィーガンなど食の多様性にどう対応する?インバウンド誘致の強みに変える実践ポイント

ハラール・ヴィーガンなど食の多様性にどう対応する?インバウンド誘致の強みに変える実践ポイント

ハラール・ヴィーガンなど食の多様性にどう対応する?インバウンド誘致の強みに変える実践ポイント

宗教上の戒律や信条・ライフスタイル、食物アレルギーなど、多様な食の制限や嗜好を尊重し、誰もが安心して食事を楽しめる環境を整える「フードダイバーシティ(食の多様性)」。世界に目を向ければ、ムスリムの人口は約20億人、ベジタリアン・ヴィーガンなどの人口は約5.6億人といわれています。2025年の訪日外国人旅行者数は過去最高の4,268万人を記録するなか、フードダイバーシティへの対応は、もはや一部の店舗だけの課題ではなくなりつつあります。「必要性は感じているものの、なにから着手すればいいのかわからない」と悩む飲食店や観光事業者に向けて、フードダイバーシティ株式会社代表取締役の守護彰浩さんに、最新事例や実践のポイントを伺いました。

食の多様性への対応は、なぜ今さらに重要なテーマとなっているのか 

―近年の日本におけるフードダイバーシティの現状について教えてください。 

日本では、在住外国人や訪日外国人旅行者の増加を背景に、フードダイバーシティが注目されるようになりました。コロナ禍以降は、地球環境や自身の健康に対する意識の変化などから、ヴィーガン食を選ぶ人も増えています。 

近年では、フードダイバーシティはもはや付加価値ではなく、Wi-Fiなどと並ぶ基本的な受け入れ環境のひとつになってきたと強く感じています。私たちのもとに寄せられる相談も圧倒的に増えており、飲食店、ホテル、自治体、DMOに限らず、食品メーカーや教育機関など、さまざまな業種からお問い合わせをいただくようになりました。5年前は「対応するかしないか」という話が中心でしたが、今は「どうやればいいのか」という話が中心です。事業者の皆様に「もう逃げ切れない」という感覚が強く出てきていて、日本でも当然やらなければいけないことだと受け止められるようになってきたのだと思います。

―地域がフードダイバーシティに対応するメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。

飲食店や宿泊施設、自治体にとっては、まず顧客の間口が広がります。イスラム圏というと中東を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、東南アジアでは人口の4割以上がムスリムです。また、欧米人にはヴィーガンやベジタリアンが多くいます。

私がずっとお伝えしているのは、「ひとりを断ったら全員を失う」という考え方です。たとえば団体やグループの中にひとりでもベジタリアンがいれば、その人に対応できる店を選ぶことになります。つまり、ひとりのための対応が、グループ全体の集客につながるのです。単純にベジタリアンの人数だけでは測れない経済効果があり、ホテルや飲食店が取り組む価値は十分にあると思います。

特にMICE※などの団体を獲得しようとするのであれば、フードダイバーシティへの対応は不可欠ではないでしょうか。会場となるホテルだけでなく、参加者は地域の飲食店にも足を運びますから、「地域全体で対応できる」というメッセージが大切になります。開催地を選ぶ際の決定的な要素とは言い切れませんが、判断材料のひとつにはなるでしょう。地域全体の経済効果という意味でも、大きな意義があります。

2026年9月19日から10月4日まで愛知県や名古屋市を中心に開催される第20回アジア競技大会も、その一例です。参加予定国の半数以上は、イスラム教徒が人口の多数を占める国というデータもあり、こうした国際的な大会を迎える上でも、地域として食の多様性に対応できる環境を整えておくことが重要だと考えています。

※MICE(Meeting=会議、Incentive Travel=報奨・招待旅行、Convention=国際会議、Exhibition/Event=展示会・イベント)


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▲アジア競技大会の参加予定国。イスラム教がメインの国だけで半数を超える

「違い」ではなく「共通点」から考えることで、フードダイバーシティの捉え方が変わる

―ハラール対応に取り組もうとしたものの、食材や調理環境に関する禁忌の多さや厳しさから挫折する飲食店もあると聞きます。フードダイバーシティは、難しいことなのでしょうか。

以前は、厳格な対応を求めるようなセミナーが多く開かれていた印象があります。イスラム教徒は豚肉とアルコールを口にできません。当時は、ムスリムに対応するためには、飲食店もハラール認証を取得しなければならないと言う人が多かったと思います。

ハラール認証を取得するには、高額となる認証費用がかかります。また、豚肉を使ったまな板や鍋などの調理器具を併用することも認められないため、ムスリム向けの食事を提供するために厨房や調理器具を分け、冷蔵庫も別にして管理しなければいけません。その上、苦労してハラール認証を取得したにも関わらず、「集客や売上につながらなかった」というケースも少なくありませんでした。

もちろん、こうした対応が必要な場面もあります。しかし、日本の飲食店が最初からすべてに対応するのは難しく、「そこまではできない」という声が挙がるのも当然だと思います。大切なのは、すべての店舗が一律に同じ対応を目指すのではなく、自店で対応できる範囲を整理し、正確に伝えることです。

―では、日本でのフードダイバーシティへの対応を考える際、どのように進めればよいのでしょうか。

私がよく話すのは、「違いよりも共通点を見る」ということです。一般の食事と、ハラールやヴィーガンなどの食事をそれぞれ別々に考えると大変ですが、「それぞれの人が食べられるもの」という共通点から考えると、とてもわかりやすくなります。

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▲フードダイバーシティ株式会社資料より(違いよりも共通点を見る) 

食に関するニーズやルールは、宗教、思想・信条、健康上の理由、アレルギーなどによって、ますます多様化しています。そのすべてを個別に理解し、それぞれ専用の食材や調理工程を用意して対応しようとすれば、現場の負担やコストが大きくなり、継続することは困難です。

そこで重要になるのが、それぞれの共通点を見つけ、できるだけ食材や調味料、オペレーションをまとめるという考え方です。その共通のベースとして活用しやすいのが、肉や魚介類、卵、乳製品などの動物性食品を使用しないヴィーガンです。

ヴィーガンをベースにすれば、幅広いベジタリアンにも対応できます。さらに、必要に応じてハラールに配慮した肉や魚介類を加えたり、卵や乳製品などを加えたりすることで、それぞれのニーズに合わせた料理へ展開できます。また、卵や乳製品を使用しないため、これらを原因とする一部の食物アレルギーへの対応にも応用できます。

もちろん、ヴィーガン料理だけですべての食のルールを網羅できるわけではありません。ハラールでは調味料に含まれるアルコールや調理環境、食物アレルギーではコンタミネーション、グルテンフリーでは小麦や麦類の使用状況など、個別に確認すべき条件があります。

それでも大切なのは、すべてのニーズに個別に対応しようとするのではなく、ヴィーガンを共通の土台として設計することです。そこから、それぞれのニーズに応じて必要な食材を加えたり、調味料や調理工程を調整したりすることで、複雑に見えるフードダイバーシティへの対応も、現場で無理なく実践できる形に整理できます。

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▲フードダイバーシティ株式会社資料より(フードダイバーシティの考え方)

―具体的に、飲食店はどこまで対応すればいいのでしょう。

人手不足が深刻な中、すべてに完璧に対応するのは現実的ではありません。まずは、食材はもちろん、ハラール専用の厨房があるか、専用の包丁やまな板を使用しているかなど、自店でどこまで対応できていて、どこができていないのかを整理することが大切です。

観光庁も示していますが、宗教上の戒律をどの程度厳格に守るかには個人差があり、旅行先で自国同様の対応を求める人もそれほど多くありません。だからこそ、店のポリシーをはっきり示すことが重要になります。たとえばハラールについてなら、「ハラール認証店ではありません。厨房はひとつですが、豚肉については調理器具を分けています。食肉と調味料にはハラール認証のものを使用しています。食器は共通のものを使用しています」というように対応状況を具体的に明示し、あとはお客様に利用を判断してもらう。こうした情報開示は、利用者との認識の違いや、万一のトラブルを防ぐことにもつながります。

私は世界各国のレストランを見てきましたが、イスラム圏のレストランや、ハラール専門店以外で、100点満点の対応をしている店はほとんどありません。店がハラール認証を取得しなければ、ムスリムに対応していることにならないというわけでは決してないのです。動物性のものやアルコールを使わない食材や調味料も、今では普通の問屋や業務スーパーなどで手に入ります。まずは身近にあるものを活用しながら、できる対応から始めればいいと思います。

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▲フードダイバーシティ株式会社資料より(ムスリム対応のポリシーを策定する) 

飲食店やホテルの現場から学ぶ、食の多様性対応の実践例

―食の多様性に対応した具体的な事例を教えてください。

今、ご当地料理のヴィーガン対応、ハラール対応へのニーズが非常に高まっています。北海道の旭川ラーメン、愛知の味噌煮込みうどん、京都の本格京料理、広島風お好み焼き、香川の讃岐うどんなど、ヴィーガン対応のご当地料理も各地で登場し、人気を集めています。

長崎のちゃんぽんも、その一例です。2025年、ANAクラウンプラザホテル長崎グラバーヒルのレストラン「Pavé(パヴェ)」が、ヴィーガン対応の長崎ちゃんぽんと皿うどんの提供を開始しました。開発にあたっては、まず一般的な長崎ちゃんぽんに使われている豚肉や魚介類、乳製品などが、それぞれどのような旨味やコク、香りを生み出しているのか、その役割をひとつずつ分析しました。そして、動物性食材を使わずに、それらの要素をプロの技術で補うことで、長崎ちゃんぽん本来の味わいを保ちながら、ヴィーガン対応に仕上げることができました。ベジタリアンやヴィーガンのお客様はもちろん、乳製品を使わなくなったことで乳製品アレルギーの方にも、野菜をしっかり楽しみたい方にも喜んでもらえるメニューになりました。

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▲ヴィーガン長崎ちゃんぽん(1,900円)

―ヴィーガンちゃんぽんの反響や、周囲への波及効果はいかがでしたか。

提供開始以降、着実に認知が広がっており、特に欧米や台湾からの観光客の他、長崎在住の外国人に多く利用されています。修学旅行などの団体利用では、食事制限のある生徒がいても「全員で食事を楽しめる店」として、選ばれるようになっているそうです。こうした対応が話題になったことをきっかけに、他の飲食店でも同様の取り組みを検討する動きも出てきました。食の制限がある人も、旅行先では「その土地ならではの食事を楽しみたい」という思いは変わりません。ご当地グルメには、まだ大きな商機があると感じています。

―ホテルではどのような対応が求められるでしょうか。

ムスリム対応であれば、まずはムスリムフレンドリーを目指せばいいと思います。礼拝室を新たにつくる必要はなく、お祈りは基本的に客室でできますし、礼拝前の体の浄めもシャワー室で可能です。礼拝用マットや必要なアメニティも携行している人が多いため、ホテル側で特別に準備する必要はないと思います。

また、ビュッフェでは、基本的にヴィーガン対応ができていればほとんどの食のルールに対応できます。ヴィーガンに対応した料理を別のコーナーにまとめるのではなく、通常の料理の中に組み込み、それがわかるように表示しておく方法をお勧めしています。

たとえば、外国人宿泊者の多いあるホテルでは、朝食のカレーをヴィーガン対応にし、商品名は通常どおり「カレー」とした上で、ヴィーガンマークを小さく表示しています。カレーの米とルーを動物性食品不使用の共通ベースにしておけば、あとはお客様がそれぞれの食のルールに合わせて、食べられる食材を自由にトッピングすることができます。

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▲ホテルでも、カレーはヴィーガンメニューが少しずつ一般的になってきている 

ヴィーガン用、ムスリム用、アレルギー対応用と何種類も別々に用意するより、ベースを共通化しておいたほうが、現場のオペレーションは格段にシンプルになります。飲食・宿泊業界も人手不足で、お客様の多様なリクエストにひとつずつ個別対応するのは現実的ではありません。海外の大手コーヒーチェーンが、卵や乳製品を使わないプラントベースの焼き菓子を常時複数品そろえているのも同じ発想です。スタッフ一人ひとりが制限をすべて把握するのは難しいので、あらかじめプラントベースのメニューを用意しておく。フードダイバーシティへの対応は、利用者のためだけでなく、現場の業務改善にもつながるのです。

―ヴィーガン対応の料理は、原価を抑えられる場合もあると思いますが、価格設定はどのように考えればよいのでしょうか。

ヴィーガン料理は、肉や魚介類を使う料理と比べて、食材の選び方や設計次第で原価を抑えられる場合があります。しかし、原価が低いからといって、販売価格まで下げる必要はありません。海外では、ヴィーガン料理が通常メニューと同程度、あるいは付加価値を反映してやや高めの価格で提供される例も見られます。原価高が課題となる今、動物性食材を使わずにコストを抑えられるメニューをつくることは、店側にとっても有効な選択肢だと思います。

地域ぐるみでの対応が、次のインバウンド需要をつかむ

―自治体・DMOの取り組みで、印象的な事例はありますか。

岡山県倉敷市の取り組みに注目しています。2023年に倉敷市で開催されたG7倉敷労働雇用大臣会合をきっかけに、MICE誘致に向けて地域として食の多様性に対応していこうという機運が高まりました。

倉敷市が旗振り役となり、(観光コンベンションビューローとの連携のもと)MICE・観光関連事業者を中心に取り組みが広がっており、私自身もアドバイザーとして戦略策定や地域の飲食店支援を行っています。

大切なのは、単に飲食店やホテル向けにセミナーを開催するだけでなく、観光関係者や地域住民なども巻き込んでいくことです。倉敷市内にはイスラム教のモスクもあり、モスクの関係者にも参加してもらいながら、地域のコンセンサスをつくって進めています。

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▲倉敷市の食の多様性対応飲食店を紹介するウェブサイト「All Welcome KURASHIKI」

―地域がフードダイバーシティに継続的に取り組むためには、どのような体制づくりが必要でしょうか。

私たちのような外部の人間が働きかけるよりも、地域の自治体やDMOの職員から伝えられる言葉のほうが、地域の事業者には届きやすいものです。だからこそ、担当者にも基本的な知識を身につけていただき、外部からの支援が終了した後も、地域の中で継続的に対応できる「自走する仕組み」を構築することが求められます。

また、個別の店舗対応だけでなく、地域全体で取り組む体制をつくることも大切です。1店舗、2店舗の対応だけでは、地域としての誘致にはつながりません。地域全体で対応する仕組みづくりは民間だけでは難しく、自治体やDMOの中で旗振り役を担える人材が、今後さらに重要になってくると思います。

―最後に、これからフードダイバーシティに取り組もうと考えている方々に向けて、アドバイスをいただけますか。

日本のフードダイバーシティ対応は、まだ「入り口の入り口」の段階です。政府は2030年に訪日外国人旅行者数6,000万人という目標を掲げており、これまでは「うちはやっていません」で済ませることもできましたが、訪日外国人旅行者がさらに増える中で、今後はそれが通用しなくなる時代が来ると思います。

新たにメニューを一から作るという発想よりも、今提供しているメニューのレシピを分析し、「どこまで対応できているのか」を理解することが、まず第一歩になります。居酒屋の枝豆や冷奴のように、実はすでにヴィーガン対応になっている料理も多くあります。そうした料理を「これはヴィーガン対応です」と伝えるだけでも、大きな違いがあります。

加えて、旅行者に見つけてもらうための情報発信も欠かせません。旅行者はAIを介して情報を探すようになっているため、AIが正しく情報を認識できていないと、旅行者がAI検索を利用した際に、店舗が検索結果に表示されにくくなってしまいます。そのためには、Googleマップへの情報反映や自社サイトの整備、SNSの継続的な更新が重要です。AIは24時間365日働いてくれる営業担当のようなもの、と考えていただくとわかりやすいと思います。まずは自分たちの店になにができるのかを知り、それを正しく発信する。このふたつから始めてみてほしいと思います。


フードダイバーシティ株式会社代表取締役 守護 彰浩 

千葉大学卒。2006年に世界一周を経験後、2007年楽天株式会社に入社。2014年、多様な食文化に対応するレストラン情報を発信するためにフードダイバーシティ株式会社を創業。ベジタリアン、ヴィーガン、ハラール、コーシャ、グルテンフリー、アレルギーなどの事業領域にて、全国自治体・行政と連携しながら普及のための講演活動、および集客のための情報発信を行う。2020年には総理大臣官邸で開催された観光戦略実行推進会議にて、菅総理大臣(当時)に食分野における政策を直接提言した。