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海外富裕層に響く、高付加価値な体験開発に必要な 3 つのポイント

海外富裕層に響く、高付加価値な体験開発に必要な 3 つのポイント

海外富裕層に響く、高付加価値な体験開発に必要な 3 つのポイント

インバウンド市場で、注目が集まる「高付加価値旅行」。全国でさまざまな取り組みが推進されている中、海外の富裕層旅行者が満足する体験をいかに開発し、実際に商品提供までできるかが課題となっています。このふたつの領域を手掛けるのが、富裕層旅行者向けの事業を展開するエクスペリサス株式会社です。日本全国に眠る観光資源を活用し、高付加価値な体験コンテンツを開発するうえでの大切なポイントや、富裕層にリーチする販路づくりについて、同社の代表取締役 丸山智義さんにお話を伺いました。 (※写真は、国宝 石清水八幡宮と共に提供する高付加価値な文化体験プログラム)

「つくる」と「売る」を一体化、高付加価値体験コンテンツを創出するビジネスモデル 

― エクスペリサスの事業概要と、会社設立に至った背景を教えてください。 

エクスペリサスは、高付加価値な体験の企画造成と販売を行う会社として、2017年に設立しました。設立のきっかけは、大学卒業後にシンガポールで学び、働いた20代の頃にさかのぼります。30代になったら日本のためになる仕事がしたいと思い、海外生活の中でヒントを探っている中、日本が世界と伍して戦える領域として注目したのが「観光」です。付加価値の高い体験こそ海外の旅行者が求めているということを、シンガポールでの経験から感じとっていましたし、日本に素晴らしい観光資源があることも、素人ながら理解していました。創業当時、高付加価値な旅行体験をゼロイチベースで開発し、海外の富裕層に販売までしている会社はごくわずかで、腰を据えて事業展開すれば拡大するチャンスがあると思い、立ち上げました。 

― 体験コンテンツの造成から販売までを一貫して行うビジネスモデルには、どんなメリットがあるのでしょうか?

メリットは、PDCAサイクルを非常に早く回すことができることです。たとえば、ある体験プランを販売した後にお客様からフィードバックが寄せられた場合、「つくる」「売る」のプレーヤーがそれぞれ異なれば、そのフィードバックに基づいて改善される保証はありません。「つくる」と「売る」を一体で推進することで、海外の旅行会社提案時、販売時、販売後に収集したマーケティングデータを基に、売れる体験商品へのスピーディーな改善が図れます。 

日本固有の観光資源×希少性×品質管理を軸に、ストーリーを掛け合わす 

― これまでに造成した高付加価値な体験プランはどのくらいありますか? また、いくつか事例を教えてください。

およそ数百といったところです。実は体験の詳細をあまりオープンにしておらず、その理由は非常にシンプルで、海外の富裕層および富裕層向け旅行会社は、秘匿性の高いコンテンツを求めているからです。自分たちですぐに見つけて予約できるような商品に、彼らはあまり価値を感じていません。 

お伝えできる事例としては、広島県観光連盟、大阪観光局などのDMOや自治体等と開発した体験コンテンツ、トヨタ自動車と開発した、レクサスを活用した最高峰の旅の提案、南海電鉄との世界遺産高野山エリアにおける体験プログラム、寺田倉庫と連携したアート関係のプログラム、松竹株式会社と連携した新宿ゴールデン街を舞台とした没入型演劇など、企業と連携した開発があります。各DMO・自治体がもっている観光戦略を体現する、または企業が抱える課題を解決する手段として、高付加価値な体験コンテンツ開発支援というサービスを提供しています。 

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日本最大の宗教都市高野山にある宿坊 恵光院で浸る仏教体験

― 高付加価値な体験を開発するうえで大切にしているポイントを教えてください。 

大切にしている軸は3つあります。まずひとつ目が、日本固有の観光資源であるかどうか、という点です。たとえば、欧米の方々であれば文化的要素の強い観光資源を、東アジア圏であればガストロノミー要素の強い観光資源を、典型的な日本固有の観光資源としてイメージするケースが多く見られます。そうした旅行者のイメージに沿いながら、日本ならではの体験コンテンツを形づくっていくことが重要です。 

ふたつ目が、特別な体験にどのような「希少性」を付与できるか、という点です。たとえば、世界遺産の神社仏閣を一般客の拝観後に貸し切る場合、デイタイムに体験できる内容やルートと同じでは希少性があるとは言えません。どのような希少性を付与するかは、ターゲット市場ごとに異なります。中国やアジア圏の旅行者には、一定期間だけ公開されるというような「時限性」「限定性」といった性質が好まれる傾向にあります。一方で、欧米の旅行者にはこれらの性質はそこまで響きません。彼らを引きつけるのは知識や学びが得られるような、「教育性」などの性質です。 

3つ目のポイントが「品質管理」です。たとえば体験時間の長さ、通訳者のレベル、体験中のフォロー体制等々、ターゲット国ごとに重要視すべき品質項目は異なりますが、総じて一定の品質を保つことが重要です。 

これら3つの掛け算が、高付加価値な体験をつくる基本となり、そこに横串で、その土地ならではの共感を呼ぶ「ストーリー性」を加えていくと、無形資産としての価値が高くなると考えています。極端に尖った観光資源でなくても、今述べたポイントを加味して差別化をはかることが重要です。 

― ひとつ目のポイントである「日本固有の観光資源」ですが、そもそも、これまで観光コンテンツとして活用されていなかった隠れた観光資源はどうやって掘り下げればよいのでしょうか? 

最も簡易的な方法のひとつは、海外に目を向け、類似している観光資源の成功事例を見つけることです。その一例が、広島県観光連盟と開発した、没入型演劇を取り入れたナイトミュージアムでした。没入型演劇はすでに世界で流行っていましたが、日本ではほとんど事例がなく、しかも観光でやろうとしている会社は一社もありませんでした。コロナ禍で人手があり、かつ夜の美術館が借りやすいという好条件も相まって、予約が取れないほどの人気商品となりました。

では、世界での成功事例が見つからなかった場合はどうしたらよいのか。点でなく面でとらえるアプローチは有効だと考えています。ひとつのエリアだけで何かをするのは不可能かもしれませんが、面としてエリアを考えれば、ターゲットを誘客するための優位性が見つかる可能性があります。一方で日本固有の観光資源のため海外に事例がない場合は、成功事例を日本で探します。温泉、食事、里山等々、さまざまな事例があるはずです。 

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広島県観光連盟と開発した美術館を夜貸切にして行うナイトミュージアム 

富裕層旅行会社への営業戦略を通じて、誘客へ 

― 次に、販売について伺います。主な販売先と、どういったお客様が多いのかを教えていただけますか? 

当社が直接販売する先は、海外の富裕層旅行会社です。個人のお客様から受注することはありません。なぜなら、富裕層は旅行の計画を旅行会社に任せることが多く、自分自身で予約を取ることをしたがりません。販売先の国は欧米が中心となりつつ、アジア、南米、アフリカと全世界に広がっています。旅行者の年代は、20代は少数で、ほとんどが30代以上。カップル、夫婦もいれば、家族や複数の家族がグループになって旅行するパターンもあります。

― そうした富裕層旅行会社とのネットワークはどのように広げたのですか? 

設立した2017年からコロナが始まる前年の2019年までは、アメリカは西海岸、東海岸、ヨーロッパはイギリスを中心にドイツ、フランス、アジアは香港、上海など、訪問先の営業リストを作ってコツコツと私自身の足で回りました。メールを送って行ってもいいかと尋ねると、"Of course!"と、どの会社も快く受け入れてくれました。企画レベルの体験プランを携え、「どれが売れると思いますか?」と聞くと、「これとこれとこれ」いった具合に率直な意見がもらえ、売れる商品への感度もつかむことができました。のべ500社ほど訪問し、その後は最初に築いたネットワークの紹介を中心に、母集団を大きくしていきました。スタートアップは今回が3社目なので、これまでの経験から、地道に泥臭いことをしたほうが成長が早いことは心得ていました。 

― 2023年11月に、欧州の旅行会社を中心とした、ラグジュアリートラベルのコンソーシアムSerandipiansに加盟されました。加盟前と後で、変化はありましたか?

問い合わせ数が一気に2.5倍くらいに増えました。もちろん加盟しただけで自然に増えたという訳ではありません。加盟したタイミングで各社への営業活動に力を入れ他のラグジュアリー旅行会社との違いやオリジナリティを明確にアピールした結果です。 

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トヨタ自動車株式会社と開発した、環境に優しく驚きに満ちたプログラム

ラグジュアリートラベル市場での認知獲得に向けた体験造成は今がチャンス 

― 今後の展望についてお聞かせください。こんな地域とこんな体験プランをつくりたいといった構想はありますか? 

当社の目標は、日本のラグジュアリートラベル市場における、高付加価値体験の第一人者になることです。そのためにも、日本各地の体験を取りそろえ、海外からのお客様を日本の各県に送客することを目指しています。これまでつながりのある自治体からの紹介や、その近隣エリアなどからお問い合わせの数も増えているところで、北から南までさまざまなエリアと協力し、できるだけ多くの体験コンテンツをつくり、売っていきたいと考えています。

― 最後に、国内でインバウンドに従事する方や、高付加価値コンテンツをつくりたい自治体・DMOの担当者に向けて、メッセージをお願いします。 

コロナが明け、海外の富裕層旅行会社による日本への注目度はますます上がっていると実感しています。しかし彼らは日本のことをそこまで深く知っているわけではありません。知っているのは東京、大阪、京都といった主要都市であり、地方はまだ認知が進んでいないのが現状です。富裕層旅行はまず、海外の富裕層旅行会社への地方の魅力を認知、理解してもらったうえで送客が始まります。ですから、現在はまさしく認知フェーズで、どれだけ早くそのエリアを認知してもらえるかがカギとなります。多様な観光資源は、日本の強みです。際立って尖った資源でなくても時間をかけて適切な相手に、適切なストーリーとコンセプトをもって共感を呼べる体験を形づくっていけば、富裕層にリーチできる商品を提供できると確信しています。


丸山智義 

エクスペリサス株式会社 代表取締役

上智大学外国語学部卒業、シンガポール国立大学へ留学。長期インターンで投資銀行、VC業務を経て2011年にレオモバイル社立ち上げに参画。その後、株式会社heathrowを設立し、2016年9月末にMBO&同社退任。2017年1月にXPERISUSを設立。