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世界22市場での定量調査でみる、訪日旅行への意識・傾向・市場規模(JNTO独自調査結果概要)(前編)

世界22市場での定量調査でみる、訪日旅行への意識・傾向・市場規模(JNTO独自調査結果概要)(前編)

世界22市場での定量調査でみる、訪日旅行への意識・傾向・市場規模(JNTO独自調査結果概要)(前編)

JNTOでは、訪日旅行促進に向けて、世界の旅行市場に関するデータ収集・分析や調査事業等を行っています。この記事では、2021年にアジア、欧米豪・中東諸国において実施した各市場の旅行者の意向等に関する独自調査「22市場基礎調査」の結果のポイントをご紹介します。


「22市場基礎調査」概要

調査の目的

JNTOは2021年、訪日旅行市場の拡大・多様化、訪日外国人旅行者の消費単価の向上、国内での地域分散等を促進する戦略的なプロモーションを実施するための基礎情報を得ることを目的に、ビジット・ジャパン重点22市場において、海外旅行に関する意向調査を行いました。

コロナ禍前に海外旅行にどの程度行っていたのか、海外旅行にどのようなものを求めているのか、訪日旅行を検討しているかなど、さまざまな項目についてのアンケートを実施し、その結果に基づき、訪日旅行の潜在的な市場規模や各市場における海外旅行の傾向、訪日旅行の強みや弱みなど複数の視点から分析を行いました。

調査結果の概要はウェブサイトでも公開していますので、各自治体やDMOなど、国内のインバウンド旅行関係者の皆様においても、今後の取組を検討する際などに各市場の基礎資料としてご活用ください。

調査の設計

<調査時期>
2021年3月~6月

<調査対象市場>
【東アジア 地域】韓国、中国、台湾、香港

【東南アジア 地域】タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム

【欧米豪・インド・中東 地域】米国、カナダ、メキシコ、豪州、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ロシア、インド、中東地域(GCC6カ国(サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、オマーン、カタール、クウェート) 、トルコ、イスラエル)

<調査対象者>
20歳以上の海外旅行実施者

※訪日旅行を含む海外旅行の傾向・状況等の調査のため、

●日本への旅行が近距離となる東アジア・東南アジアの10市場では「コロナ禍前の3年間(2017~2019年)に飛行機を利用したレジャー目的の海外旅行経験者」

●訪日旅行が長距離旅行となる欧米豪・インド・中東地域の12市場では「コロナ禍前の3年間(*1)に飛行機を利用したレジャー目的の中長距離海外旅行経験者」

を対象としています。本記事でいう「海外旅行実施者」とは、上記の調査対象者を指します。

(*1)メキシコと中東地域市場は2015~2019年の期間

<調査方法>
オンラインでのアンケート調査

※GCC6カ国は訪問によるアンケート調査

<サンプル数>
フィリピン:958

メキシコ:1,100

中東地域:トルコ 1,000、イスラエル 320、GCC6カ国 962

上記以外:各1,200

 

調査結果から読み解けること ~訪日旅行のマーケットの規模は?~

各国・地域に暮らす方々のうち海外旅行をする方は限られており、さらに、欧米豪からの訪日旅行のように、7時間以上も飛行機に乗らなければならない海外旅行をする方は、各国・地域を出発する海外旅行者の一部に限られます。調査対象の重点22市場の人口を単純に足すと合計45.7億人(*2)ですが、実際の訪日旅行市場の規模は人口の規模とは異なるため、誘客に取り組む市場を検討する際には、市場規模も考慮することが必要です。

(*2)IMF World Economic Database 2021年4月版より

訪日旅行マーケットを客観的に捉えるため、今回の調査結果をもとに市場規模、つまり海外旅行実施者数を推計。調査対象の22市場合計で海外旅行実施者数は約3.3億人、そのうちの訪日旅行経験者数は約1.2億人と推計しました。

市場別にみると、海外旅行実施者・訪日旅行経験者ともに数が最も多かったのは中国です。海外旅行実施者数は推計7,100万人、そのうちの訪日旅行経験者数は推計3,000万人近くにも及びました。しかし割合としては、海外旅行実施者のうちの半数以上、訪日旅行の経験がありませんでした。

一方で同じ東アジア地域の韓国、台湾、香港では、各市場の海外旅行実施者の大半が訪日旅行経験者であり、特に台湾と香港においては、海外旅行実施者の約4割もの人が過去4回以上も訪日旅行を経験していました。

東南アジア地域では、シンガポールのみ海外旅行実施者のうち7割以上の人が訪日旅行を経験していたものの、それ以外の5カ国では訪日旅行の経験がない海外旅行実施者が約7〜8割にも及びました。

欧米豪・インド・中東地域では、米国において6割以上、豪州で4割以上の海外旅行実施者が訪日旅行を経験しているものの、それ以外の国では訪日旅行未経験者が圧倒的に多く、特にインド、ドイツ、ロシア、中東地域は9割以上、英国、フランス、イタリア、スペインでも8割以上の海外旅行実施者が訪日旅行未経験者でした。

 

世界22市場での定量調査でみる、訪日旅行への意識・傾向・市場規模

海外旅行実施者数と訪日旅行経験率(東アジア市場)

 

世界の旅行者の「旅行の目的になるもの」は?

海外旅行の主な目的を聞いたところ、「ガストロノミー・美食」や「アートの鑑賞(美術館巡り等)」、「庭園、花鑑賞」などは、東アジア・東南アジア、欧米豪・インド・中東のいずれの地域においても人気が高いことがわかりました。

それらに加えて、東アジアや東南アジア地域では「テーマパーク」や「ラグジュアリーなファッションブランド等でのショッピング」が、欧米豪・インド・中東地域では「建築」や「ラグジュアリーホテル」が海外旅行の主な目的の上位に入りました。

日本の各地域の観光コンテンツの情報を発信していく際には、このような旅行者の興味・関心も踏まえ、ニーズがありそうなエリアに向けて伝えていくことも重要であると考えられます。こうしたエリアごとの関心の変化につきましても、地域で誘客に取り組む市場や発信する観光コンテンツの検討材料の1つとして参考にしていただければ幸いです。

 

世界22市場での定量調査でみる、訪日旅行への意識・傾向・市場規模

海外旅行の主な目的となるもの(エリア別)

 

日本は海外の旅行者にどのようにみられている?

旅行者が実際に訪日旅行をするまでには、日本を旅行先として認知し、続いて日本の観光コンテンツなどに興味・関心を抱き、さらに他の旅行先と比較しながら検討し、航空券やホテルなどを予約する、というプロセスを経ることが想定されます。この検討・行動の段階分けしたモデルは、下図のように、無認知の段階から予約の段階に向けて徐々に狭くなっていく漏斗(ファネル)のような形で表すことができ、JNTOではこれを「訪日ファネル」と呼んでいます。

今回の調査では、各市場における訪日ファネルについても分析を行いました。なお、今回の調査は新型コロナウイルス感染症水際対策の強化により観光目的の新規入国が認められていない2021年3~6月に実施したため、予約購入段階は除外して分析しました。結果をみると、データからも、市場によって旅行先としての日本の認知・検討状況が異なるため、各市場の海外旅行旅行者の訪日ファネルの段階に応じたプロモーションを行うことが必要であることが分かります。

 

世界22市場での定量調査でみる、訪日旅行への意識・傾向・市場規模

海外旅行実施者の訪日までの検討状況・行動の各段階を示す「訪日ファネル」

 

東アジア・東南アジア地域では、ほとんどの国・地域の海外旅行実施者が日本を旅行先として認知しており、認知していない人は全体の3割以下。旅行先として認知している多くの人が日本の観光地やアクティビティについて単に認知しているだけでなく、興味関心を持って情報を得ているということも明らかになりました。これらの地域においては、こうした訪日旅行へ興味関心を抱いている層から具体的な比較検討の段階へ、更には比較検討から将来の予約購入まで繋げていくための取組が、訪日旅行者数の更なる拡大に向けた有効な手段の一つになるものと考えられます。

 

世界22市場での定量調査でみる、訪日旅行への意識・傾向・市場規模

訪日ファネル(東アジア・東南アジア市場)

 

欧米豪・インド・中東地域においては、訪日経験者が比較的多い米国と豪州では、6割以上の海外旅行実施者が日本に興味・関心を抱いているものの、欧州ではまだ日本を旅行先として認知していない割合が高い市場も見られました。特に英国、ドイツ、中東地域はこうした無認知の層が半数以上を占めています。これらの市場においては、まず日本を旅行先として認知してもらうための施策が必要であることがうかがえます。

インドは海外旅行実施者の訪日旅行未経験率が9割以上であるものの、比較検討段階の旅行者の割合が欧米豪・インド・中東地域の中では比較的高いことも判明しました。インドは海外旅行実施者数も推計2,500万人と多い市場であり、旅行会社への訪日旅行商品造成の促進や一般消費者へ向けたSNS等による情報発信等のプロモーションによりこの層を予約段階に促すことができれば、大きな需要を取り込める可能性が見てとれます。

豪州、米国、メキシコ、スペインなども、興味関心を持っている、あるいは比較検討を行っている段階の旅行者の割合が高いことから、訪日旅行への関心を維持させつつ、比較検討以降の割合をさらに高めて実際の訪日旅行まで繋げることが重要であることが分かります。

 

(後編に続きます)