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新「訪日マーケティング戦略」を地域でどう使うか?市場別データから考えるインバウンド誘客の実践手法

新「訪日マーケティング戦略」を地域でどう使うか?市場別データから考えるインバウンド誘客の実践手法

新「訪日マーケティング戦略」を地域でどう使うか?市場別データから考えるインバウンド誘客の実践手法

観光庁・日本政府観光局(JNTO)では、2026年3月に閣議決定された第5次観光立国推進基本計画を踏まえ、2026年度から2030年度を対象とする新たな「訪日マーケティング戦略」を策定しました。訪日外国人旅行者数が増加し、リピーターが拡大する中で、市場のニーズはますます多様化し、地域にはこれまで以上にきめ細やかな施策やプロモーションが求められています。本戦略には、重点市場ごとの旅行者の関心や行動特性が明記され、自治体やDMO等が地域のマーケティング戦略を構築するうえで有効なデータや情報が豊富にまとまっています。今回は、JNTO企画総室調査・マーケティング統括グループマネージャーの福増伸一と、同事業・プロモーション統括グループマネージャーの田浦靖典より、策定のベースとなった「基礎調査(海外旅行者を対象としたアンケート調査)」の内容も交えながら、本戦略の特徴と地域での具体的な活用方法についてご紹介します。※所属部署・役職は取材当時の情報です。

コロナ後のリアルな旅行動向を反映、「地方誘客」のヒントが詰まった訪日マーケティング戦略 

― 今回、新たな「訪日マーケティング戦略」が策定された背景について教えてください。

田浦:前回策定した「訪日マーケティング戦略」は、コロナ禍からの回復期の間に行われた調査をもとにつくられ、2023年度から2025年度を対象としていました。その後、訪日旅行者数や消費額はコロナ前の水準を回復し、過去最高を記録するまでになりました。現在は、欧米豪からの旅行者が訪日旅行に占める割合が拡大するなど市場の多様化が進む一方で、旅行者の集中やマナー問題への対応をはじめとする観光の持続的な発展も推し進めていかなければなりません。市場の変化に伴い、地域の方々からも、マーケティング戦略におけるターゲットやプロモーションについて、より具体的な情報がほしいといった声が高まっていました。こうした背景から、コロナ禍以降のリアルな旅行動向をアンケート調査(「VJ重点市場基礎調査」)によって明らかとし、現状に合わせて改定したのが、今回公表された新「マーケティング戦略」です。市場別戦略、市場横断戦略、MICE戦略という3部構成でまとまっています。 

―「マーケティング戦略」を策定するにあたって、特に重視したポイントを教えてください。

田浦:大きく2点あります。まず1点目は、前回の戦略の枠組みを維持しつつ、前回から市場にどのような変化があったかを徹底的に議論し、戦略に落とし込んだ点です。調査結果から見えた変化に、JNTOがもつ定性的な知見を掛け合わせて、どうすれば地方誘客や消費額拡大につながるか、仮説検証を重ね、ターゲットを再設定していきました。たとえば、調査によって、ヨーロッパを中心とした訪日経験者や家族旅行層の増加という変化があぶり出されました。その結果を深掘りしたことで、ヨーロッパ市場の戦略では、訪日経験者と家族旅行層を、新規ターゲットとして追加しています。このように、枠組みは保ちながら、コロナ後の市場の多様な変化をしっかりとらえて反映させています。 

2点目は、市場ごとに設けている「ターゲット攻略のための留意事項」の情報をこれまで以上に充実させた点です。地域の方々より、「ターゲット像やプロモーションに関してもっと具体的な情報がほしい」といった声を多くいただいていたことを受け、地域の皆様が読んだ時にターゲットの特徴や目指す方向性をより容易に理解でき、また、実際の行動に移せると感じていただけるような表現に整理しています。 

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新戦略を支える「基礎調査」からわかる、訪日外国人旅行者の地方訪問への可能性 

― マーケティング戦略策定のベースとなった「基礎調査」では、どのような内容を分析しているのですか。

福増:「基礎調査」は、世界22市場の海外旅行者を対象としたアンケート調査で、今回が3回目となります。これまでの調査はコロナ禍の影響が残る時期に行われたものでしたが、今回は訪日客数がコロナ前を上回った2024年に実施しました。さらに、コロナ後に海外旅行を経験された方を調査の対象者としたことで、旅行者のよりリアルなニーズが反映されています。 

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質問項目は大きく分けて、海外旅行全般と訪日旅行全般という2つの軸で構成されています。海外旅行については、訪日旅行の主目的をはじめ、「次にどの国に行きたいか」「海外旅行で経験したい価値」等を質問しています。続いて訪日旅行においても幅広い質問項目を設け、海外旅行全般へのニーズを把握しつつ、訪日旅行においても重点市場の特徴が把握できる形にしました。 

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また、今回は、「地方分散」の動向を調査で深く掘り下げている点も大きな特徴です。過去の調査では、地方エリアの認知度などの設問が中心でしたが、地方への訪問経験や訪問理由、都市部・地方部の滞在で求めた内容など、地方に関する質問を幅広く取り上げました。

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これらの調査結果を反映して戦略を策定したため、「市場別マーケティング戦略」では、市場ごとの取り組みの全体方針や各ターゲット攻略のための留意事項などにおいて、地方誘客を意識した内容が多く盛り込まれています。なお、戦略の策定にあたっては、この「基礎調査」だけでなく、「インバウンド消費動向調査」や「宿泊旅行統計調査」など、各種統計も幅広く参照し、さまざまな角度から分析を行っています。

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ターゲットの見直しから新規設定まで、地域タイプ別・新戦略の活用術 

― 続いて、地域における新「マーケティング戦略」や「基礎調査」の具体的な活用方法について伺います。すでに重点市場やターゲット像を定めている地域では、戦略や調査をどのように活用したらよいですか。

田浦:まずは、地域ですでに定めている市場やターゲット像に該当するページを見ていただき、これまでの方向性と変わっていないかどうか確認してみてください。先ほどお話しした「ターゲット攻略のための留意事項」には詳細な情報がまとまっています。たとえば、「自地域への訪問意欲が本当に高いターゲットなのか」「ほかにアプローチできる可能性があるターゲットはいないか」「今取り組んでいるコンテンツが訴求コンテンツと合っているか」といった点を見直す材料になります。さらに、旅行の手配方法や情報収集源についても詳しく記載しています。これらは受け入れ整備や商品造成、プロモーションを行う際の見直しに活かせる情報です。 

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もちろん、各地域でこれまで練り上げてきた戦略がすでにあると思います。新「マーケティング戦略」に合わせてすべてを軌道修正する必要はありませんが、国単位での大きなトレンドを把握しておくことは、今後の戦略を進めるうえでも参考になると思います。一方、プロモーションに関しては、地域全体でベクトルを合わせたほうがより強力な影響力があります。ある程度地域で連携をとり、まとまって発信していただくのが効果的だと思います。 

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― 一方、狙う市場を明確に定められていない地域の場合、まず何から始め、どのように「マーケティング戦略」や「基礎調査」を活用していけばよいでしょうか。

福増:地域における最初の大切なステップとして考えられることとしては、例えば県や、県が連携している広域エリアにおいて、どの市場をターゲットにしているか、どのような取り組みを行っているかを把握することです。その動きがわかったら、次に「自分たちの地域が目指す方向性がその流れに合致しているか」を確認するとともに、自地域ではその市場からの宿泊や訪問などが伸びているのか、あるいは他の地域に比べて伸び悩んでいるか、など統計を用いながら分析してみます。こうした分析がフォーカスすべき市場を見るうえでも大きな参考になると考えられます。市場が定まってきたら、「マーケティング戦略」や「基礎調査」に記載されているターゲットも参照いただき、自分たちが売り出したいコンテンツに合致しているかどうか照らし合わせてみる、といったステップに進めるかと思います。 

また、この統計などのデータを用いて「ターゲット市場の増減に注目する」視点は、ターゲット市場が複数あり、優先順位も整理が難しい場合においても有効です。地域の中で伸びしろのある市場があれば、その理由や背景をデータから探ってみてください。そうすることで狙うべき市場であるかどうかも見えてくるはずです。 

「留意事項」も活用し、自地域の強みと市場ニーズの合致点を見出す 

― 自地域が持つ観光コンテンツと市場ニーズを照らし合わせていく際は、具体的にどういった視点が必要でしょうか。

福増:「基礎調査」の結果などをベースとした市場別のマーケティング戦略では、ターゲットごとに訴求するコンテンツを複数挙げています。もちろん私たちが把握しきれていない地域のコンテンツもあるかもしれませんが、主要なものはカバーしています。照らし合わせる時は、自地域の強みとなるコンテンツが、そこと合致しているかどうかを見てください。たとえば、「食」を例に挙げると、ひと口に食と言っても、高付加価値な体験なのか、それとも日本人の日常生活の延長にあるような気軽なローカルフード体験であるかは大きく異なります。戦略には、その違いを分けて記載しています。そのうえで、そのコンテンツがターゲットの年代や旅行層とも合致しているかを確認します。 

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―「ターゲット攻略のための留意事項」は、具体的にどのように活用していけばよいですか。

田浦:ここを読み込んで、ターゲット像のイメージをつかむのに役立てていただきたいです。たとえば、ターゲット名に、「訪日経験者、20~40代、世帯可処分所得上位40%」と書かれていても、どのような人たちで、どのようなアプローチが有効なのかつかめません。今回は、皆さんがターゲットの姿をより具体的にイメージしやすい表現を意識しました。滞在日数や同行者、情報収集源を踏まえたうえで、どんなコンテンツを提案し、どうアプローチすべきかといった、すぐに取り組みやすい伝え方に整理しています。 

福増:加えて、旅行者を受け入れる際の留意点についても、各ターゲットの関心事から、料理や言語などの接遇まで幅広い視点から記載しています。また、季節によって旅行者の動きが変動するターゲットにおいてはその点も適宜言及しています。たとえば、欧米豪の訪日旅行者数は多くの市場で全体的に夏場に下がる傾向がありますが、家族旅行層については逆に夏休みの時期に増えるケースもあります。また、冬の学校休暇に合わせて訪日客が増える市場もあります。こうした季節動向の情報も戦略に含めていますので、プロモーションのタイミングや、受け入れやすい時期に狙うべき市場について戦略を立てる際にも活用いただけます。 

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現場のリアル×データの掛け合わせで、インバウンド市場の多様化に挑む 

― 今後、地域の方々がインバウンド戦略を進めるうえで、どのような視点がより重要になるかをお聞かせください。

福増:今回の「マーケティング戦略」をまとめるうえで私たちが意識したのは、地方分散や消費額の一層の拡大に向けて、「基礎調査」をはじめとするさまざまな統計データをもとに市場を客観的にとらえ、定量と定性の両面から考えていくことでした。地域の皆様は、私たちよりもはるかに多く外国人旅行者の方々と直接地域の現場で触れていますから、現場で得られる定性情報をたくさんお持ちのはずです。「マーケティング戦略」や「基礎調査」をはじめ、地域の皆様に活用いただけるデータが今は豊富にそろってきています。特に、「マーケティング戦略」には、使い勝手がよく、受け入れ体制の構築からプロモーションまで、すぐに使えるヒントが詰まっています。ぜひそれらを活用いただいて、現場での肌感覚がデータと合致しているか、答え合わせをしながら地域の戦略を練りあげてください。 

― 最後に、全国の地域でインバウンドに取り組む方々へのメッセージをお願いします。

田浦:インバウンドに取り組むうえで最も重要なのは、「自分たちは誰に対して、何をどのように届けていくか」を地域で議論して決めていくことだと思います。その議論を進めるうえで参考になるのが、今回ご紹介した「基礎調査」であり、「マーケティング戦略」です。 

地域の方々からは、「欧米豪が伸びているという実感を、戦略からも確認できた」「詳しい情報が戦略を考えるうえで参考になる」といった感想をいただくこともありますが、皆様がこれらを活用される中で、使い勝手や、「もっとこういう情報がほしい」といったご意見をぜひお寄せいただきたいと思います。私たちからも、今後地域の役に立つ有効な分析が出ましたら、ウェブサイトやニュースフラッシュを通して情報提供に努めてまいります。インバウンド市場は多様化が進み、変化のスピードは加速しています。これからも、多くの地域との連携をより一層深め、それぞれの地域の実情を把握しながら取り組んでいきたいと思っています。 


参考サイト
​​◆訪日マーケティング戦略
https://www.jnto.go.jp/news/press/20260428_2.html

​​◆基礎調査
https://www.jnto.go.jp/news/press/20260428_3.html