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金沢の伝統工芸の匠に出会うプログラム「金沢一期一会」 ~地域の作家と連携した高付加価値商品の造成、販売の取り組み~

金沢の伝統工芸の匠に出会うプログラム「金沢一期一会」 ~地域の作家と連携した高付加価値商品の造成、販売の取り組み~

金沢の伝統工芸の匠に出会うプログラム「金沢一期一会」  ~地域の作家と連携した高付加価値商品の造成、販売の取り組み~

▲「金沢一期一会」で作家の工房を訪れる様子©金沢市

加賀藩前田家の城下町として栄え、加賀友禅や大樋焼、金沢箔などの伝統工芸が受け継がれてきた金沢市。同市では、工芸作家の工房などを訪れ、作家から直接工芸文化の魅力を学べる体験プログラム「金沢一期一会」が、インバウンド旅行者から注目を集めています。プログラムを提供する一般社団法人金沢市観光協会(金沢DMO)の最高マーケティング責任者である遠藤由理子さんに、地域資源を活用した高付加価値の商品造成の取り組みについて伺いました。
※所属組織、役職は取材当時のものです。

伝統工芸や食に魅力、インバウンドの約5割が欧米豪から

―はじめに、金沢市観光協会(金沢DMO)の役割や取り組みについて教えてください。

金沢市観光協会は、DMOとして金沢市と観光戦略を共有し、観光振興と観光地管理を調和させながら、地域全体の「稼ぐ力」を高め、持続可能なまちづくりを進めています。そのために、地域の観光事業者を支援、育成するとともに連携しながら、金沢の魅力向上に努めています。 

―インバウンドの観光戦略としては、どのような人々をターゲットにしていますか。金沢を訪れる外国人旅行者の状況も併せて教えてください。

金沢市と当協会は、2010年代の初めから欧米豪市場、特にイタリア、スペイン、フランスを最重点市場として観光振興に取り組んできました。その理由としては、金沢の観光資源や文化資源が、「ホンモノ」を求める欧米豪市場の嗜好(しこう)と親和性が高いことが挙げられます。加えて、金沢はコンパクトなまちですので、数を追うのではなく、質の高いサービスや体験を提供することで、高単価消費を効率よく促すことができると考えています。

こうした取り組みが功を奏し、2023年の外国人延べ宿泊客数で見ますと、金沢市を訪れた外国人のうち49.2%、約5割をアメリカやオーストラリア、イタリアといった欧米豪市場が占めています。全国の延べ宿泊者数における欧米豪シェア24.1%と比べると、非常に高いと言えます。

―金沢のまちや工芸文化にはどのような魅力がありますか。

金沢は、伝統工芸や伝統芸能が盛んなまちで、それらを体験する施設やアクティビティが多くあります。工芸では、加賀友禅や大樋焼、金沢箔、加賀蒔絵、加賀象嵌(ぞうがん)など26業種が受け継がれています。加賀藩前田家の歴代藩主が京都や江戸から名工を招へいし、そこに加賀伝来の素材や技術が加わったことで、武家文化としての厳格さと繊細さを併せ持った独自の文化が築かれました。また、これまで大きな災害や戦禍に遭っていないため、歴代藩主が推し進めた文化政策は、現在も人々の暮らしの中に浸透しています。

こうしたまちの魅力を伝えるため、金沢DMOでは2024年度「高付加価値化」「消費額向上」「北陸のハブ都市としての広域連携の推進」「データ・マーケティング」の4点に重点的に取り組んでいます。その中の、「高付加価値化」と「消費額向上」に関して、着地型コンテンツ創造の取り組みの一つが、今回ご紹介する「金沢一期一会」です。

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▲かつて茶屋街としてにぎわった町並みが保存されたひがし茶屋街©金沢市

高名な作家とふれあえる、高付加価値な体験プログラム

―金沢市観光協会(金沢DMO)が提供している伝統工芸体験プログラム「金沢一期一会」の概要や、プログラムが作られた経緯について聞かせてください。

「金沢一期一会」は、普段はなかなか入ることができない高名な作家の工房を訪れ、作家とふれあえるプログラムです。体験時間は1時間から1時間半程度で、工房やギャラリーを見学したり、作家から直接作品や制作工程についての話を聞いたりします。参加者から希望があれば、作品の購入サポートを行っています。現在は、江戸時代から続く大樋焼の陶芸家のギャラリーや加賀友禅作家の工房などを訪ねるものなど、6種類のプログラムがあります。

このプログラムは、高付加価値旅行者、高級志向の富裕層を呼び込むために、金沢の魅力と独自性の一つである工芸品と工芸文化をクローズアップしようと、2013年から造成を始めました。当初は主に首都圏の日本人向けでしたが、2015年に北陸新幹線が長野から金沢まで延伸したことから、インバウンドもターゲットに含めて同年に販売を開始したところ、旅行会社や訪日外国人向けメディアから徐々に注目されるようになりました。

その後、国内外の富裕層向けの旅行会社やDMC、ランドオペレーターなどとの商談会でプログラムをPRしてきましたが、2020年からのコロナ禍で参加者がほぼゼロの状態になってしまいました。本格的にお客様からの依頼を受けられるようになったのは、2023年ごろからです。

―プログラムの造成に当たり、どのようにして作家さんに協力を求めましたか。プログラムの提供体制についても教えてください。

金沢のクラフトのビジネス化を推進する金沢クラフトビジネス創造機構の協力を得て、作家さんの工房を訪問してプログラムの概要を説明し、作家さんの思いやご希望も伺いながら、参画をお願いしました。その際に、外国人旅行者が訪問しても大丈夫かどうかといった受け入れ環境についても確認をし、作家さんに「本当に興味がある方々に向けて、素晴らしい文化を発信していきたい」という思いを伝えました。

2024年度からは、地元のDMCと共同でプログラムを提供しています。プログラムへの問い合わせは当協会で受け付けますが、作家さんの活動になるべく支障が出ないように、当協会がコントロール、調整をしています。基本的に、仮押さえは受け付けません。金沢を訪れることが確実に決まっている案件をお受けしています。また、土日や祝日、早朝や夜遅い時間も外してもらっています。そこで了承が得られれば、地元のDMCが作家さんと日程を調整します。このような対応を取るのは、作家さんは観光素材ではなく、作家活動がメインだからです。作家さんとその活動をきちんとリスペクトしているからこそ、旅行会社にも理解を求めています。

なお、通訳については、プログラムを申し込んだDMCなどがガイドを手配するケースが多いですが、地元DMCにてガイドを手配することも可能です。

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▲金沢市観光協会の職員らもプログラムに立ち会う©金沢市

 

少人数で受け入れ、作品購入につながるケースも

―これまでの外国人旅行者の受け入れ状況や、プログラム参加者の反応について聞かせてください。

本格的にプログラムの提供を始めた2023年度は10数件実施しました。2024年度は30件程度の予定です。ほとんどが外国人旅行者の利用で、フランスやスイス、ベルギーといったフランス語圏の国々からのお客様が多いです。次いでアメリカで、ブラジルからの訪問もありました。作家さんの工房のスペースによって、受け入れ人数が限られるということもあり、夫婦や友人同士など2人での参加が多く、多くとも10人ほどとなります。

これまでの参加者の中には、自身がアーティストであったり、アートの学校に通っていたりなど芸術に関心のある方々がいらっしゃいました。作家の皆さんはホスピタリティにあふれた方々ばかりで、参加者の興味・関心に真摯に答えてくれるため、参加者の満足度は高く、作家さんへの質問も多いです。

なお、プログラムでの体験が、作品購入につながったケースもあります。例えば、加賀友禅の作家さんの工房を訪れたスイスからの夫婦は、下絵や糊置き、彩色などの工程を見学し、最後に着物を羽織ってもらったところ、「この鳥の絵が気に入った」と購入を決めました。着付けを体験することで、満足度がぐっと上がったようでした。

また、加賀蒔絵の作家さんにずっと会いたかったというブラジルからの3世代家族は、作家さんにオリジナルの茶わん制作をオーダーして帰国されました。

―これまでプログラムを実施してきた中で、どのような課題があると感じていますか。

まず、一部の作家さんに指名が集中し負担がかかっていることが一つです。作家活動にひずみが出ないためにも、新たにプログラムに協力してくれる作家さんの開拓に取り組んでいきたいです。

また、旅行会社向けの視察ツアーなどに参加した方の中には、私たち観光協会を通さずに直接作家さんに連絡を取り、交渉しようとする方もいます。ただ、1日の制作活動の流れがある、電話を好まないなどそれぞれの作家さんの事情がありますので、作家さんとの関係が築けている観光協会や地元のDMCを通していただくようお伝えしています。それが、作家さんの制作活動を守ることにもつながると考えています。

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▲プログラムでは、実際に体験できるシーンも©金沢市

 

作家へのリスペクトを忘れずに、上質なプログラムを構築する

―今後は、プログラムをどのように発展させていきたいと考えていますか。

プログラムの参加者に、高付加価値なプログラムであることを知ってもらうためにアテンドの方法を工夫していきたいです。作家さんに説明を任せきりにするのではなく、最初にプログラムに同行している当協会や地元DMCの担当者が「図案の作成から本仕立てまでの加賀友禅の15の制作工程を一気通貫で制作している工房は、金沢ではここしかない」といった説明をするなど、作家さんと私たちが一体となって特別感のある演出を行い、上質なプログラムを構築していく必要があります。

また、海外から来られるお客様に作家さんとのふれあいを楽しんでいただいて、作品購入につながるというのが一番良いのですが、作品の販売はかなりハードルが高いです。そのため、作品をお土産としてパッケージ化した商品の造成なども検討していきたいと思います。作家さんの特徴や作風を紹介できるカタログのようなものがあれば、作品の購入につながるのではないかとも考えています。

―最後に、その地域特有の資源を活用して高付加価値商品の造成に取り組もうとしている地域の皆さまへのメッセージをお願いします。

無理をして商品を作るのではなく、「ホンモノ」を見せるということが大切なのではないでしょうか。金沢一期一会の場合は、作家さんの普段の活動や制作工程を見せることが「ホンモノ」を見せることにつながります。

また、そのプログラムを提供してくれている方々をリスペクトする気持ちを持つことが大切で、商品のプロモーションの際などに、その気持ちを他の方々に周知していくことも必要だと考えています。

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▲漆器作家の工房で作品を見る参加者©金沢市

金沢市観光法人サイト「金沢旅物語