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ガイド不足解消から雇用創出へ―地域に持続的なビジネス機会を生むDMO NAGASAKIの「Nagasaki Crew」ガイド人材育成モデルとは

ガイド不足解消から雇用創出へ―地域に持続的なビジネス機会を生むDMO NAGASAKIの「Nagasaki Crew」ガイド人材育成モデルとは

ガイド不足解消から雇用創出へ―地域に持続的なビジネス機会を生むDMO NAGASAKIの「Nagasaki Crew」ガイド人材育成モデルとは

長崎市を拠点とする一般社団法人長崎国際観光コンベンション協会(以下、DMO NAGASAKI)は、2024年から英語対応ガイド「Nagasaki Crew」の育成を推進してきました。2026年1月現在、1期・2期を修了した44名が契約ガイドとして活動しています。 ガイド育成で終わらせるのではなく、継続的な仕事として成立させる仕組みづくりにも力を入れており、ツアーの利用者からも高い評価を得ているのが「Nagasaki Crew」の特徴です。今回は、DMO NAGASAKI企画課主任の森永亜由美さんに、ガイド育成の手法や運営における工夫、実践的なノウハウについて伺いました。

クルーズターミナルの現場で見えてきた、確かなビジネスチャンス 

―DMO NAGASAKI が、ガイドの育成に取り組むことになったきっかけを教えてください。

長崎港は全国有数のクルーズ拠点で、外国船社による寄港が多い港です。2022年春、DMO NAGASAKIでは、長崎市内の複数の観光施設の入場券をセットにした周遊パスの販売促進を目的に、クルーズから下船してきた訪日客に手売りをしていました。その現場で見えてきたのが、ガイドに対する高いニーズです。 

ガイドツアーに関する問い合わせが多く寄せられた他、知り合いのガイドからは、日本人にとっては決して安くはない価格帯でも案内を依頼されるとの話を耳にし、ガイドには確かな需要があり、事業としても十分に成立する可能性があると実感するようになりました。 

調べてみると、長崎ではガイド人材が決して十分とは言えない状況で、実際に稼働している県内の全国通訳案内士や英語ガイドは20名程度にとどまり、多くを県外の人材に頼っているのが実情だとわかりました。長崎で生まれる仕事が県外に流れてしまうのはもったいないですし、地域の歴史や暮らしをよく知る人が案内するほうが、旅行者にとってもより深い体験につながるはずです。 

需要は確かにあるのに、供給が追いついていない。そのギャップにこそ取り組む余地があると考え、2023年に日本観光振興協会の「クルーズ観光促進事業」に採択されたことを機に、Nagasaki Crew育成事業の実施に踏み切りました。 

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▲2025年には、年間で約200隻が寄港。アジア系乗客が中心の船が約5割強、欧米豪系乗客が中心の船が約3割強を占める

―ガイド育成を事業として成立させる上で、仕組みづくりにおいてどういった点を工夫したのでしょうか。  

ガイドに仕事を安定的に生み出すには、単なる人材育成で終わらせるのではなく、ツアーの造成や有償でのガイド機会までを一体で考える必要があると考えました。そこで、DMO NAGASAKIが窓口となり、仕事を受けてガイドとマッチングする仕組みを整えました。 

一方で、「仕事を必ずお約束できるわけではない」という点は、最初の説明会の段階でしっかりとお伝えしています。DMO NAGASAKIはあくまで「仕事のチャネルのひとつ」という位置づけで、個人での受注を制限することはありません。他団体主催ツアーの情報共有なども行い、活動の幅を広げられる環境を整えています。 

いきなり独立してひとりでガイドを始めることはハードルが高いですが、Nagasaki Crewは、育成プログラムを経てメンバーと共に実践を重ねられるので、ガイドの入り口として参加しやすい環境だと思います。メンバーは女性が約9割を占め、10代から60代までと幅広く、特に40~50代、次いで20代がボリュームゾーンとなっています。非正規雇用で働きながら将来的にガイドを主軸にしたい方や、午前中や休日のみ活動したい子育て世代などが多く、それぞれの隙間時間を活用して収入と経験を得られる点も大きな特徴です。 

一般に「ガイドだけで生計を立てるのは難しい」と言われる中、まずは副業からスタートし、専業へと発展させるキャリアパスを描きやすい仕組みづくりに努めるとともに、営業ノウハウやOTA活用のレクチャーなど販売面でのサポートも行っています。 

「長崎愛」が第一条件。未経験者をプロに育てる研修を実施 

―Nagasaki Crewの選考を行う際の基準策定にあたり、意識した点を教えてください。 

募集にあたっては、ガイド経験や資格の有無を条件にはしませんでした。日常会話レベルの英語力は前提としつつ、それ以上に重視したのが、長崎の好きなところや魅力を自分の言葉で語れる「長崎愛」です。長崎市の公式LINEや大学へのチラシ配布、関係団体への周知などを通じて募集を行ったところ、各期定員25名に対し、2024年の1期では76名、2025年の2期では48の応募がありました。 

面接では、「お客様からこんな質問をされたら、どう答えますか」といった簡単なロールプレイを取り入れ、知識量よりも、相手に寄り添う姿勢やホスピタリティ、伝えようとする熱意を見るようにしています。結果として合格者の多くはガイド未経験者でしたが、研修を通じて、プロとして現場に立てるレベルまで育ってもらうことを目指しています。 

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▲ガイド研修の様子。参加者の研修受講料は、一般2万円、学生1万円に設定 

― 研修のカリキュラムの内容と、策定にあたってこだわったポイントを教えてください。 

全国通訳案内士の方などを講師に迎え、全6回にわたり、長崎に関する知識や旅程管理、語学、救急救命など、ガイドとして必要なことをひと通り学んでもらいます。 

特徴的なのは、「アウトプット型」のカリキュラムが多いことです。座学だけでなく、ヴィーガン対応が可能な店舗を自ら調べて発表するグループワークや、さまざまな場面を想定したロールプレイ演習、時間制約や動線を意識した実地研修など、現場を強く意識した内容を取り入れています。研修後すぐに現場で活躍できるよう、実践性を重視しました。 

こうした研修を修了し、最終試験に合格した方を「Nagasaki Crew」として認定。実際に活動する際は、DMO NAGASAKIと契約を結び、ガイドとしての仕事をスタートします。 
 

― Nagasaki Crewの仕事は、どのようにして生み出しているのでしょうか。 

本来であれば、事前に予約を受け、仕事があらかじめ確約される仕組みが理想です。ただ、当時のDMO NAGASAKIには、そうした販売チャネルがありませんでした。そこでまずは、クルーズ船が寄港する日に、長崎港ターミナルで乗船客にガイドツアーを販売するところからスタートし、メンバーが現場で経験を積みながら、クルーズ以外の客層にも販路を段階的に広げていく方針としました。 

クルーズ船のガイドツアーでターゲットとしたのは、欧米豪中心のプレミアムまたはラグジュアリークラスのクルーズ船の乗客で、経済的にゆとりがあり、ガイド体験に価値を見いだす層です。なかでも、船会社が提供する大人数向けのバスツアーには参加せず、下船後にその日の行き先や過ごし方を決める少人数グループに着目しました。 

2025年春、育成研修を修了したNagasaki Crew1期のメンバーが、初めて現場のツアー販売に挑戦。乗客への声掛けはメンバー自身が担い、成約した場合は報酬に反映される仕組みとしています。

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▲クルーズから下船する乗客にガイドが自ら声掛けを行う 

安心して現場に立てる「スモールステップ」を設計 

―クルーズ船乗客向けに造成したNagasaki Crewによるガイドツアーの内容と特徴を教えてください。

目的地をカスタマイズできるオーダーメイド型のツアー(4時間・170米ドル)の他、原爆資料館を訪れた後にガイドと一緒に折り鶴を折り、平和記念像のそばに献納するツアー(3時間・170米ドル)や、地元の人々に親しまれている諏訪神社でご祈祷を体験するツアー(3時間・210米ドル)などを用意しています。 

船会社が提供する大人数向けのバスツアーという選択肢がある中で、あえてそれを選ばない乗客に向けた商品にする必要があると考え、以下の3点をツアー造成の軸としました。 

・少人数ならではのプライベート感があること 
・事前予約なしで、当日参加できること 
・地元の人々にとっても馴染みのある場所や文化を、ガイドが自分の言葉で伝えられる内容であること 
 

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▲平和記念公園ではゲストと共に折り鶴を折って、平和を祈る

― ガイド未経験のメンバーも多かったということですが、彼らが安心して現場に出られるよう、配慮した点はありますか。 

いきなりひとりで有償ガイドを行うことへの不安を和らげるため、ふたつの「スモールステップ」を用意しました。ひとつ目は、ふたり1組でガイドを行う「ペアガイド」です。経験があり比較的自信のある方と、英語力や現場対応にまだ不安のある方を組み合わせ、共に行動してもらっています。説明や時間管理、英語対応など案内中も互いにフォローし合えるほか、精算や領収書の管理といった事務作業の役割も分担できてよかったという声が多く聞かれました。 

ふたつ目は、ツアー商品をあえて絞った点です。開始当初は2コースに限定し、研修で実際に歩いた場所を中心に構成しました。その後、現場に慣れてきた段階で、より柔軟な対応が求められるオーダーメイド型のツアーを追加しました。 

― メンバーのスキル向上に向けて、運営の立場としてどのようなサポートを行っていますか。 

研修の段階から、「横のつながりを大切にしてほしい」と伝えているのですが、その取り組みのひとつとして、オンラインのグループを活用し、メンバー同士が学び合える環境を整えました。 

運営側からの情報共有や仕事の案内をベースに、各自の業務報告もオンライン上で全体に見える形で共有してもらっています。「こんな質問を受けた」「このように対応した」といった現場での気づきが可視化されることで、他のガイドにとっても学びとなり、実践的なナレッジが少しずつ蓄積されていく仕組みです。彼ら自身が持っている知識や情報を積極的にシェアする動きも広がり、コミュニティ全体に自然な賑わいが生まれています。

また研修終了後のフォローアップとしては、バスガイドとしての対応力を高める追加研修を実施したり、長崎凧(ハタ)の職人訪問や寺院での茶会体験など、個人ではアポイントを取りにくい学びの機会を用意したりしています。 

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▲オンライン上で展開されているガイドコミュニティでは、積極的な交流が行われている

販路の確保と「つなぐ役割」が、ガイド育成を持続させる 

― 取り組みを進める中で、どのような成果や変化が見えてきましたか。 

活動が広がるにつれ、ガイドツアーの受注経路にも変化が現れてきました。クルーズ乗船客向けのツアー販売に加え、2025年夏頃からは、旅行会社や地元のタクシー会社、ホテルなどを通じた依頼が徐々に増えています。 

あわせて、ガイドを職業として成立させることを見据え、2026年より報酬を2~3割引き上げました。仕事として続けられる収入を意識したことで、メンバーの反応も前向きです。 

個人での活動も希望するガイドについては、長崎県の多言語観光サイト「DISCOVER NAGASAKI 」にプロフィールを掲載しており、そこから直接依頼につながるケースも生まれています。 クルーズターミナルでの取り組みを通じて実績が可視化されたことで、成約の確度が読みづらかった初期の段階から、継続的かつ安定した販路の拡大ができているという手応えを感じています。 

Nagasaki Crewの今後の展望を聞かせてください。 

現在は、DMO NAGASAKIとしてオンライン旅行代理店(OTA)でのツアー販売も行っていますが、まだ十分な実績を上げられているとは言えません。今後は、長崎市内の定番ルートにとどまらず、隠れキリシタンの遺跡巡りといった高付加価値のツアーや、郊外エリアへの送客にも注力していく考えです。 

当面は、Nagasaki Crewのメンバーを80名規模まで拡充することを目標に、募集と育成を継続し、商品の磨き込みと情報発信の強化を通じて、ガイドの仕事が持続的に生まれる仕組みづくりを進めていきます。 

―最後に、ガイド不足の課題を抱える全国の地域・DMO・自治体の方々に向けて、メッセージをお願いします。

Nagasaki Crewの取り組みを振り返ると、「ここに行けばお客様がいる」という明確な販路を最初に確保できたことが、大きなポイントだったと感じています。仕事の入口が見えていたからこそ、ガイド育成と仕事のマッチングを無理なく進めることができました。 

もうひとつ重要なのが、ガイドと仕事をつなぐ「間に立つ存在」です。学び合いや交流の場だけでは仕事は生まれません。誰かが責任を持って案件を受け、ガイドにつなげていく役割が不可欠だと実感しています。 

ガイドを育てて終わりにするのではなく、販路の確保と自走できる仕組みをセットで設計すること。その積み重ねが、地域への愛着を仕事として成立させていく土台になるのではないでしょうか。