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アドベンチャートラベルで、地方の観光ポテンシャルを開花させる

アドベンチャートラベルで、地方の観光ポテンシャルを開花させる

アドベンチャートラベルで、地方の観光ポテンシャルを開花させる

鶴雅リゾートは、阿寒地域の関係事業者と連携してアドベンチャートラベル(AT)のツアー実施や、阿寒エリアのAT拠点の造成など、地域の中核となってAT振興に取り組んでいます。日本の各地域でAT観光を根づかせるためには何が必要なのか? 同社営業部副部長でもあり、Adventure Travel Trade Association (ATTA)のアンバサダーとしてもご活躍の高田健右さんに話を聞きました。

対象地域
北海道阿寒地域
主要観光資源
阿寒湖、アイヌ文化、アドベンチャートラベル、温泉
公式サイト
https://www.tsurugagroup.com/

阿寒地域には、ATにぴったりの資源があふれている

―鶴雅リゾートと阿寒地域が、ATに取り組むことになったきっかけについて教えてください。

阿寒湖温泉にある当社の施設では、以前はインバウンド客の受入を3割未満に抑えていました。インバウンド客が多くなりすぎることにより、日本人のお客様との摩擦が起こることを懸念していたのです。しかし、2015年に大雪があり、多くのお客様がホテル外に出られなくなったことがあったのですが、旅程変更へのクレームが殺到してもおかしくない場面で、旅慣れた様子の欧米のお客様が「雪で動けないからしょうがないよね」と言いながらラウンジで楽しそうにワインを飲み始めたんです。ゆとりある旅程でアクシデントまでも楽しもうとするお客様の余裕を感じました。この出来事を契機に、欧米豪のインバウンド客を積極的に受け入れていこうという方針に転換したのです。

さっそく、海外の旅行マーケットを調査するなど、インバウンド誘客に向けた検討を開始しました。その過程で経済産業省北海道経済産業局から提案を受けたのが、アドベンチャートラベル(AT)だったのです。まずは、「アドベンチャートラベルとは何か?」について勉強するため、当社の取締役が2015年にアラスカで開催されたATの世界大会『Adventure Travel World SummitATWS)』に参加し、主催者であるAdventure Travel Trade Association ATTA)のメンバーと面会して話を聞きました。

2017年には、ATTAの役員を北海道に招き、道東のアイヌ文化や知床世界遺産等の多様なコンテンツを紹介するとともに、AT関係者とのネットワーク形成の場である『アドベンチャーコネクト』を開催。2019年にはATTAと連携したFAMツアー『アドベンチャーウィーク』を開催し、AT関係の商品開発をする旅行会社やメディアに道東地域を実際に見ていただきました。このように、ATWSアラスカへの参加をきっかけに、阿寒湖を中心とした北海道・道東エリアにおけるATの取組が始まったのです。

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―阿寒地域、道東地域におけるATの特徴、ポテンシャルについて教えてください。

ATTAは、AT3要素として「自然」「文化体験」「アクティビティ」を挙げています。

「自然」の観点では、阿寒地域は国立公園に指定される以前から、民間の財団が自然環境の保全と適正な利用に取り組んできた経緯があり、阿寒湖や湖を取り巻く森など、豊かな自然が残されています。

「文化体験」の観点では、この地域には先住民族であるアイヌの文化が根ざしていました。独自の文化・神話をもつアイヌ文化は、ATにおける道東エリアのアドバンテージとなります。

そして「アクティビティ」の観点では、日本百名山にも選ばれている阿寒岳での登山やスキーなどを楽しむ際、アクセスしやすいという点で高いポテンシャルがあります。

従来型の観光視点で見ると、地元に住んでいる者としては「マリモやタンチョウヅル以外、何も見せるものがない」と思っていました。しかし、ATを目的とした旅行者の視点であらためて地域を見つめ直してみたところ、「ここにはATにぴったりの資源があふれている」と気づいたのです。また、ATのお客様は、4泊、5泊といった長期滞在が特徴ですから、そこから「長い期間、阿寒湖温泉や道東地区を楽しんでいただけるのであれば、まだまだこんなこともできますよ」というご提案をすることで、新たなアクティビティの発掘へもつながっていきました。

アクティビティを発掘する過程では、「地域が提供したいアクティビティ」と、「ATを楽しみたいお客様のニーズ」とのギャップを埋めていくことが最も大変でした。例えば、私たちは「この神社を見てほしい」と思うのですが、ATのお客様は「いや、神社に行くまでのプロセスが大事だ」となる。逆に、私たちが「これを見せても楽しんでもらえないんじゃないか」と思うものが「これは素晴らしい! 世界に見せるべきだ」と言われたりするのです。こうした経験の中で「あぁ、そういうことなのか」と気づくことも多くありました。2020年に日本アドベンチャーツーリズム協議会を発足させて以来、私自身、多くのお客様をガイドしてきたのですが、「訪日客が日本文化に何を求めているか」という認識の溝がこんなに深いのかと気づかされました。その溝を埋めるためには、失敗を覚悟でお客様に提供してみて、フィードバックをもらうことをコツコツと積み上げていくしかないと思っています。

地域を「まるごと体験する」ことで、忘れられない旅になる

―ATのツアーを造成する際に、気をつけるべきポイントについて教えてください。

日本の方に「アドベンチャートラベル」と言うと、ほとんどの人が文字通りアドベンチャー(冒険)のようなハードなアクティビティを連想されます。しかし、ATTAが掲げるATを私なりに解釈して、日本が目指すべきATを表現するならば、その土地の歴史や文化、そこに住む人たちの営みを「自分自身で体感する旅」だといえます。人気のテレビ番組でも、タレントが街歩きをしながら、専門家にその土地の成り立ちから地域の歴史文化、人々の暮らしなどを現場で説明してもらい、街の魅力をひとつのストーリーとして紹介していく番組がありますね。それも、ATにあてはまるのです。

つまり、ATでは、さまざまなアクティビティを個別のものとして紹介するのではなく、アクティビティを貫くストーリーが必要だということです。例えば、阿寒湖温泉なら「登山」「アイヌの民族舞踊」「料理」などのアクティビティが挙げられます。一見、別々のアクティビティに見えるけれども、当然のことながら同じ土地の歴史の中で生まれ、育まれてきたものですから、本来はひとつのストーリーとしてつながっているはず。そのストーリーを丸ごと紹介するのです。

例として、雄阿寒岳には「ピンネシリ(男山)」、雌阿寒岳には「マチネシリ(女山)」というアイヌ語の名称がついています。アイヌ舞踊の中には、このアイヌ名とともに山々を表現した振付が出てきます。こうした説明を加えることで、旅行者はより興味深く踊りを楽しむことができるでしょう。同様に料理でも、「この魚は阿寒湖で捕れたものです。雄阿寒岳や雌阿寒岳の恵みを受けて育った魚です」「雌阿寒岳は活火山なんです。火山の恵みである温泉を使ってできたのが、この温泉卵です。アイヌの人々も昔から温泉に入っていたんですよ」というようなストーリーを知れば、この土地をより深く理解することができます。

地域の歴史、文化、人々の営みを「まるごと体験する」からこそ、訪れた人たちの記憶に残る旅になるのです。

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―ATは、日本の観光客には、どのように受け入れられるのでしょうか?

鶴雅リゾートでは、2019年にATツアーの販売を開始しました。当初は欧米豪のインバウンド客をターゲットとしていましたが、コロナ禍でインバウンド客が来なくなったため、日本人のお客様を積極的に受け入れるようになりました。

18時間の登山ガイドツアーで7万円」といった料金設定は、日本の観光客には受け入れられないだろうと思っていたのですが、意外なことに多くの予約が入りました。そして、インバウンド客と同じようにガイドすると、日本のお客様も満足されるんです。例えば3万円のフィッシングツアーに家族で参加されたお客様からは「今回の旅行で、8歳の子供が釣りに目覚めました」 という喜びの声が寄せられました。

こうした経験を経て、「海外の人だから」「日本人だから」と区別する必要はまったくないのだなと感じています。英語でガイドするか、日本語でガイドするか、それだけの違いなんです。日本人の中にも、特に40代~50代の方たちの中には「もっとアクティブに旅行を楽しみたい」という潜在的ニーズは従来から存在していたのかもしれません。コロナ禍を経て、その潜在的ニーズがあぶり出されてきたように感じています。

―地域のステークホルダーとの連携については、どのように考えていますか?

AT市場獲得のためには地域一体となって取り組む必要があるため、目指すべき方向性を定め、関係機関のATに対する理解を深め、連携することが不可欠です。従来の観光では、各関係者がそれぞれの領域で仕事をすることで観光業として成り立っていましたが、今後は地域総がかりで取り組まなければ、観光客は集まりません。

例えば、「自然を活用したアクティビティ」という分野では、環境省をはじめとした行政機関、お客様の最初の受入ではDMCDMO、そして各種アクティビティガイドや宿泊施設、レストランなどの民間企業、こうした地域全体の連携が不可欠です。

鶴雅グループでは「自分たちの宿泊客に対して最高のサービスを提供する」ことが基本でしたが、今後は、「このアクティビティを楽しみたいけど、鶴雅グループのホテルでは宿泊費が高すぎる」というようなお客様に対しては、「地域内の別の宿に宿泊していただき、アクティビティガイドは鶴雅グループから派遣します」といったような柔軟な対応が必要になってくると感じています。これまでのように「ウチが!ウチが!」ではダメで、「地域として来てくださったお客様にどのような体験をしてもらいたいか」が重要なのです。

―今後、取組を進めていく上での課題がありましたら教えてください。

「ガイド人材の確保」です。従来は、外国語を話すスタッフ12名で対応できていましたが、現在はこれでは対応しきれない状況です。さらに「外国語を話すアクティビティガイド」となると、圧倒的に足りない状況です。アクティビティガイドには、特定のアクティビティに関する技術や知識に加え、対人スキルやショーマンシップなどの能力も必要になってきます。日本アドベンチャーツーリズム協議会やATTAが「ガイドスタンダード」を定めていますので、今後はこうしたスタンダードに沿った育成が必要になるでしょう。

今後、こうしたマルチスキルを身につけたガイドを持続的に育成していくためには、待遇面での改善も必要になってきます。現在ガイド事業だけで生計を立てることは難しいと言われますが、例えば、鶴雅グループでは、ガイドがホテルマンとして勤務することで、生活の基盤を確保しながらガイドとしてのスキルを向上させていくことができます。今後は、このような形でガイド人材を育成していくことも大切だと思います。

日本が「ATのデスティネーション」として世界的に認められるチャンス

2023年9月に北海道でATWSが開催されることの意義について教えてください。

アジアで初のリアル開催となるATWSということで、世界各地のライバルに一歩先んじることができる。そして北海道をはじめ日本がATのデスティネーションとして世界的に認められ、国内外に発信できることが重要な意義だと思います。

日本のATはまだ成長段階ですが、アジア地域で見た場合、「複数のアクティビティをストーリーとして提供する」ことができる国は、まだ限られています。アジアにおけるATのパイオニアとしての地位を確固たるものにするためにも、このチャンスを最大限活用すべきです。

そして最も重要なのが、今後、ATのデスティネーションとして地域をプロモーションしていくに向けて、「このコンテンツは海外で通用するか」の答え合わせができる点です。ATWSには世界中のトラベラーが集まり、商談会も行われます。その際に「うちの地域ではこんなアクティビティを用意していますが、これはウケますか? ウケませんか?」という答え合わせがその場でできる。この点は、日本開催の大きなメリットだと思います。

―今後、日本においてATを普及していくためには、何が必要なのでしょうか?

普及のためには、「まず地元の人間が地域を理解し、それを売り出す努力をすること」が大切だと思います。例えば、札幌の人が阿寒湖の魅力を伝えようとしても、必ず足りない部分が出てくる。その地域で生まれ暮らしている人にしかわからない地域の魅力は、必ずあると思います。まずは、足元の地域資源を見つめ直し、「新しいものをつくる」のではなく、第三者の視点でアドバイスを受けながら「どうしたら魅力的に見えるか」「どう改善すれば楽しんでもらえるか」を考え、磨き上げていくことが大事だと思います。

―全国の自治体、DMOの方々に向けてメッセージをお願いします。

日本全国どの地域にも必ずATのポテンシャルはある。これは間違いないことです。皆さん、自信を持ってほしいですね。

日本は島国ということもあり、世界の中でも独立したユニークな伝統・文化を持っています。その意味では、地域の日常の暮らしを見せるだけでも観光客は喜んでくれると思います。「この地域には見せるものは何もない」と決めつけることなく、「第三者に聞いてみる」という勇気が必要だと思います。

今後は、観光が日本の基幹産業のひとつになっていくことは間違いありません。いまインバウンド向けの観光振興に取り組まなければ、地域が消滅してしまう可能性もある、というくらいの危機感を持つべきだと思います。ぜひ一緒に、アドベンチャートラベルの普及に取り組んでいきましょう。

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