2018年9月10日
寄港船をきっかけとしたインバウンド対応
「平成28年度商店街インバウンド実態調査モデル事例」(発行:平成29年3月 経済産業省 中小企業庁)から、高知県高知市にある高知市中心商店街の取り組み事例をご紹介します。 <タイプ> 広域型商店街 <立地環境> JR高知駅から大通りを南へ約500m徒歩10分程度の距離にある高知市の中心商業地 <店舗数> 420店舗
- 対象地域
- 高知県
- 面積
- 7,103.86平方キロメートル(平成29年10月1日現在)
- 総人口
- 707,842人(平成30年5月1日現在)
- 主要観光資源
- 四万十川、はりまや橋、桂浜、高知城、足摺岬、海洋堂ホビー館 四万十、よさこい祭り
- 公式サイト
-
https://www.shikoku.gr.jp/
http://www.attaka.or.jp/
http://www.welcome-kochi.jp/
プロフィール
高知市中心商店街は、はりまや橋から主に西へ連なる8商店街の総称である。「大橋通り」「帯屋町二丁目」「帯屋町一丁目」「中の橋」「おびさんロード」「壱番街」「京町・新京橋」「はりまや橋」という8つの商店街が長いアーケードの下でつながっている。
2000年12月に高知駅北口に大型スーパーが開業すると、人の流れは北に集中し、南側の商店街に向かう客足は減少。近隣にあった2つのデパートは閉店し、商店街内の中核デパート「高知大丸」だけが残った。また同時期から高知城をメインにした日本人向け観光ツアーの人気も急激に下降線をたどり始めた。近隣の買い物客と日本人観光客という大きな収入源を欠き、商店街は苦しい時期を迎えることになった。
インバウンド事業取組の背景
2015年、海外からのクルーズ船が高知港に寄港することになり、乗船客が大挙して商店街を訪れるようになった。商店主にとっては多くの外国人観光客を相手にするのはこれが初めてで、まだ「インバウンド」という意識すらなく、言葉も通じず勝手もわからない状況の中で対応を行うこととなったが、結果としては売上の増加につながった。
この出来事は、商店街に変化をもたらすきっかけとなり、商店主たちはクルーズ船寄港による経済効果を認識し始めた。時を同じくして高知県が「インバウンド誘致」の方針を打ち出し、翌2016年度のクルーズ船の入港予定が20回になると聞いて、商店街はインバウンド対応を意識した取組の強化を行うことを決めた。
また高知港へのクルーズ船寄港とともに、四国内では高松、松山の両空港において台北をはじめとするアジア各地との直行便が就航したことを受け、外国人観光客のさらなる増加が見込まれたことも、受入環境整備を行う意識の向上につながった。
取組のポイント
商店街におけるインバウンド対応を大きく前進させたのは、免税手続一括カウンターの導入である。2015年7月、商店街内の中核デパート「高知大丸」との免税手続一括カウンター設置に向けた協議が始まり、同年12月に参加店舗の募集を開始したところ、事務局の予想を上回る53店舗が参加することになった。
2016年3月30日、免税手続一括カウンターの運用を開始。免税手続の簡素化により各店舗の外国人観光客数と売上は確実に増加し、現在も参加する店舗数が増えている。
また、より効果的な取組につなげようと、外国人観光客のニーズを把握するためアンケート調査を実施した。内容は「あなたはベジタリアンですか?」「宗教上の理由から食べられないものはありますか?」といった食に関するものであったが、この取組が商店主のインバウンド対応への意識向上につながり、これ以降、各店舗は外国人観光客の集客のため様々な工夫を凝らすようになった。例えば、人気がある商品をまとめた「パッと買えるセット」を販売するなど、外国人観光客が商品を選びやすく、また、店頭での対応が簡略できるような方法が生まれている。
取組の全容及び事業実施体制
商店街では、免税手続一括カウンターの設置のほか、Wi-Fiの整備、マップ・パンフレットの多言語化、クレジットカード決済端末の導入を行うことで、外国人観光客が買い物しやすい環境整備に取り組んでいる。
またクルーズ船寄港数は2016年度には20回、2017年度には21回の予定となっており、今後も外国人観光客の増加が見込まれている。寄港する一番大きな船の定員は4,200人で、乗船客の国籍も多様だ。
このような状況を踏まえ、商店街は高知県の「おもてなし課」と連携し様々な取組を行っている。クルーズ船寄港時に行なう「ミニイベント」では、寄港する船の規模や乗船客の国籍などを事前に確認してからイベント内容を決定するというルーティンを作った。このルーティンの創出により「三味線の披露」「お茶席の開設」「よさこい踊り体験」「エコバック作成体験」などそれぞれの乗船客の性質に合わせたバラエティに富んだおもてなしメニューが誕生した。また、これまで行ってきた個々のおもてなしメニューの実施ノウハウを蓄積することによって、対応の幅を広げるとともに、継続性も高まっている。その他「臨時観光案内所」の開設や「まち歩きサポート」の実施など、寄港する外国人観光客が短い滞在時間を有効に過ごせるような滞在支援も行っている。
取組みのプロセスで生じた課題と対応
商店街にとっての一番の課題は「言葉の壁を乗り越える」ことである。ほとんどの商店主と店舗スタッフは外国人観光客との会話に不安を持っている。この不安を軽減しようと、各店舗には多言語対応の指さし会話ボードを配布しているが、店舗側が伝えたい内容をボードで指さすだけではなく、外国人観光客にも言いたいことを指してもらう必要があり、やりとりが長引いた結果、結局購入に結びつかないというケースもある。
中国や台湾からの来街者に対応する場合は、指さし会話ボードではなく筆談が有効な場合があるなど、外国人観光客に対する販売促進活動はスタートしたばかりで、試行錯誤を繰り返している状況だ。商店街では次のステップとして翻訳アプリの活用を進めており、各店舗スタッフが外国人観光客とのやりとりにまず慣れることが重要だと考えている。
成果・継続へ向けた視点
台湾から松山空港経由で訪れた外国人観光客(右)
外国人観光客の来街は確実に増えており、それにともなって売上も増加傾向にある。これから商店街として目指すべきことは、この好調さを継続するためにインバウンド対応の質を上げることと外国人観光客のリピーターを増やすことである。
現在、クルーズ船が寄港したときの免税品の売上と、寄港していない平常時の売上を比較すると、51:49 となっており、クルーズ船が寄港しない日でも売上に大きな差は現れていない。平常時に商店街を訪れる外国人観光客は、松山、高松とアジア各地を結ぶ直行便から高知へ流れていると考えられ、少人数のグループもしくは個人客が多い。クルーズ船を利用する団体客以外にも、これらの層へ向けたインバウンド対策も強化することが必要である。商店街の魅力を外国人観光客に積極的にアピールできれば、リピーターの創出にもつなげられると考えていることから、例えば、隣接する「ひろめ市場」での飲食と買い物など、高知県民の日常に触れられるスポットなどをもっと宣伝していきたいと考えている。
キーマンからのアドバイス
山中 範博氏 協同組合帯屋町筋 事務局
言葉の壁は大きく立ちはだかっています。英語会話の講座も時々やっていますが、商店主の出席率はまだあまり高くありません。危機感を煽るようなことはしたくありませんが、自分たちなりの方法を考えていくと、みんなのんびりした性格のためか、いつも「何とかなるだろう」というような結論になってしまいます。
しかし、これもある意味で当たっているような気がしています。そのうち外国人観光客にも慣れてくる。慣れたらまた別のやり方が見えてくるというようにです。
インバウンド対応というのは、粘り強く時間をかけて取り組まないとうまくいかないものばかりだと思います。言葉の問題も同じで、明日すぐに解決する話ではありません。それでも今日より悪くなることはありません。地道に一つずつ課題を解決していくことが重要だと思います。
<協同組合連合会 岡山市表町商店街連盟、協同組合岡山市下之町商店会(岡山県岡山市)
魚町商店街振興組合(福岡県北九州市)※9/18更新予定>