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無形文化財を活かした観光コンテンツづくり 地域主体で進めるためのポイント

無形文化財を活かした観光コンテンツづくり 地域主体で進めるためのポイント

無形文化財を活かした観光コンテンツづくり 地域主体で進めるためのポイント

(写真提供:株式会社あっぱれ)

伝統工芸や和食、寺社仏閣など、有形・無形の文化財を活用した観光推進が全国で進んでいます。しかし、その中でも郷土芸能や祭りなどの「無形」文化財は担い手不足などの課題もあり、コンテンツ化に苦心している地域も少なくありません。持続可能な文化財観光を実現するには何が必要なのか。150件以上の有形無形の文化観光支援に取り組んできた株式会社あっぱれ代表取締役・山本陽平氏に無形文化財の観光コンテンツ化と地域自走のポイントを伺いました。

地域主体の持続的な文化財活用を専門家と伴走支援

―はじめに、株式会社あっぱれの設立経緯について教えてください。

私が日本各地の文化活用事業に関わるようになってから、10年以上になります。もともと祭り好きの性格もあり、様々な祭りを主催する方々を支援したいという想いから 2015年に株式会社オマツリジャパンを共同創業で設立しました。日本を代表する祭りから地域の神社や商店街が主催する小さな祭りまで、8年間で500件近くの主催者の運営支援を経験しました。

支援する中で気づいたことは、場所や規模、そして文化財の種類に関わらず、文化財を保持する方々は担い手不足や集客力の低下、資金不足、PR 不足などの共通する課題を抱えているということでした。
そうした「ヒト・モノ・カネ・PR」に関する共通課題の解決に向けて、我々が培ってきた知見やネットワークを活かして文化・経済・観光の好循環を生む仕組みづくりに注力しようと、2024 年に株式会社あっぱれを創業しました。

現状、国内の文化財保全や活用は各種補助金を軸に運営しているところが多いのが実情です。もし頼っている補助金が採択されない、あるいは補助自体がなくなってしまえば、次世代に残すべき価値ある文化財の継承が途絶えてしまうという継承リスクをはらんでいます。
そうならないためにも、各地域や文化財保持者の方々が自分たちの文化財の本質的な価値を理解し、主体的な運営で持続可能な収益モデルを構築していく、その道のりを我々が伴走支援しています。2026年1月までに79地域・91プロジェクト・文化財数151件の支援に関わり、現在も多くの公共機関や民間企業からの依頼に基づくプロジェクトが進行しています。例えば 2024年度、2025年度は文化庁全国各地の魅力的な文化財活用推進事業や2026年度は観光庁の観光需要分散のための地域観光資源のコンテンツ化促進事業での事務局としての伴走支援にも取り組んでいます。

―さまざまな規模・地域の依頼に伴走支援するための体制について教えてください。

当社の大きな特徴の一つは、多種多様なニーズに応えることができる、社外の専門家たちとのネットワークがあるところです。例えば、文化財をテーマにしたグッズを作って物販をしたい、寺社仏閣の中で展示イベントを企画したい、あるいは初めての観光ツアーに取り組みたいなどの依頼に対して、各分野において高い専門性と文化観光の支援実績を有する、約30名の専門家たちの中から最適なメンバーを選抜し、地域の方々とプロジェクトチームを編成していきます。

文化観光の仕組みづくりで最も大切なことは、関係者同士の信頼関係の構築です。どんなに「この地域を良くしたい」という思いがあっても、外部の専門家が上段から正論をかざすだけでは、現場でハレーションを起こしてしまうことにもなりかねません。
地域の方々にいかに寄り添う姿勢を持てるか、地域で継続できるオペレーションをしっかりつくる支援という観点でも信頼のおける方々のお力を借りています。

中長期目標を設定し、小さな成功体験を積み重ねる

― 文化財の活用支援全般に通じる基本的なことは何だとお考えですか。

まず大前提となるのは、文化財活用支援は、他の観光資源を活用したコンテンツ造成と比べると、より長期的な時間軸で考える必要があるということです。文化観光に携わる方々は、この共通認識を持つことが非常に重要な第一歩であると考えています。

一般に、都心と各地域ではビジネスに関するスピード感も異なると言われています。例えば、外から来た人間がまだ信頼関係も出来上がっていない段階で、半年後に必ず大きな成果を出そうと性急に動いてしまうのは、歓迎されない勇み足になりがちです。
地域の方々が"自分たちの文化財を 10年後、20年後先の未来を見据えてどうしていきたいのか"という目標を共有する合意形成には、もし1年の期限付きプロジェクトであれば3分の1程度の時間をかけるなどして、腰を据えて取り組む必要があると考えています。民間企業でいうと、中長期の事業計画を立てるイメージに近いかもしれません。

― 中長期的な目標を考える上で、大切なことは何でしょうか。

観光資源としての文化財の強みは、数十年あるいは数百年単位の積み重ねがあることだと思います。ただし、長く続いていること自体に重きを置くのではなく、 "どのような想いや意味があってその文化継承を担っているのか"という視点から、先人たちから受け継いできた本質的な価値を可視化したストーリーづくりが重要です。

そしてもう一つのポイントは、再現性のある現実的な目標を設定すること。外部の専門家の知見や補助金によるバックアップがあったとしても、基本はその地域の中でヒト、モノ、カネのリソースを回せるオペレーションを組むことが、地域主導の文化活用の土台になります。

これまで積極的に観光客を受け入れてこなかった地域が、多言語対応やホスピタリティの環境が整わないまま、いきなり高価格設定の観光ツアーや訪日客向けの観覧席を販売し、単年度はなんとか乗り切ったとしても、翌年やその次の年は果たして続けることができるでしょうか。

まずは地域に負荷をかけすぎず、できる範囲の小さな成功体験を積み重ねていくこと。こうした一見地道な成功体験が、将来的には持続可能な収益モデルにつながっていきます。

祭りの推し活や寺社仏閣の法要をコンテンツに

― 近年の文化活用支援の実例をご紹介ください。

2024年度には、富山市の伝統行事「おわら風の盆」への支援を行いました。「おわら風の盆」は、約300年の歴史を有しており、開催される11の町ごとに歌や踊り、衣装が異なるのが特徴です。

ただ、近年の祭りの例にもれず、担い手や資金不足の課題を抱えており、その打開策として、おわら風の盆初の公式推し活グッズを企画提案しました。町紋がデザインされた 11種類の応援うちわや、ファッションブランド KEIYA MUYAMA とコラボした手ぬぐいの販売サイトを立ち上げました。

応援うちわを持つことで、観客は地域との一体感が生まれ、さらにその売上の一部が祭りの運営・継承に活用されるとわかれば、推し活らしい応援のしがいも感じられます。古くは地元の名士と言われる方々の支援によって成立してきた地域密着型の祭りも、今は地縁を問わず皆さんに広く"推していただく"時代です。販売サイトによって通年販売が可能になり、その結果、おわら風の盆はこの推し活企画をこれまで50件近くのメディアに取り上げられ、グッズ販売数 3,000 点以上、400万円以上の売上を出すことができました。

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▲11の町紋がデザインされたうちわ(提供:株式会社あっぱれ)

― 自分たちが持っているリソースを活用した事例もお願いします。

寺社仏閣の中には、ご自分たちがお勤めの一環で行っていることを出発点に、コンテンツを作っていった例も少なくありません。京都の東本願寺からは、親鸞聖人の命日を縁とする法要「報恩講」に合わせて、新しいターゲットに向けた特別なツアーを作りたいというご要望があり、商品設計をお手伝いしました。命をいただく尊さを伝える仏事「お斎(おとき)」を京都の五つ星ホテルデュシタニ京都とのコラボメニューに発展させ、さらに普段は非公開の「能舞台」での記念撮影や雅楽体験などを提供しています。

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▲ホテルとのコラボで実現したお斎メニュー(提供:株式会社あっぱれ)

おわら風の盆も東本願寺の例も、何か突拍子もないことをやっているわけではありません。自分たちの限りある資源をしっかり見定めて、民間の市場で浸透しているような商流 の整備や推し活企画などの物販、他の施設と連携した本質的な価値の高い企画などに落とし込んでいく。

そしてそれらが軌道に乗ってきたら、インバウンド旅行者を対象にしたコンテンツにアップデートしていくなど次の展開も見えてきます。一足飛びに高付加価値商品に的を絞るのではなく、普段の延長上で出来るコンテンツを考えていくような、再現性が高い取り組みを行うことをおすすめしています。

― 形がない"無形"文化財の場合、どういうところからアイデアのヒントを探ったらいいでしょうか。

例えば、年に一度だけ開催される祭りはその地域にとって非日常的な「ハレ」の日ですが、残りの 360日近くは準備や後片づけに費やす「ケ」の日になります。

ここで考え方を少し変え、そうした地道かつ丁寧な「ケ」の日の積み重ねが「ハレ」の日を生み出しているとすると、祭りの準備自体を観光客と共有する体験企画があってもいいのではないでしょうか。

祭りの本番だけをコンテンツ化するのではなく、地域のコミュニティに入るパスポートとなるような企画を皆で考えてみるのも、きっといいヒントになると思います。

外部からの高評価がシビックプライドを醸成する

― 文化財活用支援において、大切にしていることは何でしょうか。

私は常々、文化財活用による文化観光は、まちづくりだと考えています。支援する我々はあくまでも裏方であり、主役はそのまちに暮らしながら文化財を支えている方々です。

「自分たちで大切な文化を継承していくんだ」という自覚を促すためにも、いかに地元の方々に輝いていただくか。それを実現するための支援活動の設計自体が非常に重要です。

私も外から専門家を送り込むときは常に、くれぐれも早急な成果主義に陥らないよう、地域との信頼関係を最も大切にしてほしいとお願いしています。

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▲同社で文化財の支援に取り組むメンバーたち。写真中央が今回話を伺った山本さん(提供:株式会社あっぱれ)

―最後に、国内で文化財を使った観光に取り組みたいと考える自治体・DMO の担当者に向けて、メッセージをお願いします。

ブランディングやプロモーションにおける課題への対応、現状に合わせた価格設定の見直しなどを考えると、文化財活用にはまだまだ伸びしろがあります。まずは地域の方々が取り組みやすいところから始めてみてはいかがでしょうか。

外部の人々、とりわけグローバルな目線を持つインバウンド旅行者から「来てよかった」「すばらしい祭り・伝統だ」と自分たちのまちや文化を認めてもらえることは、間違いなく地域の誇り、シビックプライドを醸成し、それがまた文化継承への新たな意欲を生み出します。

最終的には地域自走型の文化観光を目指して、日本の次世代に残したい伝統文化の継承を、全国の皆さんと一緒に支えていけたらと思っています。


山本 陽平
株式会社あっぱれ 代表取締役
株式会社オマツリジャパンを共同創業し、共同代表取締役に就任。祭り活用の市場を立ち上げ、7年間で500件以上の祭りの運営開催支援を施し、各地の伴走支援を行う。

2024年に株式会社あっぱれを設立し、有形無形文化財が継承される仕組みづくりや伴走支援に 150件以上取り組む。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の「一般参加催事」において審査委員や文化庁「文化資源を活用した文化観光の推進による地方創生に関する懇談会」の有識者や文化庁「全国各地の魅力的な文化財活用推進事業」の審査員や事業統括、複数の自治体や団体で文化財活用のアドバイザーを務める。