2020年6月18日
インバウンドのデジタルマーケティング施策をまとめてご紹介(前編)
インバウンド施策においてデジタルマーケティングを活用する場面が増える中で、Webサイトの事業者選定や制作のポイント、SNSの運用やリスクマネジメント、さらに各施策における分析や改善など、担当者に期待される範囲も広がっているのではないでしょうか。こちらの記事では、デジタルマーケティング全体を把握できるように、地域インバウンド促進サイトに掲載の記事や、JNTOの訪日プロモーションで培ってきたノウハウや知見をまとめたガイドラインを基に再編集しました。前編はWebサイトを、後編はSNSを中心にご紹介しています。皆様の地域の情報発信へ、ぜひご活用ください。
※「インバウンドのデジタルマーケティング施策をまとめてご紹介(後編) 」では、SNSを中心にご紹介しています。
JNTOが実践する、インバウンドにおけるデジタルマーケティングとは?
JNTOのデジタル戦略を統括するデジタルマーケティングセンター
観光業界を取り巻くテクノロジーやサービスの発展、スマートフォンの利用増加、個人旅行者の増加などに伴い、インバウンドにおけるデジタルマーケティングの重要性が増しています。こうした背景から2017年10月に設立したのが、JNTO企画総室のデジタルマーケティング室(以下、DM室)です。そして2020年4月、デジタルマーケティングのさらなる強化を目指し、DM室はデジタルマーケティングセンター(以下、DMC)となりました。
DMCでは、JNTOが運営するWebサイトやSNS、アプリなどの各種オウンドメディア(*1)での情報発信や、オウンドメディアで収集したデータの分析・活用などを実施。日々のさまざまな取り組みを通じて、デジタルマーケティングに関する知見と手法を蓄積しています。
*1:企業や組織自らが所有する媒体のこと。
カスタマージャーニーマップでマーケティングの全体戦略を立てる
JNTOでは、「カスタマージャーニーマップ」を使用して全体のマーケティング戦略を立てています。「カスタマージャーニーマップ」とは、ユーザー(=訪日外国人旅行者の行動)に合わせて、いつ、どのような情報を、どのメディアを利用して訴求していくかを可視化したものです。この場合、ユーザーは①認知喚起、②興味・関心、③比較・検討、④予約・訪日、⑤帰国・再来日の5段階に分類しています。
PDCAを回してデジタル戦略の質を高める
「カスタマージャーニーマップ」を活用した戦略に基づき、さまざまな施策を実施した後には、必ず振り返りを行います。たとえばDMCでは毎月、オウンドメディアの人気記事や投稿を共有する「コンテンツ発表会」を実施。当該月に人気の高かったFacebookの投稿文や画像を共有してWebサイトコンテンツ制作に活かしています。このように、得られた知見やデータを次の戦略で活かすPDCA(*2)をしっかりと回していくことが大切です。
*2:Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)→Act(改善)の4段階を繰り返し、継続的に業務改善に取り組むこと。
デジタルこそ、オンラインとオフラインの融合が重要
DMCが力を入れていることのひとつが、蓄積してきたデジタルマーケティングに関する知見やノウハウを地域の皆様に提供することです。各種ガイドライン(Webサイト 、Facebook 、Instagram )の公開や、当地域インバウンド促進サイトでの情報発信などオンラインでの共有はもちろんですが、地域の皆様と対面で情報交換を行う機会もこれまで以上に増やしています。
デジタルマーケティングについて、悩みを抱えている地域の担当者はとても多く、中にはひとりでWebサイト制作やSNS運用を担当している方もいます。実はJNTO自身も当初は同じ悩みを持っていました。地域の皆様と直接お会いして話をすることで、同じ悩みを共有し、一緒に解決する機会を作っていきたいと考えています。
【Webサイト】企画や事業者選定はどうする?
JNTOが考えるWebサイトにおける3つの役割
次に、JNTOのグローバルWebサイト を例に、どのように運用しているか見てみましょう。JNTOではグローバルWebサイトを「カスタマージャーニーマップ」の②興味・関心、③比較・検討、④予約・訪日におけるメディアとして位置づけています。そのうえで、本Webサイトの役割には3つのポイントがあると考えています。
1つめが「検索結果の受け皿」です。ユーザーは検索エンジンやSNSなどから、なにかしらの検索を行い、Webサイトに訪れます。その際、ユーザーをしっかりと捉える「受け皿」として、正しい情報を提供することが大切です。
2つめが「信頼感・安心感の提供」です。"公式"のWebサイトであり、信頼できる情報の提供を通して「このWebサイトにいけば正確な情報を得られる」という安心感をユーザーへ与えることができます。
3つめが「情報発信コントロール」です。たとえばお祭りやイベントなど、自分たちが公開したい情報を適切なタイミングで示すことで「このWebサイトには、正確で旬な情報が掲載されている」という認識をユーザーへ与えることができます。
ターゲットやコンセプト、方針など。Webサイトの企画を立てる
Webサイト制作に際して最初に決めるのは、対象とするターゲットやWebサイトのコンセプト、訪問の決め手となる観光資源(キラーコンテンツ)です。グローバルWebサイト の場合、下記の3点を定めて企画・制作の柱としました。
(実際の企画競争説明書より抜粋)
・欧米豪市場を念頭に置きつつ、全世界向けに発信するための英語サイトと位置づける。・新サイトにおけるコンテンツは、日本旅行の基本的な情報を網羅したうえで、季節や最新のトレンドに対応しつつ、全国各地への訪日需要を喚起する内容とする。
・サイトコンテンツの制作にあたっては、英語を母国語とし、且つ、ウェブサイト等でのライティング経験を有するネイティブライターが作成するものとする。また、使用する画像においては、外国人目線を活用しより訪日需要喚起を促すものを使用するものとする。
また、サイトコンテンツの方針を決めることも重要です。日本語原稿の翻訳ではネイティブにとって不自然に感じるため、グローバルWebサイト の場合には下記の提案を事業者に求めました。
(実際の企画競争説明書より抜粋)
・サイトコンテンツの制作にあたっては、英語を母国語とし、且つ、ウェブサイト等でのライティング経験を有するネイティブライターが作成するとともに、使用する画像においては、外国人目線を活用し、より訪日需要喚起を促すものを使用するものとする。
そして、ユーザー第一の開発設計も決める必要があります。グローバルWebサイト の場合、事業者に対して「スマートフォンから使いやすいWebサイト」や、「SEO対策やSEO方針」といった具体項目の提案を求めました。
Webサイト制作における事業者選定のポイント
Webサイト制作の柱となる方針を決定することはもちろん重要ですが、事業者にどんな項目で提案を求め、それをどう評価するかも大切なポイントです。グローバルWebサイト の場合には下記を求めました。
高い英語品質 → サンプル英語を提出させ、その英語品質をチェック
英語を母国語とする編集責任者と編集体制 → 体制図をチェック
使用する画像に対する考え方 → サンプル画像から、品質をチェック
ウェブサイト分析能力 →サイト分析から、着眼点や課題発見力をチェック
開発の進め方に対する考え方 → 大規模改修だが初期公開を急ぎたかったため、どんな開発手法を取るかをチェック
さらに詳しくは、下記のガイドラインや記事をご参考ください。
外国人旅行者を魅了するウェブサイトの作り方(英語実例集) :ターゲットやコンセプト、方針など、Webサイトの企画 P.05~P.08/Webサイト制作における事業者選定 P.15~P.17
【Webサイト】ライティングや画像選定など、制作のポイントは?
ネイティブ視点のライティング(編集)と画像の選定が不可欠
日本人にとって知名度のある観光地と、外国人にとって行ってみたい観光地は、異なる場合が多くあります。文化や慣習の違いが背景にあるため、外国人旅行者の視点=ネイティブの視点をライティング(編集)や画像選定に盛り込むことがとても大切だと考えています。
ライティングのポイントは「だからなに?(So What?)」
日本人が日本人のために書いた日本語の文章を翻訳するのではなく、その情報を基に、外国人に伝わる文章をネイティブが執筆します。その際、日本人の意図や狙いをしっかり伝え、認識の違いが起きないようにすることも重要です。
また、外国人の視点に立って「誰に・なにを・どう伝えるか」を考えるだからなに?(So What?)テストも効果的です。自問することで、本当に有益な情報なのか、独りよがりの発信になっていないかなどを確認し、必要に応じて修正していきます。
画像選定は日本人の常識的な感覚を一度忘れる
グローバルWebサイト では、収集したすべての画像素材をネイティブ監修者が1点1点チェックを行い、OKが出た画像を反映しました。これは、日本人のコンテンツ編集者やディレクター、デザイナーでは気づきにくい、ネイティブならではの視点をキーイメージの選定に役立てるためです。日本人の「常識的な感覚」を一度忘れて「これを日本についてまったく知らない外国人が見たらどう思うだろう」という視点を持つことが大切だと考えます。
下記に、「望ましい画像」と「避けるべき画像」の一例(ガイドラインより抜粋)を記載しました。ガイドラインも併せてぜひご覧ください。
望ましい画像の一例(「外国人旅行者を魅了するウェブサイトの作り方(英語実例集) 」より抜粋)(*3)
避けるべき画像の一例(「外国人旅行者を魅了するウェブサイトの作り方(英語実例集) 」より抜粋)(*3)
*3:画像の著作権は全てJNTOに帰属します。
さらに詳しくは、下記のガイドラインをご参考ください。
外国人旅行者を魅了するウェブサイトの作り方(英語実例集) :ライティング・画像 P.09~P.11、P.18/ライティング P.19~P.20/画像 P.21~P.29
【Webサイト】分析や改善など、運用方法は?
Webサイトは作って終わりではない
Webサイトは公開後、定期的にユーザーに訪問してもらうために情報の更新や機能の改善が欠かせません。コンテンツが多ければ多いほど、スペルミスやリンク切れなどちょっとしたミスも潜んでいます。更新の具体的なスケジュールを決めるなど、定期的なチェックが大切です。
グローバルWebサイト でも、書き方をわかりやすく工夫したり、機能メニューを追加したり、ユーザーの意見を反映したり。外国人旅行者にとってより最適な情報が提供できるよう、試行錯誤しながら改善を続けています。
アクセス状況を分析して改善につなぐ
「Webサイトがどの国の人によく見られているか」、「人気のページはどれか」、「Webサイトを訪れた人はどのくらいの時間、特定ページを見ているか」など、Webサイトに関するアクセス状況は、ツールを使って簡単に計測・分析できます。
アクセス状況の把握で明確になるのが、強化する点や改善すべきポイントです。そのため、事業者に分析を一任するだけではなく、担当者も積極的に活用することをおすすめします。
4つの数値を改善したJNTOの施策
グローバルWebサイト では2018年2月のリニューアルの際、「訪日外国人旅行者の視点で画像を選択」、「ネイティブライターによる記事執筆」、「スマートフォンでの利便性向上」などの施策を実施しました。
急増するスマートフォンからのアクセスへの対応を適切に行った結果、ユーザーが1回あたりのWebサイト訪問で複数のページを回遊し、かつ1つのページでは長い時間に渡ってコンテンツがじっくりと見られているという成果を得ることができました。これは、情報発信する私たちの視点から見れば、ユーザーが求めている情報やコンテンツをきちんと掲載している結果と見ることができます。
また、検索キーワードを可視化することで、「×××なコンテンツを発信すればユーザーニーズに合致する」という仮説を立てて、検証していくことができます。たとえば、秋に楽しめる情報をまとめる場合、新たに記事を制作する際は頻出検索キーワードのひとつ「japan in september」を盛り込んでみたり、既存記事を更新する際は「japan in september」を追記したりするなど、検索キーワードを使ったコンテンツづくりは基本的なSEO対策のひとつです。
さらに詳しくは、下記のガイドラインや記事をご参考ください。
外国人旅行者を魅了するウェブサイトの作り方(英語実例集) :分析や改善など、運用方法 P.31~P.35
下記の「インバウンドのデジタルマーケティング施策をまとめてご紹介(後編) 」では、SNSを中心にご紹介しています。