2025年1月22日
JNTO地域セミナー(2024年度)「地域の観光戦略に欠かせないデータ収集と分析・活用ノウハウ」開催レポート

日本政府観光局(JNTO) では、2024年11月7日(木)、自治体・DMOなどの観光関係団体、民間の観光関連事業者の皆様を対象としたオンラインセミナーを開催しました。 今回は、「地域の観光戦略に欠かせないデータ収集と分析・活用ノウハウ」をテーマに、各分野でご活躍されている講師をお招きし講演を行いました。本記事では、セミナーの概要を要約して掲載します。
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JNTO高度専門人材(調査、マーケティング分野)/ (株) JTB総合研究所 フェロー 黒須 宏志 氏(くろす ひろし) 京都大学文学部卒業後、1987年JTB 入社。89年に財団法人日本交通公社に移籍。2013年12月からJTB 総合研究所に出向、主席研究員。15年4月執行役員。19年4月から現職。旅行市場動向のリサーチャーとして講演・寄稿などで活躍。 |
講演「インバウンドマーケット動向分析・オープンデータ活用のいろは」
利用可能なオープンデータのご紹介
地域の観光の現状を知るためにはオープンデータの活用が欠かせません。こちらでは、利用可能なオープンデータを6つご紹介します。
インバウンド消費動向調査,宿泊旅行統計、訪日外客統計、出入国管理統計、国際航空旅客動態調査、FFデータ(訪日外国人流動データ)はHP(下記<オープンデータ>参照)から取得できます。例えば、JNTOが公開している訪日外客統計からは、市場別の訪日客数がわかります。また、国土交通省のFFデータは、公開用データベースと貸出用データベースがあり、貸出用データベースを利用すれば広域周遊パターンの分析なども可能です。
オープンデータ一覧(講演資料抜粋) 提供:黒須宏志様
オープンデータを測定・識別できる最も小さな値は基本的に都道府県単位でしたが、近年、一部のデータについては市町村別のブレイクダウンまで見ることが可能となりました。
例えば、インバウンド消費動向調査は、2024年9月より個票データの一般利用を開始したことで、「訪問地」の回答で絞り込むと、市町村など都道府県より細かい単位での集計が可能になりました。また、宿泊旅行統計は、月別の2次速報値のエクセルデータ上で一部の市区町村について外国人延宿泊者数を公表しています。
FFデータなどはデータベース形式のため、慣れていない方はとっつきにくいと感じるかもしれません。そのため、データを分かりやすく可視化するためのツールを2つご紹介いたします。
まず1つ目は「RESAS」(リーサス)です。もともとRESASは地域の人口や産業など幅広い情報を「見える化」するためのツールとして開発されたものです。インバウンド消費動向調査やFFデータなどのチャートがワンクリックで作成され、初心者でも簡単に分析できるようになっています。
2つ目に、JNTOが運営している「日本の観光統計データサイト」です。4つのデータ(訪日外客統計、インバウンド消費動向調査、宿泊旅行統計、出入国管理統計)が可視化されています。このツールの特徴としては、10年や20年といった長期的なマーケットの変化を簡単にグラフ化することが可能です。
エクセルを活用! データ取り扱いのコツ
エクセルなどの形式で提供されるオープンデータを活用する場合、データを加工して分析するには大変手間がかかります。ミスを避け、分析にかける時間を確保するために、作業のルールや手順をきちんと決めてチーム内で共有するようにしましょう。日頃、私が意識しているポイントは以下の5つです。
1. ダウンロード&保存
ダウンロードしたオリジナルのファイルはそのまま残す。チームで共有できるフォルダなどに格納するのが良い。
2. 必要なデータをシートごと抜き出す
オリジナルのファイルから使用するデータをシート単位でコピーして作業用のエクセルファイルに貼り付ける。
3. 新しいシートを追加して分析シートとして使用
作業用のエクセルファイルに新しいシートを追加して分析用に使う。オリジナルファイルからコピーしたデータシート自体には手を加えない。
4. 分析対象となるデータを分析シートに抜き出す
分析対象となるデータをオリジナルファイルからコピーしたデータシートから関数などを使って分析用シートに抜き出す。
5. 図表作成・分析
分析用シート上で図表を作成するなどして分析を行う。異なる分析を行う場合は作成した分析シートをコピーして使えばオリジナルデータから抜き出したデータ表をそのまま使える。
※この手順は集計表形式で提供されているデータを扱う場合をイメージしています。
データ分析のヒント
本来、オープンデータの使い方は、そこから市町村別のデータを見出すことではなく、日本全体や広域の状況などのマクロの情報を知ることが目的です。地域が収集した情報やデータと比較することで、オープンデータの本当の価値を引き出しましょう。
また、分析のヒントとして、絶対値より比率(構成比や変化率)に注目すること、過去や周辺地域などとの比較をすることでデータの持つ意味を引き出すことが重要です。
講演資料抜粋 提供:黒須宏志様
<オープンデータ>
インバウンド消費動向調査
https://www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/gaikokujinshohidoko.html
宿泊旅行統計https://www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/shukuhakutokei.html
訪日外客統計https://www.jnto.go.jp/statistics/data/visitors-statistics/
出入国管理統計https://www.moj.go.jp/isa/policies/statistics/toukei_ichiran_nyukan.html
国際航空旅客動態調査https://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk6_000001.html
FFデータhttps://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/soukou/sogoseisaku_soukou_fr_000022.html
事例紹介「官民連携を活かした気仙沼的情報取集・分析手法」
(一社)気仙沼地域戦略 インバウンドリーダー 髙橋 和輝氏
データ収集の経緯:
気仙沼は、東日本大震災を契機に、水産業と観光業の両軸を目指し、観光戦略を立て、地域振興に取り組むことになりました。戦略的に取り組むため、スイスのツェルマットの稼ぐ地域経営の仕組みを参考に、データ収集を行っています
収集・分析・活用:
国内向けに収集しているデータとして、マネジメントデータベースと顧客データベースの2つのデータを収集しています。マネジメントデータベースでは、宿泊者を対象にしているアンケートやその他のアンケートから、宿泊者の属性、消費額、満足度、リピーター率などを、気仙沼クルーカード(※)からは、顧客の属性やどのようなイベントに参加しているかなどのデータを収集しています。
講演資料抜粋 提供:気仙沼地域戦略
また、インバウンドのデータ収集に関して、気仙沼内のインバウンドデータがまだまだ不足していますが、工夫しながら収集しています。JNTOや東北観光推進機構のオープンデータから広域のデータを確認し、その後に、宿泊者のデータや滞在目的、認知度など各種アンケートから収集した気仙沼のローカルデータと比較し活用しています。
収集したデータをもとに、官民一体で共有・分析(毎月定例会)し、共通認識を持って、観光戦略の方向性やKPIなどの施策(マーケティング)につなげていることが気仙沼の強みとなります。
講演資料抜粋 提供:気仙沼地域戦略
今後の展望:
ターゲットの趣味嗜好に合わせたマーケティングを行うトライブマーケティングに取り組んでいます。徐々に人気が出始めている気仙沼のキャラクター「海の子ホヤぼーや」を活用して、ホヤぼーやのファンに継続して気仙沼にきてもらう仕組みづくりに取り組んでいきます。
※気仙沼クルーカード
気仙沼クルーカードは、「気仙沼の未来をつくる市民証」として気仙沼観光推進機構が発行。ポイントカードの仕組みを利用し、加盟店で提示すると100円の買い物で1ポイントがもらえ、貯まったポイントは1ポイント1円として利用可能。
事例紹介「データ活用で実現する持続可能な観光地経営」
(一社)豊岡観光イノベーション 観光DXリーダー 一幡 堅司氏
データ収集の経緯:
城崎温泉は「街全体を1軒の旅館」だと捉えて事業展開をしていますが、これまではエリアの宿泊データをリアルタイムで把握しておらず、施策の効果測定は、数か月後に出てくる情報と照らし合わせていました。
街全体の観光産業の発展にあたり有効な施策実施のためには、データ収集が必要だという若手経営者の声もあり、地域の観光事業者に、地域が目指す姿やデータの必要性について共有することで共通認識を持ち、目指す方向性を合わせていきました。豊岡観光DX推進事業とは、デジタルを使うことで観光産業の発展につながる事業だと私たちは考えています。
講演資料抜粋 提供:豊岡観光イノベーション
収集・分析・活用:
データ共有にあたり、豊岡観光DX推進協議会という協議体を立ち上げ事業を運用しています。豊岡観光DX事業では、賛同した宿泊施設が持っているPMS(プロパティ・マネジメント・システム)から入力した、宿泊日や金額、人数等のデータを収集し、ダッシュボードで可視化しています。事業者から会費を集めてシステムを維持していることから、使いやすいダッシュボードやレポート作成を目指して日々改善を行っています。こうしたダッシュボードから分かる過去の実績・需要予測や地域のイベント情報は、毎月レポートにして配信したり、レポートの解説会を毎月開催し、事業者に還元しています。
これらを活用することで、個別の事業者は、仕入れの調整や経営改善に役立てています。DMO側としては、エリア全体の分析等を行うことができます。
講演資料抜粋 提供:豊岡観光イノベーション
今後の展望:
豊岡市のファンを増やしていくために、旅マエ・旅ナカ・旅アトの全てでお客様との接点を作り、リピーターの増加に向けた取り組みを行っています。現在は、国内向けがメインのため、この仕組みをインバウンドにも活用していきたいと考えています。
パネルディスカッション&質疑応答
パネルディスカッション及び質疑応答は、以下のとおり実施いたしました。
登壇者:
一般社団法人気仙沼地域戦略 専務理事・事務局長 小松 志大 氏
一般社団法人豊岡観光イノベーション 観光DXリーダー 一幡 堅司 氏
モデレーター:
株式会社やまとごころ 代表取締役 村山 慶輔 氏
こちらでは、パネルディスカッションの主な内容をお伝えいたします。
<質問1:データ収集の位置づけ>
どのようなデータを集めたら良いのか分からないという声がよくあるが、データ収集の位置づけについて教えてほしい。
一幡氏:目的を達成するための手段としてデータ収集があると考えている。地域全体の宿泊者数増加、満足度向上、売り上げアップという目的があり、その目標を達成するために事業者の方にとって役立つデータは何かを考え、収集している。
小松氏:ローカルデータを集め、自地域の状況を初めに知ることが重要だと思う。自地域を分析するうえで自分がまず何を知りたいのか、知りたい情報はどこにあるのかを探し、その参考として他地域のデータと比較することが良いと考えている。
<質問2:データ活用の機運醸成>
地域のデータ活用の意識の醸成等を課題として感じている方も多いと思うが、どのように地域を巻き込み、活用の機運を醸成したのか伺いたい。
一幡氏:無理に協力はお願いせずに、賛同いただける方にデータを提供いただいている。地域の横のつながりも強いため、データ活用の良い点を横で共有いただき、徐々に地域に広めていきながら進めている。
小松氏:データを提供いただいた方に丁寧にレポートやコメント等でフィードバックすること、いただいたデータを戦略や事業に活かしていくことが大事だと思う。そうすることで、徐々に賛同していただく方を増やしていく。
<質問3:データ分析の取り組み>
データを継続的に収集する上でのアドバイスをいただきたい。
一幡氏:知識をつけたり、オープンデータを見たりするだけではなく、自地域の情報や背景を知ることが重要。地域の皆さまの意見や現状を把握することで、より生きたデータ分析ができるのではないかと思っている。
小松氏:はじめは成果が出ないなど、躓くこともあるかもしれないが、現状把握をするためにデータ収集を継続し続けることで、変化を見ることができるようになる。また、データ分析を目的にしないことも重要で、地域が稼ぐための手段としてのデータ分析だと考えている。
本セミナーの最後には、村山氏がパネルディスカッションのポイントを以下のようにまとめ、締めくくりました。
・データ収集は目的とはせず、事業者が稼ぐための地域戦略を立てる手段として活用することが大事。
・収集したデータは、DMO・地域が連携して情報共有することが大切。
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今後ともJNTOでは、皆様に役立つ情報発信等に取り組んで参ります。
参考リンク
(一社) 気仙沼地域戦略 (http://k-ships.com)
(一社) 豊岡観光イノベーション(https://corp.toyooka-tourism.com/)