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観光CRMアプリを活用して、旅行者の利便性向上と地域経済の活性化に挑む~鹿児島観光コンベンション協会の取り組み~

観光CRMアプリを活用して、旅行者の利便性向上と地域経済の活性化に挑む~鹿児島観光コンベンション協会の取り組み~

観光CRMアプリを活用して、旅行者の利便性向上と地域経済の活性化に挑む~鹿児島観光コンベンション協会の取り組み~

▲©鹿児島市

旅行者のニーズの多様化や観光分野における急速なデジタル化等に対応するためには、旅行者のニーズを的確に把握し、客観的なデータに基づいた戦略を立て、地域マーケティングの推進やサービスの向上を図っていくことが必要です。 地域DMOの公益財団法人鹿児島観光コンベンション協会では、2022年から、観光CRM※アプリを活用し、鹿児島ファンを増やし、地域の消費増大・リピーター確保につなげる取り組みを行っています。 導入から3年目を迎える現在、デジタル技術の活用をきっかけに、旅行者の利便性は向上し、地域に好循環が生まれつつあります。これまでの取り組み概要や今後の展望について、DMO 戦略課長を務める岩﨑真吾さんにお話を伺いました。
※CRM:顧客情報管理システム  

観光CRMアプリで市内交通乗り放題チケットを販売、旅行者の利便性向上へ 

― はじめに、鹿児島観光コンベンション協会の概要と観光CRMアプリに取り組むようになった経緯について教えてください。

当協会は、鹿児島市および周辺地域の観光振興を目的とする組織で、2023年12月に地域の関係者の皆様とともに、DMOの活動指針となる『鹿児島市DMO戦略』を策定し、2024年3月に地域DMOとして登録されました。 この戦略では、『訪れる人の感動、暮らす人の幸せをつくる「稼ぐ観光」の実現』をビジョンとして掲げ、観光地域マーケティングや観光振興、MICE誘致などに取り組んでいます。 

近年、観光分野で急速なデジタル化が進んでいます。また、コロナ禍からの回復途上で、データをしっかり収集し、困った時に支えとなってくれる鹿児島ファンの方々に喜んでもらえる情報発信の重要性を痛感するようになりました。 

こうした背景から、鹿児島市では、観光再生に向けた実証実験として観光CRMアプリを活用し、2021年12月からの2カ月で約3,000人の会員を獲得しました。この結果を受けて、鹿児島ファンとつながっていくことができるよう、マーケティングを担当している当協会がアプリの運営を引き継ぐこととなり、2022年4月、観光アプリ「わくわく」の本格的な運用を開始しました。 

アプリでは、実証実験の時点から、コロナ禍前の実績を鑑みて、アジア圏を中心とした外国人旅行者もターゲットに含め、日本語の他、英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語にも対応しています。 

-鹿児島で実施している観光CRMアプリ には、どのような機能や特徴がありますか。 

加盟店の利用時にポイントを貯める・使うといった機能の他、デジタルクーポンの発行、デジタルスタンプラリーの実施、会員に情報を通知できるプッシュ通知機能があります。 また、鹿児島市内のバス、電車、フェリーに乗り放題のチケットを、このアプリから購入できるようにしたところ、訪日外国人旅行者の利用促進につながりました。 それ以前は、紙の乗り放題チケットを、観光案内所などで販売していましたが、職員からの提案をもとに、アプリ導入から1年半ほど経った頃、デジタルチケットの販売が実現しました。 これにより、観光案内所が営業している時間でしか購入することができなかった乗り放題チケットを、オンラインで24時間購入できるようになり、旅行者の利便性向上に寄与しています。さらに、これまで見えなかった利用者の国籍や周遊先の情報を入手できるようになり、旅行者の見える化にもつながりました。 

加えて、このデジタルチケットは会員登録にも一役買っています。鹿児島県内では、交通系ICカードの使用ができない場合があり、日本のお客様からも乗り放題チケットのニーズがあります。外国人旅行者の場合は、言語の問題も重なり、よりスムーズに移動したいという需要が高まる傾向にあります。そのため、紙のチケットを買おうとした外国人旅行者にアプリをおすすめすると、新規会員登録で付与されるポイントなどもインセンティブとなり、アプリをダウンロードしてくださるお客様も多いです。外国人旅行者の交通の困りごとをこのアプリが解消することで、ニーズに刺さっているのだと思います。

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▲1日乗り放題共通利用券CUTE(左:アプリで提供、右:紙のチケット) 

加盟店増加のカギは、成果の見える化と運用面の改善 

― アプリの登録会員数の状況を教えてください。また、会員数を増やすためにどのような工夫をしていますか。 

登録会員数は、2025年1月末時点で約3万2,000人です。県外の方が6割、県内の方が4割程度です。外国人の登録者は、韓国、香港、台湾といった東アジア圏を中心に約700人で全体の2%強です。 

会員数を増やすために取り組んでいることは、アプリの認知度向上です。当協会のウェブサイト「かごしま市観光ナビ」にアプリ情報を掲載したり、市電の中吊り広告を出したりイベント会場のブースで直接、来場者に声を掛けしたりしています。各加盟店におけるお客様へのお声掛けも大きな後押しとなっています。こうしたデジタルとアナログを組み合わせたメディアミックスの手法で、毎月500~1,000人くらいの幅でコンスタントに会員数を増やしています。 

― アプリの加盟店を増やしていくにあたってのご苦労や工夫などありましたらお聞かせください。 

加盟店数は現在、飲食店を中心に約100店です。加盟店を増やす取組としては、説明会を開催したり、個別でのご案内するなどしてアプリのメリットをお伝えしながら進めてきました。 

店舗側では一定の費用負担が発生するため、コロナ禍以降お客が戻ってきている状況ですとメリットを感じていただくことが難しいのですが、クーポンを使った施策や誘客につながる取り組みの成果がはっきり見えてくると、参加する店舗が増えそうだと感じており、費用対効果がわかるデータをお見せできるよう取り組んでいます。 

また、運用面でも改善が求められています。鹿児島中央駅周辺では、急いでいるお客様が多く、会計時のポイント付与の操作等に時間がかかり長い列ができることを懸念する店もあります。運用の簡略化などこうした課題の解消が進むと、加盟店が増えるのではないかと思います。 

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▲鹿児島市電 ©鹿児島市 

 

アプリをコミュニケーションツールとして地域事業者との関係を強化 

― アプリから収集したデータをどのように活用していますか。

ユーザー属性、店舗の利用状況などの収集したデータは、ファンづくり拡大を目指した旅アトの施策にも活用しています。日本全国で鹿児島物産展を行っていますので、プッシュ通知を使い、開催エリアに住む会員には物産展のお知らせを発信しています。また、訪問回数が多い会員にはクーポンの発行やポイントのプレゼントなど、リピートの循環を促進するような方法を試行錯誤しながら行っています。 

また、プッシュ通知で送ったアンケートへの回答も収集しています。アンケートで、「交通に関する乗り場や時刻表がわかりにくい」という意見が寄せられた時は、見やすい一覧表を作成するなど改善できる部分は速やか対処しています。 

その他、翻訳機能を通して多言語でのつぶやきを収集することもできます。「Wi-Fiを使える場所はないか」というコメントが入っていることがありますが、位置情報からその辺りのWi-Fiは弱いということがわかります。このようなデータから外国人旅行者の困り事を収集し、対策を講じていくこともできます。 

一方、加盟店に対するデータ活用としては、収集したデータの基本情報を、毎月メールで送っています。分析は2カ月に1回ほどのペースで行い、まとめたマーケティングデータを、3カ月から半年に一度、勉強会やメール、または、職員で手分けしての加盟店訪問によりお渡ししています。 

直接お会いして、アプリの利用方法やマーケティングレポートをご説明すると、日頃お客様と直に接している加盟店の方々から、私たちが把握していないリアルな観光の情報を共有してくださる機会も増えました。「今日は中国の方が大勢来た」、「韓国の方がこのようなものを注文された」といった生の情報を教えてくださることに加え、実はインバウンド誘客にも挑戦したいといった相談を持ちかけてくださる方もいらっしゃいます。 

このようにCRMアプリの取り組みをきっかけとして、加盟店をはじめとした地域の事業者様とのコミュニケーションを密にとることができるようになり、お困りごとを知ることができるようになりました。私たちDMOと地域の事業者様との関係性もよくなっています。 

当協会では、今後の重点目標のひとつにマーケティングレポートの充実を掲げていますが、データを集約して一元化する際、事業者の皆様がなにに困っているかを理解できていないと、よいレポートはつくれません。丁寧にヒアリングを行うことでこそ、よりよい提案や役に立つ情報のブラッシュアップができると思います。 

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▲左:DMOが提供するマーケティングレポート 右:鹿児島空港の国別入国者割合のデータ

 

旅行者の困りごと解消に、ファン獲得のヒントが 

― これまで、データ活用を通じて地域経済の収益向上につながった事例はありますか。 

2022年7月、桜島の噴火活動によって周辺地域への客足が一時落ち込んだことがありましたが、その際、データ活用によって来店者数の増加につなげることができました。噴火が落ち着いたあとも訪問者数が戻らない状況で、当該エリアのポイント付与率を20倍に上げるポイントアップキャンペーンを実施したところ、来店者数を増やすことに成功しました。 

また、お客様をいかに周遊していただくかは課題のひとつですが、スタンプラリーがきっかけで来店者数が増加した例や、デジタルクーポンの発行で来店につながったという報告も寄せられています。地域経済の収益向上というところでは、効果は少しずつ出ていると感じています。 

―今後、アプリの利用促進や観光サービスの向上に向けて、どのような取り組みを進めていきますか。

観光案内所や各店舗でアプリ利用の声掛けを引き続き行っていきます。更に、旅行者とより長くコミュニケーションする機会のあるゲストハウスなどの宿泊施設にもっと参画いただきたいと思っています。そのためにも、参画したいと思っていただける価値を備えた仕組みを整えていく必要があると考えております。 

加えて、インバウンド向けの旅アト施策を強化する予定です。具体的には、プッシュ通知を活用し、訪日外国人向けに鹿児島の花火大会や祭りなどのイベント情報を発信するほか、観光サイトの特集記事をアプリ経由で通知することで、訪問意欲を高め、再訪につなげることを目指します。 

また、アプリでデジタルの乗り放題チケットを販売したことが、スムーズに移動したいという外国人旅行者のニーズに応え、交通の困りごとを解消できたところに、ファンになっていただくヒントがあると思います。現在の乗り放題チケットにプラスして、いろいろな施設を一緒に回ることができる周遊チケットとして販売できると、外国人旅行者の快適な旅につながると考えています。 

―最後に、全国で観光DXに取り組む方々へのメッセージをお願いします。 

インバウンドが回復した今、東京、大阪、京都といったゴールデンルートに集中している訪日外国人旅行者を、いかに地方に誘客するかが課題になっています。 お客様がどのように回遊されるかを理解するためにも、観光CRMアプリが、非常に役立つものだろうと思います。私たちは今、それに挑戦し始めたところで、成功も失敗もありますが、それらを共有しながら、皆さんとともに地方への誘客に取り組んでいければと考えています。 

それぞれの土地に合った方法があり、お客様・地域のニーズ、抱えている課題が異なります。答えは地域の数だけあると思いますので、多くの方と意見交換をし、一緒に汗をかきながら改善を重ねていくことで、日本全体のインバウンドの発展につながっていくことを期待します。 

 

<参考サイト>

鹿児島ファンアプリ「わくわく」