2024年9月17日
地域と旅行者をつなぎリピーターを獲得~城崎ツーリストインフォメーション SOZOROの取り組み~
日本政府観光局(JNTO)は、2023年度に独自の取り組みで顕著な実績のあった5カ所のJNTO 認定外国人観光案内所を選定し、2024年2月に表彰を行いました。今回新たに設けられた「リピーター獲得」部門では、兵庫県の「城崎温泉ツーリストインフォメーションSOZORO」が選ばれ、旅行者のさまざまなニーズに対応した取り組みが評価されています。どのような工夫を凝らし、地域にどういった効果をもたらしたのか、SOZOROを運営する全但バス株式会社の田中菜穂子さんに話を伺いました。
地域と連携し、旅行者に役立つ情報やサービスをワンストップで提供
―城崎温泉および城崎ツーリストインフォメーション SOZOROの特徴について教えてください。
兵庫県北部の豊岡市に位置する城崎温泉は、日本情緒あふれる街並みに約190軒の旅館や飲食店が建ち並ぶ小さな温泉街です。関西からは直通電車で約3時間とアクセスも良く、最近ではJR-WEST RAIL PASSを利用して来られる訪日外国人旅行者も増え、「穴場の観光地」と称されています。
2015年にオープンした城崎温泉ツーリストインフォメーションSOZORO (以下「SOZORO」)は、JR城崎温泉駅前にあるJNTOの 認定を受けた外国人観光案内所です。地元のバス会社である全但バス株式会社が豊岡市からの業務委託を受けて運営しており3人のスタッフが常駐しています。観光案内の他、バスチケットやオプショナルツアー、施設の入場券やお土産の販売、レンタサイクルの貸出など多岐に渡るサービスを日本語と英語で提供しています。
―どの国や地域からの外国人旅行者が多く、どのようなお問い合わせが寄せられていますか。
2023年のSOZOROへの来訪者数は、日本人5万7624人、外国人8,636人で外国人旅行者については、ほぼコロナ前まで回復しました。
訪問の多い国、地域については、特産品の蟹がシーズンを迎える冬の時期は、香港、台湾、中国などアジア圏の方が増えますが、年間を通じて多いのはアメリカやオーストラリア、フランスなど欧米豪の方です。城崎温泉は、小規模な家族経営の宿がほとんどであるため、個人旅行のシェアが高い欧米豪をターゲットにプロモーションを展開してきたことや、温泉街にある7つの外湯(公衆浴場)はすべてタトゥーがあっても入浴可能なので、心置きなく湯巡りを楽しめることが、欧米豪の方が多い理由だと思います。
▲城崎温泉街の様子
SOZOROには、「初めて温泉に入るけど、何に気を付ければいい?」「小さな子どもはどうすればいい?」など温泉にまつわるご質問が多いので、英語の資料をお見せしながらご説明しています。また、旅館についてのお問い合わせは、近くの城崎温泉旅館案内所へご案内した上で、通訳が必要な場合はお手伝いもします。
―観光案内所のスタッフとして、普段から心がけていることはありますか。
「笑顔でいること」「ワンストップであること」「城崎のためになること」の3つを合言葉に、案内業務に留まらず、城崎温泉全体の魅力向上につながるようなアクションを心がけています。地域の行事にも積極的に参加し、店舗や施設の方々と良好な関係を築くことで、連携もしやすくなっているように感じます。たとえば、外国人旅行者を敬遠していたお店が、「SOROZOさんの案内なら」と送客を受け入れてくださったこともありました。信頼を得られたことがとても嬉しかったです。
旅行者同士の交流を生み出す口コミ掲示板で、リピーターを創出
―リピーター獲得の取り組みのひとつとして実施されている「そぞろ口コミ掲示板」とはどういうものですか。
旅行者が思い思いの口コミを書いて自由に貼っていただける掲示板スペースを、観光案内所の一角に設けています。城崎に実際に滞在した方の生の声は、きっとほかの旅行者にも役立つのではないかと思い、2015年のオープン時に設置しました。個人的に気に入ったスポットやおすすめのグルメ情報の共有の他、「ここに来たら何もせずにリラックスするべき」など過ごし方を提案してくださる方も多いですね。
この「そぞろ口コミ掲示板」を見た方が、「こんな場所もあるなら寄ってみよう」と滞在プランを考えるなど、旅行者間の交流が生まれていることが一番の喜びです。口コミを参考にした方が「自分も投稿しよう」と再び立ち寄ってくれたり、別の季節に再訪するきっかけにしてくれるなど、リピーターの拡大にもつながっていると感じています。スタッフが気づかなかった楽しみ方やお店の最新情報も教えていただけるので、とても参考になります。
▲SOZOROのロゴである下駄をかたどった紙も「カワイイ」と評判に
―口コミを活用して行ったことはありますか。
口コミの中には、「もう少しこうしてほしい」といった改善点が書かれていることもあります。そうしたご意見は、管轄する団体や組織に共有しています。「食べ歩きのお店が多くて楽しかったけれど、ゴミを捨てる場所がなくて困った」という投稿を受け、ゴミ箱設置の検討を始めるとともに、すぐにできることとして、町役場の働きかけにより清掃活動が行われたこともありました。
また、口コミを整理分類していくと、外国人旅行者がほとんど訪れていない場所があることがわかりました。そのひとつが、城崎温泉から約4kmの、気比(けい)の浜です。白い砂浜が広がる遠浅の美しいビーチなのですが、交通手段も少なく名前もあまり知られていないようでした。そこで、旅館での昼食とビーチを楽しめるレンタサイクルのツアーを企画・販売することにしました。電車やバスが通っていないエリアにも気軽に立ち寄れるように工夫をし、地域の幅広い魅力を旅行者に体感してもらうことで、ファンやリピーターの拡大につながることを期待しています。
―他にも利用者の満足度を高めるために取り組んでいることがあれば教えてください。
2019年から、「GETA GUIDE」という英語の観光案内冊子を、SOZOROで制作し設置しています。 季節に応じた城崎地域の魅力を伝えたいという思いから、春夏版と秋冬版と年2回発行することにしました。情報は基本的に自分たちで集めますが、「そぞろ口コミ掲示板」の口コミを活用することもあります。おすすめの飲食店やショップ、周辺の観光地などを地元住民の目線で紹介し、外国人旅行者に地域の特色をより深く感じてもらえるように工夫しています。紹介している情報について詳しく聞きたいという方もいらっしゃって、直接反応を得られることが嬉しいです。
▲訪日客に人気のGETA GUIDE。なかには、手に取って写真を撮られる方もいるという
日々の業務としては、アンケートの収集もあります。時間がありそうな方や駅で電車を待っている方に観光案内所のスタッフが声をかけ、宿泊や日数、立ち寄った場所、使った金額など約20項目の質問に回答いただくというものです。まとめたデータは、観光案内所の機能向上に役立てる他、豊岡市にも報告書を提出し、地域全体のインバウンドの対応力向上やプロモーションに活用してもらっています。
旅行者と地域をつなぐ「ハブ」として機能する観光案内所
―インバウンドによる地域の活性化において、観光案内所としてどのような役割を担っていきたいと思われますか。
旅行者と地域をつなぐ交流拠点として、ハブ的な役割を果たす存在であり続けたいと考えています。訪日外国人旅行者の声を拾い集めて地域に共有し、新しいインバウンド施策のきっかけになればうれしいです。また、旅行者だけでなく、地域住民からも頼られる場所であることを大切にしています。観光案内所は、ホスピタリティ産業だと思うので、「人とのつながりを大切にする」という本質を忘れずに、今後も多くのコミュニケーションを生み出していきたいと思います。
―最後に、リピーター獲得への取り組みを考えている観光案内所の方々にメッセージをお願いします。
「そぞろ口コミ掲示板」などの取り組みによって旅行者との距離が縮まり、会話も自然に生まれています。その上で改めて大切だと感じるのは、私たちスタッフ自身が人として魅力的であることです。「あの人がいるからまたここに来たい」「あの人がいるからこの地域は素晴らしい」と思ってもらうことができれば、より熱心なファンやリピーターの獲得につながると思うので、ぜひ一緒に頑張っていきましょう。
▲SOZOROで働くスタッフの方たち。向かって右が話を伺った田中菜穂子さん
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