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地域が連携し、持続可能な観光の未来をつくる ~日本におけるBest Tourism Villageの挑戦~

地域が連携し、持続可能な観光の未来をつくる ~日本におけるBest Tourism Villageの挑戦~

地域が連携し、持続可能な観光の未来をつくる   ~日本におけるBest Tourism Villageの挑戦~

▲2024年のBTVネットワーク年次会合では、南丹市美山町が日本版BTV連携協議会について発表

国連の専門機関であるUN Tourism(世界観光機関)が実施する「Best Tourism Village(以下、BTV)」は、経済・社会・環境のあらゆる側面から持続可能性に取り組む農漁村観光地を評価し、優れた地域を表彰する制度です。日本では現在12地域が認定されており、2024年には、認定地域や認定を目指す地域が学び合い、連携を深めるための枠組みとして「日本版BTV連携協議会」が発足しました。 今回は、アジア太平洋地域でBTVの推進を担当するUN Tourismアジア太平洋地域事務所の吉田順子さん、そしてBTV認定を受けた京都府南丹市美山町の一般社団法人南丹市美山観光まちづくり協会 事務局長・青田真樹さんに、BTVの意義や地域同士の連携によって生まれた成果、今後の展望などについてお話を伺いました。

農漁村地域の持続可能な観光地域づくりを後押しする国際認定BTV 

―はじめに、BTVの概要について教えてください。 

吉田さん(以下、敬称略):BTVは、観光を通じて文化遺産の保全や持続可能な開発に取り組む優良地域を表彰・認定するプロジェクトです。農漁村地域が抱える雇用格差や人口減少、教育や技能の格差といった課題の解決に観光を活用し、地域の発展やウェルビーイングの向上につなげていくことを目指して、2021年にスタートしました。2025年までに世界57か国・236地域が認定を受けています。 

―応募にあたっての資格や評価の基準はありますか。 

吉田: 応募資格は3つあります。1.人口1万5000人以下であること 2.農業・林業・畜産業・漁業などが重要な位置を占める景観にあること 3.地域コミュニティの価値観やライフスタイルが共有されていることです。 
申請はUN Tourism加盟国政府を通じて行われ、日本では観光庁が推薦を担当しています。審査では、持続可能な開発目標(SDGs)に関連する9つの基準に沿って評価されますが、地域の取り組みを公開文書や写真などのエビデンスとあわせて示すことも大切です。基準を満たした地域はBTVとして認定され、基準に達しない場合でも、潜在性が高いと判断された地域はUN Tourismの助言で課題分野の改善を図る「アップグレードプログラム」に選ばれます。 

―BTV認定を受けることで、どのようなメリットがありますか。 

吉田: 一番大きいのは、「BTVネットワーク」という国際的なコミュニティに参加できる点だと思います。年4回の事例紹介ウェビナーでは各地域の優良事例を紹介し、地域づくりのノウハウや課題について学び合う機会を設けています。さらに研修の機会として、専門家から世界の持続可能な観光の動向や、業界からマーケティングの手法などが学べるオンライン研修も年4回開催されています。また、対面で開催される年次会合は、BTV地域間でのつながりが生まれる場です。実際、京都府美山町は会合への参加をきっかけにタイの観光関係者と交流し、「美山町に旅行者を送りたい」という具体的な話に発展したそうで、対面ならではの関係づくりが活かされた好例だと感じています。 

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▲2025年のBTVネットワーク年次会合の後に開催されたBTVトロフィーの授与式の様子 

加えて、認定地域はUN Tourismの公式ウェブサイトやSNSでも紹介されます。国連機関による制度であることから、「地域の取り組みが客観的に評価されている」という信頼性につながり、国際的な発信力を得られる点もBTVのメリットといえます。 

認定地域がつながり、学び合う中で生まれた日本版BTV連携協議会 

―つづいて、一般社団法人南丹市美山観光まちづくり協会の青田真樹さんにお伺いします。美山町では持続可能な観光の実現に向けて、どのような取り組みを行っていますか。 

青田さん(以下、敬称略): 人口約3,100人の南丹市美山町は、自然や農山村の原風景が今も残る小さなまちです。この地域の魅力を伝えるため、地産食材を使ったおもてなしや、かやぶき文化に象徴される持続可能な暮らしを体験できる観光に取り組んでおり、その中でも特に人気なのが「半日田舎暮らし体験」です。古民家で地元の人と旅行者が一緒にご飯をつくって食べ、半日ゆっくり過ごすというシンプルな内容ですが、訪日外国人旅行者からも高い評価をいただいています。 

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▲地元の人と交流しながら、食事を楽しむ「半日田舎暮らし体験」 

多くの旅行者を呼ぶことよりも、丁寧で質の高い体験を求める「価値のラグジュアリー」、つまり物質的な豪華さではなくその土地でしか得られない豊かさを重んじる方々に来てほしいという考え方は、美山町だけでなく、他のBTV認定地域にも共通しているものだと思います。 

―2021年にBTV認定を受けた後、美山町ではどのような変化がありましたか。 

青田:初年度は北海道ニセコ町と美山町がBTVに認定され、北海道美瑛町がアップグレード地域になったのですが、「同じ理念を持つ地域同士で学び合いたい」という思いから、すぐに連絡を取りました。3地域で勉強会を開いたり、ニセコ町の高校生が美山町へ校外学習に来てくれたりと、交流が少しずつ広がっていきました。 

その後は新たな地域も加わり、担当者同士の自主的な会議や宿泊事業者の相互訪問など、取り組みの幅も拡大しました。美山町と同じく「重要伝統的建造物群保存地区」を持つ白川村を訪問し、得られた知見を施策に反映するなど、他地域の実践を生かす動きも進んでいます。交流を重ねる中で、各地域が抱える観光課題や、非都市地域ならではの困りごとを率直に語り合えるようになり、気軽に相談できる関係が育っていったことは、大きな変化だったと感じています。 

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▲2025年7月、奈良県明日香村へ視察に行くなど、地域間の相互交流を通じて、多くの学びが得られた 

こうした積み重ねから、「地域同士が横につながり、互いに高め合える仕組みをつくろう」という動きが自然と生まれていきました。規約づくりや枠組みの調整はUN Tourismアジア太平洋地域事務所に支えていただき、2024年に日本版BTV連携協議会が発足しました。 

―日本版BTV連携協議会で取り組んでいることや成果について教えてください。 

青田:年1回の総会・シンポジウム開催(後述)のほか、各地域に共通する「自分たちの取り組みをきちんと伝える場所をつくりたい」という思いを形にするため、日本語・英語併記で、BTVの概要や各地域を横断的に紹介するデジタルパンフレットを制作しています。電子ブックのように閲覧でき、国内外の方々にわかりやすく情報を届けられるよう工夫しています。 

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▲日本版BTV連携協議会で制作しているデジタルパンフレット 

今後は、このパンフレットを基盤に、ホームページなどを通じた情報発信を強化していく予定です。発信の場が整うことで、BTV認定地域が連携して取り組む強みを、より効果的に生かせるようになると考えています。 

たとえば、外国人旅行者に向けた日本のマナーや考え方の紹介は、ひとつの地域だけの発信では届きにくいかもしれませんが、各地域が共通のメッセージとして発信することで、説得力も広がりも大きくなります。こうした取り組みが観光課題の解決に寄与したり、旅行者が「旅のあり方」を見直すきっかけになることを期待しています。 

また、年に2回、JNTOとの情報交換の場を設けています。我々からは地域が抱える課題や発信したい内容を共有し、JNTOからは世界の観光動向やサステイナブルツーリズムの最新情報を伺っています。こうした意見交換は、BTV地域の取り組みを前に進めるうえで大きな刺激になっています。 

高く称賛される日本の連携モデルを世界へ 

―地域とともに、日本版BTV連携協議会の事務局を務めるUN Tourismアジア太平洋地域事務所では、どのような役割を担っているのでしょうか。 

吉田:日本版BTV連携協議会として、年に1回の総会を開催しています。2024年は白川村、2025年はニセコ町で実施し、あわせてシンポジウムも協議会として開催しました。シンポジウムについては、一般にも公開することで、BTVの価値や認知度を高めたいと考えています。実際、ニセコでは地元の観光関連事業者をはじめ、多くのニセコ高等学校の生徒の方たちにも参加いただき、地域の理解や関心が広がる場になりました。 

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▲2025年ニセコ町で開催されたシンポジウムでのパネルディスカッションの様子 

―日本版BTV連携協議会について、今後どのような広がりを期待されていますか。

吉田:日本版BTV連携協議会は、日本の認定地域が「横でつながりたい」「学び、高め合いたい」という思いから自主的に立ち上げた枠組みです。草の根で始まった取り組みでありながら、組織としての体制がしっかり整っていることから世界でも「先進的なモデル」とUN Tourismからも高く評価されており、UN Tourism BTV関連の発表や出版物には、常に日本版BTV連携協議会の事例が紹介されています。今後は、こうした日本の実践をさらに世界へ発信し、海外との双方向の学びの場をいっそう広げていきたいと考えています。 

―BTVに取り組む上で、地域にはどんな準備や心構えが求められるのでしょうか。 

吉田:BTVは、地域が主体的に関わってこそ真価を発揮する仕組みです。そのため、2年ごとに活動報告書を提出し、今後の取り組みに対するコミットメントを示す責務があります。また、担当窓口となる方には、英語でのコミュニケーションが可能であること、地域の観光発展に携わっていること、そしてBTVネットワークへ積極的に参画できることを要件としています。 

英語に不安を感じられる地域もありますが、外部人材の協力やオンライン翻訳などのデジタルツールを活用して対応している例もあります。求められるのは完璧な英語ではなく、「伝えようとする姿勢」です。国際的な場でも、その熱意は必ず届きます。実際、当初は自信がないと話していた担当窓口の方も、積極的な姿勢によって、世界に仲間を広げています。 

―最後に、BTVの認定を目指す地域や、持続可能な観光に取り組む地域のメッセージをお願いします。 

吉田:BTVの認定は大きな成果ですが、それ以上に価値があるのが、申請に向けて取り組むプロセスです。観光が農業や地場産業、教育など、地域の多様な分野と密接につながっていることに気づき、「観光の本来の価値を見つめ直すきっかけになった」という地域もありました。地域が主体となって一歩を踏み出し、BTVネットワークおよび日本版BTV連携協議会の仲間に加わっていただければと思っています。 

青田:BTV認定地域には、地域に流れる空気感そのものがすばらしい場所が多いと感じています。新しく何かをつくり出すのではなく、その土地が本来持つ魅力を丁寧に紡いでいくことこそ、地域にとっても、訪れる人にとっても大切な価値につながるのではないでしょうか。「暮らしの中にこそ価値がある」という理念がほかの地域にも広がっていけば嬉しいですし、そうした取り組みをみなさんと一緒につくっていけたらと考えています。 

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▲2025年、日本版BTV連携協議会 第2回総会のフォトセッション 

2026年1月下旬~2月上旬にBTV申請に関する告知が行われる予定です。詳細はBTV公式ページをご覧ください。

https://tourism-villages.unwto.org/en/