2025年1月20日
誰もが安心・安全に楽しめる、多様性あふれる街を目指して~IGLTA世界総会から万博に向けた大阪観光局の取り組み~

▲IGLTA2024総会レセプションの様子©Out Asia Travel
観光という枠にとらわれず、都市・経済・文化の政策として「世界最高水準、アジアNo.1の国際観光文化都市・大阪」を目指している大阪観光局。「多様性あふれる街」を事業展開のコンセプトの1つに掲げ、誰もが楽しめる街・大阪を目指した取り組みを進めています。 2024年10月に開催された、アジア初のIGLTA(※1)世界総会、2025年の大阪・関西万博という世界規模のイベントを通じて、多様性をあふれる街の実現に向けて取り組んでいる大阪観光局マーケティング戦略部長の牧田拡樹さん、インバウンドやMICE(※2)誘致・推進を担う立石衣利子さんにお話を伺いました。
※1 IGLTA: International LGBTQ+ Travel Association の略語で「LGBTQ +ツーリズム」の普及を目的に、1983年に設立された旅行業界。世界80の国・地域の旅行会社やホテル、航空会社、観光局などがメンバーとして加盟し、LGBTQ+ツーリズムへの理解を深めるための情報提供やネットワーク構築などに取り組んでいる。
LGBTQ+は、「Lesbian(レズビアン)」「Gay(ゲイ)」「Bisexual(バイセクシュアル)」「Transgender(トランスジェンダー)」「Queer/Questioning(クィア/クエスチョニング)」などセクシュアルマイノリティ(性的少数者)のことを意味することば。セクシュアリティ以外にも性のあり方は様々であることを、+(プラス)を付けて表現する。
※2 MICE: 企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議 (Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字を使った造語で、これらのビジネスイベントの総称
多様性あふれる街の実現に向けて、世界規模のイベントを大阪で開催
―はじめに、大阪観光局の役割と取り組みについて教えてください。
大阪観光局は、大阪府全域を対象とした地域連携DMOとして、府内の各市町村と連携して大阪の観光や、MICEに資する幅広い事業に取り組んでいます。また、インバウンドや国内外の富裕層の集客、観光案内所の運営、情報発信など多彩な事業を展開しています。
大阪は、「見る・食べる・触れる」を含めた五感で感じ、楽しむことのできる街です。そのような大阪を訪れるすべての人に、安心して自分らしく楽しんでいただきたいという思いから、私たち大阪観光局は、「持続可能な観光都市」を目指し、「LGBTQ+ツーリズム」についてもいち早く展開してきたところです。
2024年10月には、アジア初のIGLTA世界総会を大阪にお迎えすることができました。
特別なことはしなくてよく、自然体で接する
―LGBTQ+ツーリズムに取り組んだきっかけについて教えてください。
LGBTQ+ツーリズムに取り組むようになったのは2018年頃からです。それまで、大阪に来る訪日外国人旅行者は、韓国や台湾、中国、香港など東アジア圏の方が多かったのですが、欧米豪からも多くの観光客を誘致できないかと考えたことが始まりです。欧米豪のマーケットにリーチできる方法を調査したところ、LGBTQ+の層をターゲットにするのも一つの案ではないのかという結論が出ました。
当初、こうした取り組みに、センシティブな話題だと懐疑的な声もありましたが、世界中で様々な立場や考えの方がいる中でも、ツーリズムは平和でありたいという私たちの思いを理解してもらえるように対話を重ねてきました。
―これまでに、LGBTQ+ツーリズムの推進や旅行客受け入れのために、どのようなことに取り組んできましたか。
2019年に、LGBTQ+の観光客向けの総合情報サイト「VISIT GAY OSAKA」を開設しました。英語のみのサイトですが、当事者の方々が安全・安心に行けるゲイバーやレストラン、ガイドツアー、LGBTQ++フレンドリーなホテルなどを掲載しています。
また、毎年6月は、日本やアメリカなど世界各地でLGBTQ+の権利を啓発する活動・イベントが実施され「プライド月間(Pride Month)」とも呼ばれていますが、大阪でも、2021年からプライド月間キャンペーンをスタートしました。現在では府内の事業者が自主的に取り組んでくださっています。
この他、LGBTQ+に関する研修やセミナーなどを行う会社と共同で、ホテルや観光施設向けの研修パッケージ(フレンドリーパッケージ)を造成・販売しています。研修では、LGBTQ+についての理解を深め、LGBTQ+の方々のニーズや適切な接遇の仕方などを伝えています。特別なことはしなくてよく、自然体で接することが重要です。
▲LGBTQ+研修の様子
他地域と連携し、日本全体で誘致活動を推進
―2024年10月に大阪で開催されたIGLTA世界総会は、どのように誘致に取り組んだのでしょうか。
LGBTQ+ツーリズムに取り組むことになったものの、当初は何をすればよいのか分からなかったため、様々な方に相談しました。その中で、 現在LGBTQ+に関する研修やセミナーを一緒に実施している会社とつながり、IGLTAという組織があることを伺いました。そして、 LGBTQ+旅行者に大阪を安心、安全に楽しんでいただける観光デスティネーションの一つとして認知していただくために、IGLTAに加盟することにしました。
加盟後は、 2025年の大阪・関西万博につなげたいという思いから、2024年の総会をアジア初の総会として誘致することを目指しました。
具体的には、毎年総会に出席し、大阪について知ってもらうことから始めました。海外では、「日本=東京」というイメージを持つ方が多いので、2022年のミラノ総会では、大阪観光局自らパーティーのホストとなり、鏡割りをするなどして盛大に大阪をアピールしました。
▲IGLTAミラノ総会活動の様子
また、世界各国に、大阪だけでなく日本各都市の魅力を、LGBTQ+フレンドリー都市であることとともに発信するべく、LGBTQ+旅行者の受け入れに理解がある東京観光財団、福岡観光コンベンションビューローなどの観光団体、石川県などとも連携し、総会会場にブースを設けてPRも行いました。
こうした取り組みが、IGLTAの評価につながり、2023年3月、タイやスペインなど他の候補地を抑えて、大阪での2024年総会の開催が決定しました。普段は競合することも多い他地域の自治体や観光団体とも一緒に誘致したことは、非常に貴重な機会でした。
―IGLTA世界総会での取り組みや成果について教えてください。
受け入れ態勢については、会場や参加者が宿泊するホテルとの交渉やパーティーの準備などに取り組みました。
スイスホテル南海大阪(大阪市中央区)で開かれた総会では、セミナーや商談会が開かれ、欧米や南米、台湾、韓国、ベトナムなど51の国と地域から旅行会社やバイヤー、メディアなど575人が参加しました。
▲IGLTA2024総会の様子©Out Asia Travel
参加された方には、1日でも長く日本に滞在して楽しんでもらうために、プライドイベント(※3)やドラァグクイーンショー(※4)を同時期に開催してもらえるよう主催者に交渉するとともに、会場周辺の大阪・ミナミの商業施設や商店街などに協力いただき、共通のレインボーデザインのウェルカムバナーを掲示して歓迎ムードを高めました。
総会の前後では、ファムトリップを実施し、北海道、東京、石川、岐阜、奈良、福岡にも足を運んでいただきました。
IGLTAの役員からは「過去最高の総会だった。ポスターやサイネージも含めて街全体からウェルカムという雰囲気を感じた」と評価いただきました。
参加された方も、街中やホテルで楽しんで過ごしている写真をたくさんSNSに投稿してくださいました。
さらに、LGBTQ+の旅行者ニーズを調査・把握することは難しいといわれる中で、ホテルなどの観光事業者が、当事者の方々と直接つながりネットワークを構築できたことは、大きな成果だったのではないでしょうか。
※3 プライドイベント: LGBTQ+の権利を啓発する取り組み、イベント
※4 ドラァグクイーンショー:主に男性が女装し、パフォーマンスをするショーのこと
一人ひとりに寄り添うことのできる環境づくりを
―大阪観光局の今後の展望をお聞かせください。
大阪・関西万博を見据えて、世界最高水準、アジアNo.1の国際観光文化都市・大阪を目指していく中、今回のIGLTA世界総会の開催は、多様性のあふれる街を目指していく過程の通過点だと考えています。
今後も継続して受け入れ態勢を強化していくために、セミナーや研修などを行い、すべての方が安心・安全に楽しむことができるということを発信していきたいです。ユニバーサルツーリズムの1つとして、一人ひとりに寄り添うことのできる環境をつくることが大切です。
―最後に、全国でインバウンド事業に携わっている方々へのメッセージをお願いします。
私たちのような観光団体や自治体が、多様な旅行者に対して取り組みをすることが、地域のビジネスや活性化にもつながります。何か特別なことをする必要はありません。
多様な旅行者に対してオープンでフレンドリーな国だと感じていただき、安心・安全に楽しんでいただくことで、再訪してもらえるような良い流れを一緒に作っていきましょう。
■参考サイト:大阪観光局