2025年2月21日
受け入れ地域、旅行者、観光事業者との架け橋:サステナブル・ツーリズムの招請事業を通じた未来の観光のカタチとは

日本政府観光局(JNTO)は、サステナブル・ツーリズム(持続可能な観光)に関するプロモーション事業を実施しています。今回は、2024年7月~11月にかけて、サステナブル・ツーリズムに積極的な欧米・アジアの旅行会社を招請した際に得られた示唆、受け入れ地域と招請ツアー参加者の声などをご紹介します。
サステナブル・ツーリズムに積極的な海外の旅行会社を招請
JNTOは、サステナブル・ツーリズムの推進に向け、「環境」「文化」「経済」を守る・育むという方針を掲げ、受け入れ地域、旅行者、観光事業者が「三方良し」となることが重要であると考えています。
今年度は、初めての試みとして「サステナブル・ツーリズム」をテーマとした旅行会社の招請事業を実施。先進的な取り組みを行う欧州諸国をはじめ、旅行に求める要素としてサステナビリティへの関心が高まっている北米・東南アジアの旅行会社の商品造成担当者が日本各地を訪問しました。コンテンツの選定にあたっては、サステナビリティへの取り組みを積極的に行っている宿泊施設・地産地消を掲げる飲食店の利用を意識するとともに、自然保護活動や伝統的な建造物・文化の保全活動に取り組む観光スポットを訪問先に含めました。
本記事では、トロント事務所・ハノイ事務所が中心となって実施したツアーについて、両コースの概要と滞在中に旅行会社と受入地域との間で行った意見交換から得られたご意見等を紹介し、サステナブル・ツーリズムの可能性をご共有します。
事例1【トロント事務所】カナダ人がイメージする「日本らしさ」がある山陰地方など、まだあまり知られていない素材の数々を紹介
石見銀山・大森の町並みサイクリング
2024年7月に実施した招請ツアーでは、カナダの旅行会社6社が、関西地方と山陰地方を訪問し、京都での金彩工芸体験や世界遺産石見銀山と大森街並み散策といったサステナブル・ツーリズムのテーマに沿ったコンテンツなどを体験しました。
[主な旅程]
DAY1:祇園祭山鉾巡業鑑賞、貴船神社見学、金彩工芸体験
DAY2:世界遺産石見銀山と大森の街並み散策、神楽鑑賞
DAY3:出雲大社見学、木綿街道散策、足立美術館見学
DAY4:元帥酒造見学・試飲体験、三徳山三佛寺・座禅体験、鳥取砂丘見学
DAY5:丹波篠山サイクリングツアー、地元食材を使用した夕食
DAY6:箕面山ハイキング、舞洲ごみ処理場見学、万博開催予定地見学
DAY7:大阪城見学
今回の旅程について、山陰インバウンド機構様から、地域側の視点で、コンテンツの概要及び今回の受け入れを通じた意見等を、お伺いしました。
【受入地域(山陰インバウンド機構様)からのご意見・ご感想等】
- 今回の参加者は、東京しか訪れたことがない方がほとんどで、西日本は初訪問だった。その中でも石見銀山と大森の街並みは強く印象に残ったようだ。特に大森の街並みは、カナダ人がイメージする「日本らしさ」があるということで、ツアーに組み込まれた際には旅行者の満足度が高いことが期待される。
- 食の多様性という観点では、ベジタリアンやビーガンへの対応は、まだまだ課題があると認識しているところ。現在は山陰エリアの飲食店の皆様向けにセミナーを開催し、なるべく負担が少なく取り組みやすい対応方法を紹介するなど、まずは対応が難しいというイメージの払拭から取り組んでいる。今後も段階的に受け入れ体制を整備していきたい。
- 旅行者は、「サステナブル」のみに興味があるわけではなく、コンテンツの持つ価値自体に興味を示しているようにみえた。
- 今後、旅行者、受け入れ地域、事業者がより良い関係性を築いていくには、交流の機会を増やし、相互理解を深めることが重要だと考えている。継続的な関係性を築くことで、地域社会への貢献に繋がる。
また、招請ツアー参加者からは、全体を通して以下のフィードバックをいただきました。
【招請ツアー参加者からのご意見・ご感想】
- 今回のツアーの訪問先の中では、すでにある程度知名度のある観光地はもちろんのこと、まだ観光客が少なく自然が多く残っている訪問地に対する評価がとても高く、お客様にも薦めていきたい。
- 人里離れた場所でもガイドの手配が可能であること、公共交通の便が良いことは重要(電車でのアクセスの充実)。訪日リピーター向けには、大都市での滞在を減らしてでも今回のような新しい体験をしてもらうこと、それを継続していくことが重要である。
- 滞在中の食事に関しては、無駄にすることなく持ち帰りや堆肥化できる仕組みづくりについて検討する必要がある。
事例2【ハノイ事務所】ベトナムで知られていない観光地、文化・自然、農業など持続可能な素材に高い評価
2024年11月に実施した招請ツアーでは、ベトナムから旅行会社5社が、中部地方と関東地方を訪問し、 郡上八幡での郡上踊り体験や白川郷の街並み散策などサステナブル・ツーリズムのテーマに沿ったコンテンツをご案内しました。
[主な旅程]
DAY1: 郡上八幡街並み散策・郡上踊り体験、下呂温泉散策
DAY2: 高山・白川郷の街並み散策、白川村にて受入地域とツアー参加者との意見交換会
DAY3: 廃線を活用したレールマウンテンバイク体験、奈良井宿散策、阿智村にて星空観賞
DAY4: クラフトビールの醸造所見学、鍾乳洞竜ヶ岩洞見学、浜松城公園で呈茶体験
DAY5: 資源リサイクル工場の見学、小江戸川越商店街散策
DAY6: 日光東照宮、ゆば懐石の昼食、簡易金継ぎ体験
本招請ツアーは、自然保護活動や建造物・文化の保全活動に取り組む観光スポットであり、 昔から継承されてきた文化、日本の原風景が残る白川村の自然などを感じられるかという点も重視し、選定しています。白川村にあるトヨタ白川郷自然学校を訪問した際には、自然を活かした登山などのアクティビティも紹介いただきました。
上記で訪れた視察先のうち白川郷観光協会様から、地域側の視点で、紹介したコンテンツの概要及び今回の受け入れを通じた意見等をお伺いしました。
【受入地域(白川郷観光協会様)からのご意見・ご感想等】
- 参加者の多くが、日本らしさを感じられる点に感銘を受けていた様子で、選定の際に重視したポイントを伝えることができた。
- 白川郷の観光素材は、参加者からは概ね好評だった。特に写真を撮ることが好きな人が多く、四季折々の風景に価値があるということがわかった。
- 受け入れ地域、旅行者、観光事業者がより良い関係を築いていくには、「お互いに譲り合う心」を持つことが重要。受け入れ地域の立場からすると、各地域に風習や伝統、ルールがあるので、そのルールを守って観光していただくことを望んでいる。
招請ツアー参加者からは、全体を通して以下のようなフィードバックをいただきました。
【招請ツアー参加者からのご意見・ご感想】
- 文化遺産や自然環境、よく保存された古民家、そして村で行われている農業活動などの持続可能な観光の基準を満たした素晴らしい観光地である。
- 一方で観光客が多いため、古い村の静けさはあまり感じられなかった。
- アウトドアコースや自然体験活動が多数あり、持続可能な観光に非常に合う。
- 日本は、持続可能な観光においてすでに高い実績を上げており、今後はこの取り組みを継続し、より多くの観光客に日本の魅力を伝えることが重要である。
- ベトナム人観光客はまだサステナブル・ツーリズムの概念が定着していないため、個人客に対して全てのプログラムを実施するのは難しいかもしれないが、他の観光地と組み合わせるなど、調整が必要になる。
サステナブル・ツーリズムで興味のある提供価値とは?
本招請ツアー後に実施したアンケートでは、サステナビリティにおける日本の強みを探るため、サステナブル・ツーリズムの10の提供価値(※)のうちどの価値に関心があるかを質問したところ、「自然を楽しむアウトドア・アクティビティ」、「豊かな自然風土に根差した食文化を楽しむ」、「伝統的な地域・文化財に泊まる」の3つのファクターが重要であるということがわかりました。
上記3つの価値については、いずれも日本の豊かな自然や伝統文化に根差したものであり、JNTOが推進するサステナブル・ツーリズムの重要な要素です。
これらの要素から、自然と自然に根ざした文化を体験することが、旅行者の観光への関心と結びついていると考えられます。サステナブルであることが旅行者の目的ではなく、魅力的な観光資源があるからこそ旅をし、そこにサステナブルな要素が組み込まれることが重要です。また、招請ツアー参加者からは、「日本の強みは地元の文化を尊重し、その意識を滞在を通じてより高めていけること」という声も寄せられました。
JNTOとしても、こうした声を踏まえ、個々に存在する地域の多様な魅力を一連のストーリーとして、共感を得られるトーンで発信するとともに、それらを体験していただきたいと考えております。そのための基盤づくりとして、引き続き、受け入れ地域、旅行者、観光事業者が情報共有できる場を提供するなど、「三方良し」の実現を目指してまいります。
JNTOでは今後も、旅行消費額の拡大と国際認証やアワードを取得した地域をはじめとする地方への誘客など、持続可能な観光の促進に向けて、日本各地での研修会や招請事業などを通じ、海外の旅行会社に日本の魅力を発信し続けていきます。
また、海外の旅行会社によるマーケットインの目線でのフィードバックを地域の皆様に還元することで、各地域の受入体制の整備にも貢献し、サステナブル・ツーリズムを推進してまいります。
※10の提供価値(訪日マーケティング戦略より)
訪日マーケティング戦略:
https://www.jnto.go.jp/projects/overseas-promotion/marketing-strategy/
サステナブル・ツーリズムにおける10の提供価値:
https://www.jnto.go.jp/projects/overseas-promotion/marketing-strategy/marketing_strategy_sustainable.pdf
【連絡先】
サステナブル・ツーリズム事務局
sustainable@jnto.go.jp
【参考リンク】
JNTOサステナブル特設ページ
https://www.japan.travel/en/sustainable/