HOME JNTOの事業・サービス 地域インバウンド促進 地域の取り組み事例

広域連携で取り組むアドベンチャートラベル─2度のAdventureWEEKからみえてきたこれからの日本におけるATの在り方

広域連携で取り組むアドベンチャートラベル─2度のAdventureWEEKからみえてきたこれからの日本におけるATの在り方

広域連携で取り組むアドベンチャートラベル─2度のAdventureWEEKからみえてきたこれからの日本におけるATの在り方

©ATTA / Matt Corliss AdventureWEEK Tohoku 2025

日本政府観光局(JNTO)はAdventure Travel Trade Association(ATTA)*および東北観光推進機構と連携して、2025年9月15日から22日まで「AdventureWEEK2025 東北」を開催しました。東北6県の広域連携によるATをテーマとした今回の取り組みについて、広域連携DMOの一般社団法人東北観光推進機構の安西良太さんとJNTO市場横断プロモーション部高付加価値旅行推進室の谷口稜子さんにお話を伺いました。
*ATTA:約100ヵ国、30,000の会員(メディア、ツアーオペレーター、アウトドアメーカー、政府観光局、観光協会、DMOなど)を持つAT業界最大級の団体

ATWS2023北海道やAdventureWEEK 2024沖縄、日本のATを世界に発信

ーはじめに、JNTOのATに関する取り組みについて教えてください。 

谷口さん(以下、敬称略):JNTOでは「アクティビティ」「自然体験」「文化体験」のうち2つ以上で構成される旅行であるアドベンチャートラベル(AT)のプロモーションを通じて、日本ならではのATの魅力を海外に向けて訴求しています。 具体的には、世界最大級の業界団体であるATTAが主催するアドベンチャー・トラベル・ワールド・サミット(通称:ATWS、ATTAが開催する最大のイベント)をはじめとする国内外で開催される様々なイベントへ継続的に参加し、世界のAT関係者とのネットワークを強化しています。 また、国内での主だった動きとしては、北海道でATWSが開催された翌2024年にはAdventureWEEK 2024沖縄を開催し、欧米の15名のバイヤー・メディアの方々を対象にファムトリップ・商談会を行いました。この他にも市場別のファムトリップ(視察旅行)の実施や、JNTO独自で国内関係者のネットワークづくりや人材育成に関する研修等を行っています。

ーAdventureWEEK 2024沖縄では、どのような成果や課題が見えてきましたか。

谷口:沖縄のファムトリップでは、琉球薬膳の料理体験や地元で「ユタ」と呼ばれるシャーマンの方とのやんばるの御嶽訪問など、一般的なリゾート旅行商品の枠を超えた、沖縄の文化・風土がより強く実感できるAT体験が非常に高く評価されました。 

Adventure_Week_2025_02.jpg

▲AdventureWEEK 2024沖縄での琉球薬膳体験 ©ATTA / Josiah Holwick - AdventureWeek Okinawa 2024

一方で、ファムトリップ前日に沖縄エリアが記録的な大雨に覆われるという不測の事態もありました。予定していた屋外アクティビティが中止になっただけでなく、屋内アクティビティの会場にも移動できなかったなどの経験を通じて、様々な場面を想定した代案の必要性を実感しました。 

他にも、日本の大規模リゾートホテルは海外の「オールインクルーシブ」ホテルと同じシステムだと思われ、ドリンク代やプール・大浴場・ジム利用料等が別途かかると、利用者は困惑してしまうという声を真摯に受け止め、いくつかのサービスを宿泊料金に含めることを検討するホテルも出てきました。 

また、とりわけ大きな気づきとしてAT層の来日目的は沖縄の一カ所にとどまらず、例えば「沖縄ならではのユタとの貴重な時間を過ごした後は、長野県で有名なスノーモンキーを見たい」などの多岐にわたっており、広域なデスティネーションを念頭に置いたプランづくりの必要性が見えてきました。 

このことを踏まえて、2025年9月に開催されたAdventureWEEK2025東北では広域連携をテーマとし、(一社)東北観光推進機構を中心とする東北AT関係者の皆さまと共に東北6県を巡るファムトリップに取り組みました。

トレイルを軸に東北6県を巡るコースプラン 

ー次に、東北ATの事業者の方々と共に運営実施にあたった広域連携DMOの一般社団法人東北観光推進機構の安西良太さんに詳細を伺います。AdventureWEEK2025 東北開催の経緯、概要をお聞かせください。

安西さん(以下、敬称略): 私ども東北観光推進機構は、アジア市場が先行している訪東北インバウンド層を、欧米豪市場に拡大していくための重要な戦略の1つとしてATを捉え、東北6県で活動する各事業者との関係性を築いてまいりました。今回のAdventureWEEK 2025 東北を共に創った東北各県の主要メンバーは、北海道で開催されたATWS2023への参加を大きなきっかけに、東北×ATの可能性に活路を見出し各々のエリアで活動を推進してきたキーパーソンばかりです。 そうした各地で活躍する事業者を広域でつなぎ、オール東北の"面"で東北×ATを推進すべく、AdventureWEEKにエントリーを続け、今回、念願叶ってAdventureWEEK 2025開催の地に選んでいただいたという流れです。

Adventure_Week_2025_03.jpg

▲トレイルを軸に展開したAdventureWEEK 2025©ATTA / Matt Corliss AdventureWEEK Tohoku 2025

広域連携を実現するため「東北6県の自然・文化を7日間で巡るATツアー」という大きな枠組みはあらかじめ決まっていましたが、どのように東北ならではのAT像を組み立てていくかは皆で幾度も議論を交わしました。 

そこで見出した2つのツアーコンセプトが、SpiritualityとResilienceです。ここで言うResilienceとは、回復力、他再生力、耐え抜き前に進む力を示しており、2011年の東日本大震災以降、甚大な被害を受けた人々が今もなお東北という地で連帯しながら生き抜き今日を迎えているその姿こそが、Resilienceであると私たちは定義しました。 

そして、そのResilienceを支えている精神性Spiritualityとは、太古から東北に恵みと、時に厳しい脅威をもたらしてきた雄大で寒冷な自然への信仰であり、具体的には山岳信仰に基づく出羽の山伏文化や森と自然と生きるマタギの文化、浄土平ボルケーノトレイルに根付く盆栽文化として現れているものだと捉え、この2つのテーマを組み合わせたコンセプトストーリーを軸に各県で内容を検討していきました。 

【主な旅程】  

DAY1:浄土平ボルケーノトレイル in 福島県 

DAY2:羽黒山2446段石段トレイル・湯殿山滝行体験 in 山形県 

DAY3:角館武家屋敷等のサムライエリア in 秋田県 

DAY4:マタギトレイル in 秋田県 

DAY5:みちのく潮風トレイル in 青森県、岩手県 

DAY6:浄土ヶ浜シーカヤック in 岩手県 

DAY7:商談会 in 宮城県 


Adventure_Week_2025_04.jpg

▲浄土平のボルケーノトレイル©ATTA / Matt Corliss AdventureWEEK Tohoku 2025

ー具体的なコースづくりはどのように決めていきましたか。 

安西: 初めに主なアクティビティの軸をトレイルと定め、東北ATを代表する「みちのく潮風トレイル」と、日本の修験道の聖地、出羽三山の2つをメインとすることに決めました。 

東北と言ってもそのエリアは広大であり、海側、山側等の地勢によって気候・文化が大きく異なります。そこで、太平洋側のみちのく潮風トレイルでは雄大な海岸沿いの風景と海トレイルを、日本海側に位置する出羽三山では神聖な山の営みと山トレイルを楽しんでいただくという流れを描きました。この2つのエリア設定は、ツアーコンセプトであるSpiritualityとResilienceに寄り添いながら東北の魅力を最大限に活かすという意図を込めています。 

さらにそこに、トレイルだけでは味わいきれない東北の文化や人の魅力を伝えようと、角館の武家屋敷見学や料理体験などの文化体験やシーカヤックなどを盛り込み、参加者の体力を考慮した緩急ある構成に練り上げていきました。 

Adventure_Week_2025_05.jpg
▲トレイルを軸としつつも、アクティビティも取り入れた©ATTA / Matt Corliss AdventureWEEK Tohoku 2025 

本番前の5月にはATTAによるファムコースのブラッシュアップがあり、ATトラベラーの"Why?"に応えるストーリーの伝え方をはじめ、屋内では靴を脱ぐなどの日本固有の所作等を入念に説明する必要があるなどの実務的な話も含め、多くのフィードバックをいただきました。 

食事面でも「三食、精進料理が続くが大丈夫だろうか」という懸念に対して「その食事自体が山伏修行の一環であるというストーリーが伝えられれば大丈夫」といったアドバイスがあり、大変参考になりました。 

また、JNTOからはAdventureWeek沖縄から得た学びである代案の重要性も聞いていたので、どの日程も荒天時だった場合を考慮したプランB、プランCまで用意して有事に備えることができました。

ー参加者の構成や反応について教えてください。 

安西: ファムトリップには、アメリカ・カナダ・オーストラリア・イギリス・イタリアの5カ国からバイヤー12名・メディア3名の方々が参加してくださいました。 

こちらの狙い通り、羽黒山2446段石段トレイルと湯殿山滝行の出羽三山の修行体験と、みちのく潮風トレイルを中心にどのコンテンツも参加者の方々から好感触を得られました。みちのく潮風トレイルで組み込んだ三陸鉄道の語り部列車でも、参加者から震災当時に関する質問が続々と出ていたことが印象的でした。 

「滝行の体験は素晴らしかった。すぐにでも読者に伝えたい」「トレイルのルート上でこれだけバラエティ豊かな要素が体験できることは東北の大きな魅力」というコメントも寄せられました。 

「東北には、まだ知られていない、本物(Authentic)の日本の魅力があることが分かった」という非常に嬉しい評価もいただきましたが、同時に「なぜ、これほど魅力的なデスティネーションが東京から新幹線で90分の場所にあることが広まっていないのか」という声もあり、適切な戦略を通して市場に届けることの重要性を改めて認識しているところです。 

Adventure_Week_2025_06.jpg

▲AdventureWEEK 2025でおにぎりづくり体験を楽しむ参加者たち©ATTA / Matt Corliss AdventureWEEK Tohoku 2025

ーAdventureWEEK2025 東北を終えて、どのような収穫がありましたか。

安西:一番の収穫は、東北各地で活動するAT事業者が同じ目的のもとに集まり、連携するために深い対話の時間を持てた、ということだと感じています。東北の強みは各地のAT事業者の強い想いと熱量です。今回のAdventureWEEKで関係者全員がそうした熱い想いを交わし合い、相互理解を深める機会を持つことができました。こうしてAdventureWEEK2025 東北を実現できたことが、東北AT全体にとっても非常に大きな経験値になったと受け止めています。

商談会に向けては、事前に東北観光推進機構主催でセラー14社を集めた場を設定し、セラー同士がそれぞれの販売商品やエリア、強みを確認し合いました。ここからさらに連携が発展していく気運が醸成されつつあります。 

今後はこの経験を活かし、東北外の他エリアとの連携も含めて東北が日本ATの可能性をさらに活性化する"台風の目"となることで、日本全体が魅力的なATデスティネーションとして世界市場から選ばれる未来像にワクワクしています。 

ニーズの多様性が広がるATの世界、各地に潜む地域活性のチャンス 

ーJNTOの谷口さんにお話を伺います。日本のATについて、今後の課題や展望を教えてください。

谷口:AdventureWEEK2025 東北で団結した関係者の方々は、ご自分たちのことを「ワンチーム」とおっしゃっている姿が印象的でした。この繋がりを今後も引き続きサポートしていくこと、そして海外に向けて、広域展開だからこそ楽しめるATの魅力を発信していくことが、JNTOの課題だと考えております。

ATWS2023 北海道を皮切りに2024年の沖縄そして今回の東北開催のAdventureWEEKという大きなイベントを終え、ATには実に多様なニーズがあることが見えてまいりました。海外の旅行会社の中にはATに該当する旅行商品のことを"nature experience"あるいはシンプルに"outdoor activity"と呼んでいるところもあり、名称の数だけ多様性が広がっています。 ということは、日本各地にもまだまだATによる地域活性のチャンスは潜んでおり、自分たちのエリアならどういう旅行商品が組めるのか一度検討していただくことで、新たな可能性が膨らんでいくのではないかと期待しております。

ー最後に、全国の地域・自治体・DMOの方々に向けてメッセージをお願いします。

谷口:今回のAdventureWEEKで東北のAT事業者の方々が見せてくれたチーム力に、改めて横の繋がりの重要性を再確認することができました。小さなエリアでのプロモーションだけでは誘客が難しくても、今回の東北のように、広域DMOとの連携により、広いエリアでのプロモーションも可能です。 

JNTOでは、勉強会やコンサルティングの機会、ネットワーキングの機会をこれからも用意しておりますので、ぜひご参加いただき、ATデスティネーションとしての魅力発信に一緒に取り組んでいきたいと考えています。 

Adventure_Week_2025_07.jpg

▲最終日に仙台で行われた商談会©ATTA / Matt Corliss AdventureWEEK Tohoku 2025