HOME JNTOの事業・サービス 地域インバウンド促進 インバウンドノウハウ

オーダーメイドの旅で、顧客満足度を最大化する(後編)

オーダーメイドの旅で、顧客満足度を最大化する(後編)

北海道宝島旅行社は2007年から、アクティビティ予約サイトの運営やオーダーメイドの旅行サービスを手がけてきました。そして、この間に培った、北海道各地にあるアクティビティや農業・漁業体験といったコンテンツ資源の発掘や体験ガイドとのネットワークが、アドベンチャーツーリズム(AT)の旅行サービスにつながっています。地域資源を発掘・活用し、体験型観光に生かしていくためには何が必要なのか? 同社の代表取締役社長・鈴木宏一郎さんにお話を伺いました。

(前編はこちらから)

 

地域住民の役割は「おもてなし」ではなく「おすそ分け」

―ツアーを構成する個々のアクティビティはどのようにして造成していくのでしょうか?

これには、創業当初からやっている「観光地域づくり事業部」の地域コンサルティングの蓄積が役立っています。最初は、北海道の市町村役場を訪ねて「弊社のサイトに掲載する体験プログラムを作りませんか?」と聞いてまわっていたのです。ガイドの方々や、農業・漁業体験に意欲的に取り組む生産者の方々の多くは、この頃に知り合いました。

地域コンサルティングの仕事では、市町村からお金をいただいて企画を造り込んでいきます。例えばもち米の産地であれば、「農家さんと一緒に餅つきをして、おいしい餅を食べよう」という企画の骨子ができます。とはいえ通常、もち米の多くは市場に出荷されますから、地元でお餅を食べさせる機会は実はあまりなかったりする。そこからさらに企画を詰めて、最終的には「一緒に餅つきをして、仏壇や神棚のある居間に上がらせてもらって、農家の人たちの普段の暮らしについての話を聞きながら一緒にお餅を食べてお茶を飲み、最後はおみやげまでもらえる」といったところまでアクティビティとして形づくることができれば、それは素敵な体験となりますし、感動も生まれます。

現在でも、弊社の「観光地域づくり事業部」のスタッフが、道内各地の体験ガイドや生産者の方々と連携しながらさまざまな商品の造り込みを行っています。各地域の体験ガイドや生産者の方々としても、ただ1組のカップルやご家族のために、他の人には真似できないスペシャルなアクティビティを生み出して提供し、その価値に見合った報酬を得られるということは、仕事のやりがいや生きがいにもつながっていると思います。

 

オーダーメイドの旅で、顧客満足度を最大化する

アクティビティの一例

 

―地域の方々と協力関係を築くうえで、気をつけていることはありますか?

「おもてなし」と「おすそわけ」の役割を混同しないことです。私たちの役割は、たとえば職人さんの仕事場を訪ねるプログラムであれば、お客様を現地にお連れして、「職人さんがどんなこだわりをもって仕事をされているのか」等をご説明しながら「こんな点に注意して見てみると興味深いですよ」と説明していくことです。これが私たちからお客様に提供するいわゆる「おもてなし」です。

一方、地域住民の方々にお客様に提供していただくものは、いつものように仕事をする姿を見せ、一緒にご飯を食べて、お酒を飲んで......という、普段の生活の一部分です。つまりこれは「おすそわけ」です。お客様は、その本物に感動して満足感を得ます。特に外国のお客様は「Wao!」と感動して、別れ際にハグしたりということもあります。地域住民の方々はそんな姿を見て、また来てほしいなと思うのです。ここを混同して、地域住民の方々に過剰な負担がかかる「お客様へのおもてなし」を求めてしまうと、長続きはしませんね。

 

プロモーションの狙いは「リピート率向上」

―造成した商品のプロモーションは、どのように行っているのでしょうか?

プロモーションを行うにあたって、私たちは「旅とはこういうものだ」という基本的な価値観が合わない人にまで横に広げていくよりは、価値観を共有できるお客様との関係を深めていくという姿勢を大切にしています。新規のお客様を集めるためには、10倍のマーケティング費用が必要になる。だから私たちは徹底的に「リピート率向上」を目指してプロモーションを行っています。

B to Cのプロモーションは、自社ウェブサイトがメインです。自社サイトのSEO、SEMを、ターゲット国であるシンガポール、マレーシア等に合わせて常にチューニングしています。ウェブサイトを充実させることと同時に、この12~13年の間に来てくださったお客様のリピート率をより向上したいと考えています。

B to Bでは、商談会等に参加して、例えば海外のバードウォッチング専門の旅行会社とつながりをつくり、当社が造成したバードウォッチング商品を売ってもらいます。特に欧米の富裕層のお客様はB to Bのスタイルがメイン。少しずつ信頼を蓄積して良いタッグが組めるようになってきました。

また、世界中から良質なお客様を迎えているDMCは、東京に何社もあります。そういった方々に、地域のコンテンツを売ってもらうこともあります。例えば、ヨーロッパから4週間の予定で来日するお客様がいるとしたら、「そのうちの4泊5日、北海道でのこんなコンテンツはいかがですか?」 と薦めてもらう。つまり、「組み込みやすいパーツとしてのコンテンツ」をきちんと作って、それを売ってもらうのです。今後はこんな販売方法も増えてくるのではないでしょうか。

 

地域の価値を高め、商品化できるのは「地域の人」だけ

―いよいよインバウンドが再開されましたが、御社の今後の展望について教えてください。

今後も、旅行客の数を追うのではなく、旅の質を高めることを追い求めていきたいですね。「お客様の、夢の実現レベルを高める」ことに注力すれば、お客様満足度は高まりますし、高価格な商品も販売できて、従業員も幸せにできる。私たちが目指すのは、そんな「北海道でとびきりのDMC」になることです。これは、私自身が30年以上北海道に住んでいて、私と同じように北海道が大好きなスタッフが集まっているからこそできることだと思います。

私たちと同じように、地域で頑張っている会社は各地にあります。地域のワンストップ窓口として、「地域の価値を最も高めることができるDMC」が全国各地にあれば、日本の観光の価値をもっと高められると思います。

現在は、ATの文脈で、横の連携を構築したいと考えています。例えば四国には四国ツアーズさんという会社があるのですが、四国ツアーズがお客様から「しまなみ街道1週間のサイクリング」を受託したら、北海道でプラス1週間、合計2週間のサイクリングツアーをお客様に提案して、北海道パートは当社が担当する。もちろんその逆もあるわけですが、こうした連携ができれば、日本でATをとことん楽しみたいというお客様に、さらなる満足感を提供できると考えています。

2023年9月に北海道でのATWS(アドベンチャートラベル・ワールドサミット)開催が決まったことがきっかけとなって、全国各地の会社との連携が動き始めています。2023年にはATWSが開催され、2025年には大阪・関西万博も開催されます。世界中の人が日本に注目し、日本を訪れるタイミングですから、ダブルジャンプアップのチャンスです。このタイミングで、「プロモーションして知名度は上がったけど、肝心の商品が揃っていない」では意味がありません。本気で、準備を急がなくてはいけないと思います。

―最後に、地域資源を活用してインバウンド誘客につなげたい全国の自治体、DMOの方々にメッセージをお願いします。

地域の価値を商品にできるのは「地域の人」だけです。私が最近、講演会などでお話していることは、「地域の、地域による、地域のための観光」を実現するための各地域の体制整備の必要性です。コロナ禍を契機に旅行業界はパラダイムチェンジの時期を迎えています。弊社の培ってきたノウハウやシステム等の知見を喜んで提供させていただきます。コロナ前の「とにかくたくさんのお客さんに来てほしい」という観光に戻ってしまうことがないように、みんなで生まれ変わりましょう!

(前編はこちらから)